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「人を大切にする経営」でいい会社をつくる。

いま世界で、企業を見る目が大きく変わり始めています。株主だけでなく多くの関係者の利益を考える経営を実践し、成長を続けるいい会社が登場しています。いい会社とは何なのか? いい会社をどうやってつくるのか? 実践する企業の事例ととともに紹介します。

(掲載日 2021/03/24)

「人を大切にする経営」でいい会社をつくる。

■世の中の新しい流れ


 2020年からのコロナ感染の中で時代の潮目が大きく変わっていることにお気づきの方も多いかと思います。企業活動に関する大きな動きとして、行き過ぎた株主資本主義によって生じた格差の拡大による社会の分断が、米国をはじめとした国々で大きな政治課題となっています。2019年、米国の最大規模の経済団体であるビジネス・ラウンドテーブルは「会社の目的に対する声明」の中で、顧客、従業員等すべてのステークホルダーの利益のために会社を導くことを宣言しました。2020年のダボス会議では、ステークホルダー資本主義(株主だけでなくすべての関係者への適切な利益に配慮すること) がテーマとして取り上げられました。

■いい会社とは


 いい会社というと儲かっている会社だと思いがちですが、そうではありません。まさに近江商人の「買い手よし」、「売り手よし」、「世間よし」の「3方良し」の伝統を受け継ぎ、その会社に係る関係者が幸せになる会社なのです。いい会社は関係者を幸せにします。適切な対価で課題を解決する製品やサービスを、顧客に提供することで幸せにします。さらに、従業員に安心・安全な環境を提供し、仲間との絆で結ばれ、使命感を持って共通の目標に向かって進む中で、自己実現を実感させ幸せにします。協力会社には取引を通じて事業の発展と生活の安定の機会を提供して、幸せにします。さらに、環境改善や雇用確保、税金の納付により地域を幸せにします。株主には、配当金で報いて幸せにします。

 日本には多くのいい会社がありますが、中でも年輪経営で有名な伊那市にある伊那食品工業株式会社は代表的ないい会社です(*1)。これまで延べ132社のいい会社が、人を大切にする経営学会(https://www.htk-gakkai.org/)の「日本で一番大切にしたい会社」大賞の各賞を受賞しています。2020年7月の第10回大賞表彰式ではライオン株式会社が経済産業大臣賞を受賞しました。

写真出典 人を大切にする経営学会提供


 大賞を受賞するには、50項目以上の大変厳しい基準を満たさなくてはなりません。しかし、これらはすべて結果です。いい会社になるには、元法政大学大学院教授の坂本光司氏が標榜しておられる「人を大切にする経営」をしなくてはならないことを忘れてはなりません。



■なぜ「人を大切にする経営」をするといい会社になるのか


 「人を大切にする経営」を実践することで、従業員が会社の目的の実現を目指し、共同して仕事をするようになります。同時に従業員が自律的に行動するように変化し、気持ちが自己肯定的になります。これにより一人一人がそれぞれの能力をフルに発揮し、大きな成果を生むことができるのです。ドラッカーの「マネジメント」に出ている有名な3人の石工の話があります。「何をしているか」と聞くと、一人は「金を稼ぐため。」、一人は「固い石を切っている。」、三人目は「多くの人の安らぎの場となる教会ができる。」と答えます。高い志を持つ三人目の石工がやりがいを感じて、大いに動機付けされており、一番能力を発揮するだろうと思います。

 人を大切にする経営では、従業員を人財として扱い、強い動機付けによって生産性の高い事業を実現します。誰一人として犠牲にすることのない効率の高い事業運営の結果、会社は高い業績を、従業員は物心両面の幸福を手に入れることになります。

■「人を大切にする経営」の始め方


 「人を大切にする経営」は、従業員とその家族、協力会社とその家族、顧客、地域社会、株主、という5人の関係者の幸せを実現する「五方良し」の経営です。まず、第一に従業員とその家族の幸せを考えます。これに疑問を持たれる方も多くあるかと思います。「儲かってもいないのに従業員のことは考えられない。まず、商売をうまく回して利益を上げなくては、それができない」と考える方も多いでしょう。しかし、よく考えてみて下さい。商売をするためには顧客と取引ができなくては始まりません。顧客との取引は、顧客の持っている課題解決に他なりません。そして、課題を解決できる価値ある商品・サービスを開発し、提供することは従業員でしかできないのです。従業員が進んで、嬉々として商品・サービスを提供できるような職場環境を作る事が必要となります。



■「人を大切にする経営」の環境作り


 経営理念で表現された社会的な使命を、全社で一丸となって実現しようとする職場を作らなければなりません。経営理念に共感した従業員は、その実現のために自らの強みを生かすことを通じて企業業績に貢献していると感じ、自己肯定感が高まります。同時に、企業は企業活動で生まれた利益を従業員の働きの成果として納得できるように配分します。これにより従業員を物心両面で幸せにすることができます。

 職場環境作りに必要なのは、次の4つです。
 一つ目は、経営者の強い「思い」を表す、しっかりとした明確な経営理念があることです。経営者は、これを明文化し、常に従業員に語り、浸透させていかなくてはなりません。そして、その経営理念は「社会課題の解決に対する貢献を目指した大志」でなければなりません。経営者の個人的な欲望の達成が目的ならだれも協力してくれません。また、その経営理念は「得られた利益の関係者への適切な分配」や「自己実現の達成等を通した従業員の物心両面での幸せの追求」を目指すためのものでなくてはなりません。
 二つ目は、経営者が率先垂範を基本としたリーダシップを取ることです。たとえ正論であっても、信用のおけない人や人望のない人が何を言っても聞きません。リーダーが高い人望を持てば、この人の言うことだから聞こうということになり、経営者の「思い」が従業員に浸透します。
 三つめは、従業員を資源としての「人材」でなく、資産としての「人財」として個人を尊重し、多様性を認め、個々の従業員の持つ強みを最大限に生かすことです。企業の強みは、従業員が持っている個人個人の強みの総和です。
 四つ目は、企業が共同体として、社長以下全従業員が有機的につながることです。お互いを知り愛に満ちた家族的な絆を作り、互いの多様性を認め、お互いの強みで弱みを補完し合い、相互に依存した安心・安全な共同体を形成します。 

■経営改善事例  株式会社長坂養蜂場


 何のために経営をしているかを考え、経営理念を見直して「いい会社」になり、そして第10回「日本で一番大切にしたい会社大賞」審査委員会特別賞を受賞した株式会社長坂養蜂場を紹介します(*2)。浜名湖の湖畔にある蜂蜜とソフトクリーム等の蜂蜜加工品の製造販売をしている従業員数48人(2020年)の会社です。現在の社長が、2006年に社長に就任した時に業績を伸ばそうと「お客様第一」をモットーに従業員を叱咤激励し、残業や上位下達の徹底した効率優先経営で業績を伸ばしました。一方、働く人を大切にしていなかったために従業員が疲弊して離職者も多く出ていました。そのような中で坂本光司氏の講演を聞き、「一番大切なのは働くスタッフとその家族」という言葉を聞いて、自身が何のために経営をしているのかを考えようと思ったそうです。役員達と半年議論し、最終的に経営理念を「ぬくもりのある会社をつくりましょう。」としました。「人を大切にする経営」を実践し、朝礼、委員会活動、理念型採用(新人を採用する時に経営理念に賛同してくれる人の中から選ぶ事)等を通して理念の浸透に努力されています。お互い様の気持ちを大切にし「ぬくもり」の輪を地域へも拡大しています。経営理念の見直しの後、会員数は3万人から6万人、リピート率50%から70%、人口15,000人の小さな町に年間35万人の来店を実現しています。

 多くの会社が、「人を大切にする経営」を実践し、いい会社になっています。「人を大切にする経営」は、知ればだれでも実践できる経営です。これをお読みになってなんらかの気付きを得た方がいらっしゃれば幸いです。是非、皆さんの会社がいい会社となり、成果を出されることを期待しています。


参考文献
*1 「末広がりのいい会社をつくる」 サンクチュアリ出版 塚越 寛著
*2 「ニッポン 子育てしやすい会社」 商業界 坂本光司著 人を大切にする経営学会著

著者プロフィール

早川 剛(早川剛中小企業診断士事務所 代表)

「人を大切にする経営」とドラッカーの経営理論をベースとして持続的に成長し、すべてのステークホルダーの幸せを実現しようとする企業の支援を中心に活動。中小企業の強みである知的資産を活用した戦略策定や経営指導、知的資産報告書の作成支援、講演等を実施。

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