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専門家コラム

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「買う」を科学する『ショッパー・マーケティング』とは?

ショッパー・マーケティングは、ショッパー(買い物客)が実際の店頭で「買おう」とする瞬間を科学的に分析し、マーケティングに生かしていくという考え方で、近年注目をあびつつあります。本稿では、その基本的な考え方をお伝えします。

心と行動で買い物行動の瞬間を読み解く~ショッパー・マーケティング~

1. 買い物時間の80%は「移動」のみ

 40年以上ショッパー調査を専門に行ってきたショッパー・マーケティングの第一人者ハーブ・ソレンセン氏の調査によると、買い物客が1週間にスーパーなどの買い物に使う時間は2000万秒、その中で80%の時間が単なる移動に使われていることがわかってきました。つまり、店内で過ごす80%は「無駄」に使われているというのです。そこで、無駄をなくし、商品を買ってもらうための「適時適切な仕掛けをする」という考え方が重要になってきました。

2. 短時間で買い物をする顧客に注目する

 ショッパー・マーケティングの第一歩は、ショッパーの行動をしっかり分析することです。ハーブ・ソレンセン氏はショッパーの買い物のパターンを分析し、「急ぎの買い物」「買い足し」「まとめ買い」3つに分類しました。

急ぎの買い物
(Quick)
買い足し
(Fill-in)
まとめ買い
(Stock-UP)
回遊範囲10%程度20%程度40%程度
滞留時間短い(13.4分)ふつう(18.5分)長い(25.3分)
購入商品数1つか2つ5個以下、全体平均12個
歩く速度比較的遅い
(15.85㎝/秒)
急ぎほどではないがゆっくり
(20.11㎝/秒)
早い
(29.87㎝/秒)
お金を使う速度
(1分当たりの支出額)
早い・多い平均的遅い・低い
*「買う」と決める瞬間 ショッパーの心と行動を読み解く ハーブ・ソレンセン著 ダイヤモンド社 P34を一部改変


 この分析を通して、従来の店頭マーケティングに不足している点が明確になってきました。

 一つは、ショッパーの半数は購入商品数が5個以下であること。もう一つは、1~5個の少数商品を購入するショッパーは、購入額は少ないが人数が多く、店の売上げの30%を占めているということです。つまり、従来の店頭マーケティングではあまり注目していなかった「急ぎの買い物」「買い足し」を中心とした短時間で買い物するショッパーを分析することで、売り上げを伸ばすことができる、ということが明確になったのです。

 現在の日本の市場を見ると、買い物時間の短縮化が進んでいます。特にスーパーやドラッグストア、家電量販店など、日常的に利用される業態や店舗で時間の短縮化が顕著です。その理由は、買う商品を決めて来店する顧客が増えているというよりは、情報の氾濫の中、商品の差異化が難しくなり、どの商品も同じに感じて目新しさがないため、比較購買の時間が少なくなっているためです。

 その面では、短時間で買い物をする顧客に注目するアプローチは有効です。

3.「買う」を左右する瞬間とは

 短時間での買い物では、「買う」を決める瞬間が重要です。

 ハーブ・ソレンセン氏は、買い物のプロセスにおける「買うことを決める決定的瞬間」を3つの観点から整理しています。「リーチ(目に留まる)」「ストップ/ホールド(立ち止まる・引き止める)」「クローズ(購入を決定する)」の3つの瞬間です。


 この3つの瞬間を左右する重要な器官が「視覚」です。

 実際に店頭での動きを考えてみると、売り場全体を見まわし店内を回る → 棚を見まわして商品を絞り込む → 最後に個々の商品の価格や商品情報などを読み取り購入を決定する…という流れをとっており、「視覚」を使った買い物の流れの中に「買う」を左右する瞬間が含まれていることがわかります。


 従来からある「インストア・マーチャンダイジング(ISM:店舗内での品揃えや陳列方法の工夫、売場演出などの来店客への働きかけによって買上点数、客単価を高める手法)」は、この動きに注目したものです。ただし、ISMでは、一つ重要な観点が見落とされています。それは、「店内でのショッパーの行動を左右するのは、商品がどこに、どのように配置されているかではなく、商品以外の要素である」点です。ショッパー・マーケティングは、こうした「ショッパーの動き(商品以外の要素)」を分析して「適時適切な仕掛け」を作っていくのです。

4. 具体的な仕掛け

 ショッパー・マーケティングの「適時適切な仕掛け」は様々なものがあります。ここでは、代表的な仕掛けを2つご紹介します。


(1)ショッパーの「動き(回遊パターン)」を生かした仕掛け

 売り場でショッパーが、店内のどこに向かい、どのように動き(歩くスピードや方向)、どのくらい滞留しているのかを観察して傾向をつかみます。

 全米のスーパーマーケットを対象に行った調査では、下記のようなパターンがあることがわかりました。

・幅広い通路を通って店の奥に向かう傾向
・店の奥から左に折れて反時計周りの方向に歩いていく傾向
・冷凍食品は店のどこに売り場を設けても最後に買う傾向

 例に挙げたのはアメリカのスーパーマーケットでのものですが、同じような傾向は日本でもあります。大掛かりな調査でなくても数日の顧客の回遊パターンを観察すれば、ある程度の傾向は見えてきます。そして、店のレイアウトや商品の陳列場所などを改善していきます。


(2)商品の魅力(引き付ける力)を生かした仕掛け

 商品の持つ魅力となる、買い物客を立ち止まらせる力(ストップ力)購入を決定させる力(クローズ力)を分析し、売り場に商品を適切に配置する考え方です。

 例えば、商品のストップ力とクローズ力で商品を4つのカテゴリーに分け、それぞれのカテゴリーに対して、商品陳列のガイドラインを立てます。ただし、ガイドラインを遵守するということではありません。地域性や気候などを考慮し、ガイドラインを参考に店の全体をマネジメントしていくのです。
カテゴリー名
商品イメージ
(スーパーマーケットの場合)
ストップ力
クローズ力
商品陳列のガイドライン
リーダー青果・精肉・パン・牛乳など、売れ筋商品
(70%)

(54%)
売り場全体へのインパクトが大きいため、人通りが最も多い売り場に陳列、エンドなどの特別陳列でも優先的に場所をとる
ニッチペットフード、魚の缶詰など、特定の購買客のいる商品
(45%)

(34%)
認知率を高める必要があるため、人通りが多く売り場が良く見える場所に陳列、ただし、必ずしも人通りの多い売り場に陳列する必要はない
高い関心ミネラルウォーター、クッキー、エスニック食品など、関心が高い商品
(69%)

(16%)
レイアウトや陳列場所でインパクトが少ないため、品揃えや価格、POP等での改善を探る
未開拓シャンプー・リンス、離乳食・赤ちゃん用飲料など
(48%)

(10%)
人通りの少ない売り場に陳列するか、もしくは、新商品と同じように特徴的な展示や場所の工夫をしてカテゴリーの認知度を高める
*ストップ力、クローズ力の数字は、ハーブ・ソレンセン氏のグループによる調査。
 全米に広がる店舗に来店した100万人のデータ分析にて算定。

5. お客様への関心が最大の鍵

 ショッパー・マーケティングの仕掛けは、今回ご紹介した他にも、カテゴリーを購入する際の感情(楽しみ、こだわり、複雑な判断、衝動的など)を生かしたものや、商品パッケージと心の変化の関連を生かしたものなどがあります。

 ただし、そのどれにも共通するのは、お客様への関心です。そして「お客様の行動を無理に変えるのではなく、お客様の行動に合わせて足が向くところ、視線が向くところ、興味が向くところに適切な仕掛けをしていく」というのが本質の考え方です。

 ショッパー・マーケティングは、特売など「まとめ買い」のショッパーを対象に考案された従来の販促手法に疑問を呈するものでもあります。SNSやネット販売の拡大など買い物の行動が大きく変化している時代だからこそ、メーカーと小売店が協力し、お客様に正面から向き合うことが大切なのです。


*参考文献:「買う」と決める瞬間 ショッパーの心と行動を読み解く ハーブ・ソレンセン著 株式会社テイラーネルソンフレス・インフォプラン監訳、大里真理子/スコフィールド素子訳 ダイヤモンド社2010年9月9日第一刷発行

著者プロフィール

宮坂 芳絵(中小企業診断士(東京協会 城南支部))

中小企業診断士、認定心理士、産業カウンセラー。店づくり、消費者心理に基づく顧客満足戦略、ビジネス・コミュニケーションを専門分野とする。酒類業(製造・卸・小売)、スーパーマーケットなどの経営診断の他、研修講師などを実施。「小売店長の常識」日経文庫、「中小企業診断士の仕事がわかる本」法学書院など執筆多数。

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