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倒産か繁栄かの分岐点

倒産案件を18,000以上審査した経歴を持つ中小企業診断士が、倒産する会社に共通するある特徴をお話しします。倒産か繁栄かを分けるその特徴とは・・・

(掲載日 2018/10/29)

我以外皆我師

私が前職で倒産案件を18,000以上審査した経歴を持つ中小企業診断士であることを知って「どんな会社が倒産しやすいのか。倒産を防ぐにはどうすれば良いのか」と質問してくる経営者が少なくない。

もちろん、その答えは一つではなく、その場の会話で相手や状況に合わせて答えることになる。

その中で結構多く口にすることになるのが「経営者・社員が『我以外皆我師』 と考えていない企業は倒産しやすい」という答えだ。


「我以外皆我師」とは、豊臣秀吉の半生を描いた『新書太閤記』で吉川英治が秀吉を描写する時に使った造語だという。

卑賤の身分に生まれ育った秀吉がどうして天下人になれたのか?
彼は常に、接する者から必ず何かを学び取る男だったという。彼が学んだ人は信長だけではない。一見すると取るに足りないと感じられる人からでも、秀吉は、自分より勝る何事かを見出して学び取ったのだ。


こんな企業は要注意!

ベンチャー企業には元気な企業が多いが、時に「あれ?」と思う沈滞ムードの企業に出会うことがある。

そこで「マネジャーが育たなくて」と経営者が不満を漏らしていると「要注意だな」と感じる。

話を聞くと、確かにマネジャー層に問題がありそうだが、それだけでマネジャーの責任とは言い切れない。話が自然と「我が社は大丈夫か?倒産の危険はないか?」に至った時に、
「社長が『我以外皆我師』を実践していないと、危険かもしれませんね」
とお話しすることが試金石となる。


ここで経営者から
「確かに独りよがりはよくない。しかし先生は誰でも良い訳ではない。良い先生を選ばなければ。でも、世の中にはそんなに良い先生がいなくて困っている」

などという感想が飛び出したら、
「ヤバイな。これはマネジャーだけの問題ではない。経営者を出発点にした会社全体の問題かも」
と感じる。




「我以外皆我師」の気持ちが大切だとお話しする理由の第一は、それがあると「反面教師」を教師にできるようになるからだ。成長している会社の社長は、「他人からのあんな言葉を、よく黙って聞いているな」と感じるような場面でも、意外とにこにこして聞いている。あとで「どうしてですか?」とお聞きすると、

「彼の指摘も、もっともなところがあるからね。教えてくれてありがとうと思うのだよ」

とおっしゃる。

「でも、あのような言い方だと、貴重な意見でも受け入れにくいのではないですか?」

とお聞きすると、

「もしかしたら自分も似たようなことをしていないだろうか。もっとひどいことをしていないだろうかと考えながら聞いているのです」

とおっしゃる。

経営者でも社員でも、つまり会社そのものにおいて、伸ばしていける長所には限りがあるが、潰せる短所は無限にある。

それに気が付く気持ちがあるかどうか、実際に潰していけるかどうかで、会社の運命は大きく変わる。

一方で「我以外皆我師」の気持ちを持たない経営者だと、どうなるだろう?

他人の欠点からも学ぶどころか、自分のためにと言ってくれたアドバイスも聞き流してしまう、時には抵抗することになりかねない。
そして、その姿勢はだんだんと社内に浸透し、他人からのアドバイスを聞き入れない人物で溢れることになる。
最初は会社のことを真剣に考えて意見する従業員がいても、自分の言葉が無視されたり瞬殺されるケースが二度三度重なると、もう発言しなくなるだろう。

そうなると「会社を良くしたい」と思っても意味がないので、その気持ちそのものが萎えてしまうかもしれない。
何かトラブルがあったとしても黙って見過ごし、経営者が怒った時に

「そうですね。私もこのことには怒りを感じています」

と共感すれば良いのだ。
そうする方が楽だし、経営者の受けが良いことが多い。


冒頭に述べた沈滞ムードのベンチャー企業は、まさにこのような状況にあったと推察される。



行動への怠惰、変わることへの怠惰

ではなぜ、人は「我以外皆我師」とは思えないのだろうか?

いろいろなケースを見て、その理由は「行動への怠惰、変わることへの怠惰」にあるのではないかと思うようになった。

学びを受け入れると行動に繋がる。自分を変えることになる。それが面倒臭い人は、相手を批判して切り捨ててしまうのである。



以前、経営者や部長などを対象にマネジメント研修を行った時のこと。受講生からのアンケートは見事に2つのグループに割れた。

その研修ではMCS論(Management Control System論:これまでの数知れぬマネジメントの成功・失敗体験をもとに体系化されたマネジメント理論。欧米のMBA課程で教えられている)をベースに、マネジャーの役割を解説した上で、マネジメントを計画・実行する方法を説明した。

一つのグループは
「自分自身が役割を理解して言動を変えなければならないことを、改めて認識できた。今までは断片的な教えだったが、MCS論として体系的に学べたことで実践する意欲が湧いた」
というものだ。こういう人たちは、学びを実践して成果を出してくれるだろう。
そう思うと、MCSを研修プログラムとして開発した醍醐味を感じて嬉しくなる。


一方のグループはというと、
「日本ではあまり普及していないMCS論だと聞いて関心を持ったが、断片的に学んだことが体系的に述べられたに過ぎなかった。あっと驚く目新しいノウハウはなかった」
というものだった。彼らはMCSと聞いて「努力せずに成果が出る魔法の理論」だと考えたのだろうか。

しかしMCSは、それとは違う。「これまでの数知れぬマネジメント実践の集大成」である。言い換えれば、「企業を良くする地道な努力を、手当たり次第・闇雲に行うのではなく、計画的に成果を検証しつつ実践するための思考・行動体系」と言えるだろう。

筆者は、この体系が日本ではまだほとんど知られていないことが、ホワイトカラーの生産性が世界的にみて低水準に甘んじている理由ではないかと考えている。
そのため
「MCSから気に入ったものだけピックアップしてもらい、それなりの成果が出れば良い」
という姿勢ではなく、
「体系付けられたノウハウをしっかりと実践してもらい、豊かな成果を手にして欲しい」
という姿勢でお伝えした。
それを「目新しくお手軽なノウハウがないから」と切り捨てるとは、怠惰が原因だと疑わざるを得ない。

こうやって「楽ができる方法を教えてくれる師」だけを選んでいたのでは、将来どうなってしまうのだろうと不安になってしまう。


我以外皆我師の浸透には、トップダウンが重要!

では、どうしたら「我以外皆我師」を会社に浸透させることができるだろうか。

組織を改善しようとする時、筋道は2つあると言われている。
一つはボトムアップの道、一つはトップダウンの道である。

我以外皆我師の実践は、是非ともトップダウンで進めてもらいたいと思っている。
ボトムアップでは絶対に成功しないからだ。


それはなぜか?


社内の現場に会社のことを真剣に考えて意見を述べる人物がいたとしよう。
しかし、トップが「我以外皆我師」とは考えない人物だとすると、多くの場合、その部下である部長も同じように考えている。その部下の課長も、そうだろう。
こうなると、現場の彼が会社を思って行った提案は受け入れられる可能性はほとんどない。実際にそのようなことが何度か続くと、彼は、提案することをあきらめるだろう。会社を思うことさえ、止めてしまうかもしれない。


一方でトップダウンなら事情が違う。

「社長、最近少し雰囲気が変わりましたね。どうしたのですか?」
「どうしたも何も、部長の君から教わったんだよ。」
「そうですか?私、社長にご意見を申したつもりはないのですが・・・。」
「いや、我以外皆我師だからな。君のさりげない言葉から勉強させてもらったんだ。良いことを教えてもらったと感謝しているよ。」

そう言われて、部長も悪い気はしないだろう。同じような態度で、課長に接するかもしれない。課長も、同じように部下と接するかもしれない。


「我以外皆我師」と考える人で溢れる会社と、そうでない会社の何が違うか?

会社の雰囲気をはじめとしていろいろあるが、つまるところ実行力の違いとして現れる。
先ほども申したように、「我以外皆我師」と考えられないのは「師から学んだら自分を変えなければならない。それは面倒臭い」という気持ちに負けてしまうことが主な原因だ。
「我以外皆我師」を実践できる人は、そして「私は『我以外皆我師』が信条だ」と公言できる人は、良い教えを受けたら、もしくは反面教師から学びを得たら、それを実行する覚悟のある人である。

実際、元気な企業(特に中小企業)を観察すると、「我以外皆我師」を実践する社長に率いられている場合が多い。彼らは、もちろん、それを口に出すことは少ない。しかし言動の端々にその気持ちが現れている。

飲み会でこちらが申したことでも次に会った時には覚えておられ、
「すごい記憶力ですね」と褒めると
「いや、あれからトイレでメモを取ったのですよ」と言われる。

覚えているだけかと思うと、すでに実践している。時には会社の手順書や規則まで作り変えている。
コンサルタントの私からだけ学んでいるのかと思うと、実はインターンで会社を訪れている若者からも学んでいたことが分かる。フェイスブックに、彼らへの感謝のメッセージが書き込まれているのだ。

「君から良いことを学んだ。ありがとう。」

そういう会話がトップを皮切りに会社の隅々にまで浸透している会社の雰囲気が悪いはずはない。その言葉を口に出せるほど、自分の実践に覚悟を決めた人で溢れる会社に活力がないはずがない。繁栄しないはずがないのだ。

冒頭に戻るが、結局、こういう会話、こういうスパイラルを形成できない会社が、倒産予備軍に突き進んで行くのだと感じている。18,000以上の倒産案件を審査してきた経験から、確信を持って言える。

著者プロフィール

落藤 伸夫(StrateCutions代表/中小企業診断士)

<専門分野>
1) 日本政策金融公庫在職中に約1万8000件の倒産案件から学んだ、倒産回避・会社発展のためのビジネス戦略(事業計画書策定)
2) 経営者と社員を「対立構造」にするのではなく「同じ船の乗組員」にすることで、社員が創意工夫を発揮するしくみ作り(人材開発・組織開発)
3) 事業承継支援
4) 代表者保証を外す業務・経理体制作り
5) 上記に係る資金調達

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