人材採用・定着の成功を後押しする具体的な施策とは?
人材採用市場では長らく「求職者有利(売り手市場)」が続いています。そのため、人材採用が思うように進まない中小企業や小規模事業者も多くいるはずです。しかし、中小企業でも人材確保に成功している例は枚挙に暇はありません。人材の採用・定着につながる具体策を紹介します。
(掲載日 2024/03/08)
会社が人材採用と人材活用で気をつけたいこと
はじめに
少子高齢化社会で、労働人口の割合が減少し、企業の人手不足感は大きくなりました。90年代に経験した就職氷河期の時代では、候補者を採用時に選択する感覚もありましたが、法令上、労働契約は労使対等な立場で締結されるべきという原則があり、併せて、売り手市場という環境下となったことで、人材確保の重要性がますます高まっています。今回、採用から定着に向けた留意事項について記載してまいります。Z世代と言われる方々の採用と処遇
Z世代*1と言われる方々の採用が始まり、もう中堅的な戦力として活躍し始めています。会社としてはこのZ世代の考え方や価値観の理解が必要となります。端的に言えば従前の労務管理では不十分ということです。Z世代の特徴はITの操作に精通している世代です。会社としては、新しいコミュニケーションツールを導入しながら、柔軟な働き方やリモートワークが提供できるかは定着のポイントになります。また、感性としては多様性と個性、自己実現に価値を置く傾向がみられます。昭和時代に行われていた年功序列や、上位下達型の指導、体育会的な雰囲気は共感されない可能性があります。会社としては、世代ごと個々の異なる価値観や視点を理解する文化を社内に醸成する必要があります。
さらに、企業の目標の達成よりも自己表現や個別の目標達成に重点を置く傾向がみられます。接し方にはまめなフィードバック*2が求められ、継続的なコミュニケーションを好む傾向にあります。組織は従来のパフォーマンス評価だけでなく、リアルタイムのフィードバックや進捗確認を促進する仕組みを導入する必要があります。これらの対応を仕組みとして整えることが必要となってきます。
*1 Z世代…1990年代半ば~2010年代半ばの世代。第二次大戦終了後の青年層の世代としてX世代(Generation X:1965年~1980年)、それに続くY世代1981年~1996年の次の世代を指す。
*2 フィードバック…一定期間の個々の社員の就労態度や業務成果を評価して、その結果や改善点を本人に伝え、次の行動に生かしてもらうこと。
企業として求められること
Z世代は企業の「経営理念」に敏感な世代です。就職したい企業は社会貢献や社会的責任を果たしている方が好かれます。会社は社会貢献や社会的責任を意識した企業活動を実践し、採用候補者個々が有する価値観と一致していることが望まれます。また、ワークライフバランスや柔軟な働き方に対する要望が高まっており、滅私奉公型の企業文化は受け入れられにくいです。どちらかと言えば個人と会社生活のバランスをとりながら社員が実力を発揮できる仕組みがあることが好まれます。さらに、自己成長の仕組みとして会社の研修制度も大切です。
採用ルート
では、採用の話題に移りましょう。まず採用のルートと特徴を以下にまとめました。企業の状況や職種、職位に応じて選択をされるとよいでしょう。ルート(方法) | 良い点 | 悪い点 |
ハローワーク | 無料で幅広い人材募集 | 専門職等では会社の求める人材とアンマッチ |
新聞 | 安価で幅広い人材募集 | 募集地域や職種が限定的 |
人材紹介会社 | 会社の求める人材にマッチした社員を絞り込み | 紹介料(年収の35%~50%が相場) |
縁故や紹介採用 (リファーラル) | 気心しれた候補者で、求める人材確保が容易 | 選定基準が甘くなり、他の社員と不公平 |
自社のウェブサイト | 費用をかけない人材募集 | 選考、面接、採用までの手続きが煩雑 |
有効な採用
次にどのような採用方法が有効かご紹介します。採用面接にあたり、注意しなければならない事項は以下のとおりとなります。採用は選考試験ですが、お互いの状況を理解して双方が納得した選択ができる雰囲気を作ることが大切です。そのため圧迫面接など高圧的態度は厳禁です。項目別に採用時の留意事項を解説します。1.行動面接
行動面接は、応募者の過去の行動や経験に焦点を当て、将来の行動やパフォーマンスを予測するための面接手法です。過去経験した行動が入社後の行動に再現されるという仮説のもと行われる方法です。面接官個人の好き嫌いでの採用は避けます。応募者に抽象的な質問ではなく、過去の具体的な事柄や状況に基づく質問を行うことで、いつ、どんな状況で、何を行い、どのような結果になったかを確認します。実際の行動や対処能力を明らかにするため、採用決定が行いやすく、会社との適合性に関する情報も得られます。2.面接での質疑応答の機会
面接官のみの質問を行って終わるのではなく、必ず質問の機会を設けて相互理解を深めていきましょう。採用面接はあくまでお互いの環境を知る場です。適切なコメントをすることで応募者が不採用となった場合、ご本人の納得性を高めることができます。3.ステークホルダーの一員として接する
従業員は企業の重要なステークホルダー(利害関係者)であるのは言うまでもありませんが、不採用となった方も同様です。消費者に対して製品やサービスを供給している場合、ユーザーとなってくれる可能性もあり、将来の顧客になる可能性もあることは意識しておきたいところです。4.企業の姿勢、コンプライアンスマインドの明示
企業として、社会的責任を果たして貢献する姿は求められます。パーパス、ミッション、ビジョン、バリューを明確にして面接の場でご説明できるようにしていきます。法的義務として適用される場合の労働保険・社会保険の加入はもちろんのこと、労働条件は労働条件通知書、雇用契約書を取り交わし、明確にしていく必要があります。コンプライアンス遵守の姿勢を示しておくことは、愛社精神の醸成につながります。
定着を促進する取り組み
さて、定着策としては以下のようなことが考えられます。1.オンボーディングプログラムの実施
オンボーディングプログラムとは、入社時に会社紹介や手続き及びシステム利用方法等最低限知っておきたいことを説明する場です。社員が入社した時会社の存在意義や、業務を通じて社会の中でどのような貢献をしてきたいか、会社が顧客からどのような期待に応えたいか、企業文化はどのようなものかというメッセージを伝えます。社員は単に働きにきたのでなく人生の一部の時間を会社員として費やすという意識があります。企業文化や会社で働く意義について早い段階でイメージして頂くことが定着の第一歩です。2.メンター制度(ブラザー、シスター制度)
経験豊富な上司、先輩などの方(メンター)が、経験の浅い者や新入社員などの成長をサポートし、指導・助言を提供する仕組みやプログラムを指します。キャリア目標の設定やスキルの向上に向けての計画策定や、ネットワーキング(異業種交流会)の機会を提供し、新入社員の業界や組織内でのつながりを強化していきます。メンターも新入社員の強みや成長のポイントを理解し、自己認識を高める方法として効果的です。3.職務記述書による業務の明確化
職務記述書は、担当する業務の目的、内容、上司や必要な能力を記載したものですが、この内容により、担当者の業務や組織の役割を明確にしていくものです。また単に役割を明確にするだけでなく、与えられた業務内容を考えて、効率的で効果的な行動はどのようにすべきかについて社員一人ひとりが考えて行き、自発的で自律的な行動につなげます。年度毎に見直して、相互確認します。4.目標管理とOne on oneミーディング
目標管理とは与えられた職務で達成すべき業務目標をいつまでに、どのように達成するかを記載するもので、社員が自主的に作成するのが基本です。また合わせて個別の1対1面接のOne on oneミーティングで進捗管理を行い、業務課題の解決を支援します。5.明確なキャリアパスと成長機会の明示
定着に向けて、会社にいるとどのような将来があり、どのような成長ができるのかを未来志向で考えていくことが求められます。業務でやることがなくなったとか意義が感じられなくなったという状態を作ると、他社へ気持ちが向かってしまうこともあります。将来のキャリアの可能性を見据えた方向性を明示していくことが大切です。6.労働環境の整備
快適で効果的な労働環境を整備します。オープンなコミュニケーションや協力的なチームワークを奨励し、従業員が業務に対して満足感を抱くような雰囲気を醸成します。従業員の成果や貢献を認識し、報奨制度を導入します。これは、従業員のモチベーションを高め、組織へのエンゲージメントを育むことができます。またフレキシブルな労働条件やテレワークの提供で、仕事とプライベートの両立を促進しましょう。このことで競争力のある報酬体系や福利厚生を提供し、従業員が組織に留まりたいと感じるような環境を整います。これによって従業員の満足度や愛社精神を向上させ、人材定着を促進することが可能です。