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事業承継を進める社長が意識すべき「後継者の気持ちと腹落ち」

事業承継は後継者がいなければ始まりません。とはいえ、社長の一声で必ず決まるものでもありません。指名された後継者候補がためらう理由が多数あるからです。社長はどのような意識で事業承継を進めればよいでしょうか。ポイントは後継者の「気持ち」と「腹落ち」です。

(掲載日 2024/02/21)

社員の後継者候補が事業承継をためらってしまうワケ

事業を承継する後継者候補はいますか? 

事業承継というと、どのように後継者を見つけ、育成し、事業を円滑に承継していくかという「社長目線」の話が多くなります。

事業承継には後継者の存在が欠かせません。その後継者がどう感じるかという「後継者目線」も考えていくことが大事になります。

社員へ事業を引き継いでもらいたいと思っている社長も多いと思います。ここでは、社員の後継者候補が不安に感じることを中心に、社長が事業承継を進める際に認識しておきたいことを考えていきます。


後継者選びは社長だけでは決められない

私が事業承継のご相談を受ける際に、社長とこういったやり取りをすることがあります。

私「後継者候補はいますか? 引継ぎはいつ頃を考えていますか?」
社長「社内に後継者候補がいます。2〜3年後くらいにはしたいと思っています」
私「もう後継者候補に話をしているのですか?」
社長「まだしていないです」

多くの社長は事業承継を2〜3年でできると思っています。そして、後継者候補には半年くらい前に話しておけば引継ぎもスムーズにいくと考えている社長もいます。

ここで押さえておきたいことがあります。

「後継者の決定は社長だけでは決められない」

後継者選びや後継者育成は社長の仕事ですが、後継者候補にもいろいろと事情があります。

社長から「事業を引き継いで欲しいんだ」と言われ、はじめは後継者候補も嬉しい気持ちになるかもしれません。ただ、次第に引き継ぐことへの不安が大きくなります。

後継者候補が引き継ぐのをためらってしまう理由を見ていきます。


後継者候補が事業承継をためらってしまうワケ


金融機関からの借入

会社が金融機関からどのくらいの借入をしているか?

後継者候補が一番気になる部分です。後継者候補となる人は債務に関する知識がない人が多いです。財務担当でないと関わることがあまりない分野です。借入金の額を聞いて驚くかもしれません。

会社の借入金額は、個人としての金銭感覚からいうと大きな額に感じるものです。例えば、会社が3,000万円の借入残高があるとします。会社の売上規模によってはそこまで大きい借入金額でないかもしれません。でも、個人として考えると3,000万円は大きすぎる額です。そして、借入金に社長の個人保証がついていたり、担保がついていたりする。

こういった話を聞いただけで、多くの後継者候補は尻込みします。

全国銀行協会と日本商工会議所が策定した「経営者保証に関するガイドライン」(*)というものがあります。個人保証を解除する方向性にしていきましょう、という指針です。個人保証がつかないのであれば、後継者候補も前向きに考えられるかもしれません。ただ、事業承継したあとに借入をする場合など、個人保証が必要になるケースが多いのも現実です。事業が赤字体質であればなおさらです。

「個人保証をつけて会社の借金を背負っていくのは嫌だ」

後継者候補はこう思うかもしれません。

*参考:経営者保証のガイドライン 中小企業庁ホームページ
https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/index.htm


社長個人の会社への貸付

社長は個人的に会社へどのくらいのお金を貸付けているのか? 今後も会社から返済していく必要があるのか?

このテーマは後継者候補がバトンを受けたあとに問題になるかもしれません。

後継者としての本音はこうではないでしょうか。

「それは私の責任ではなく先代の責任。金融機関への返済はいいが、先代の個人的な貸付を私の代で返していくのは腑に落ちない」


株式を買い取る資金

会社の株式を買い取るお金がない!

事業承継では株式をどう引き継いでいくかということも課題になります。会社でずっと働いてきた後継者候補は、株式を買い取る資金がありません。業績の良い会社であればあるほど株価も高くなります。

後継者候補に子どもがいれば、子どもの教育へお金を貯めておきたいもの。老後のこともあります。どこまで自己資金で株式を買い取れるか。金融機関から借入をするという選択肢もありますが、後継者候補には相当な覚悟が必要になります。

「そこまでリスクを背負ってまでやることなのか……」


事業の見通し

今の事業でこの先の見通しは明るいか?

社員である後継者候補はずっとこの会社で働いてきたので、この事業が今の時代の流れに乗っているかどうかをうすうす肌で感じています。この先も見通しが明るいのであれば良いのですが、見通しが暗いと不安になります。

「見通しが暗い中で、本当に引き継いで大丈夫だろうか……」

事業の見通しが暗いと思った時点で後継者候補はこの事業を引き継ぎたいと思えなくなります。

社長の影響力

バトンタッチ後、どのくらい社長の影響力が残るのか?

中小企業にとって社長の影響力は絶大です。会社によっては、多くの社員が社長を見て仕事をしています。今まで影響力を与えてきた社長が、バトンタッチ後もどのくらい影響力を残すのか。後継者候補には気掛かりな部分です。

「困ったときはサポートしてほしいが、自分の方針に口は出してほしくない」

これが本音かもしれません。

後継者自身の人生プラン

この事業に自分の人生を賭けられるか?

後継者候補にも人生プランがあります。年齢や家族構成によっても違います。事業を引き継いで経営者になるということは、今後の人生をこの事業と共に歩いていくということになります。

「自分の人生を賭けられるほど魅力のある事業なのか?」
「家族の理解は得られるのか?」
「あとで後悔しないか?」

きっとこのように自問自答するでしょう。

後継者候補が事業承継をためらう理由は少なくありません。社長は後継者の視点に立ち、一つひとつの不安を考慮することが必要です。



社長が持ちたい後継者候補への3つの視点

後継者候補は指名された嬉しさもあると思いますが、不安もそれ以上に出てきます。そして、引き継ぐのをためらいます。

そこで、社長の中で後継者候補が決まってきたら、3つの視点を持って進めていくことをおすすめします。


1)後継者候補の「腹落ち」

前述のとおり、後継者候補には乗り越えないとならない心理的ハードルがたくさんあります。最終的には後継者候補が「腹落ち」できるかがポイントになります。

「腹落ち」には時間がかかります。2〜3年では足りないかもしれません。「腹落ち」には何度も話し合いが必要になります。

早い段階で事業承継に関する話を後継者候補にしていきましょう。プラスのことだけではなく、マイナスの部分もしっかり伝えます。社長の会社への個人貸付を今後も返済してもらいたいのであれば、そのことも理解してもらうことが大事です。

社長と社員という関係性もあり、話し合いがスムーズにいかないことが考えられます。社員は本音を出さないかもしれません。そういうときは外部の専門家に入ってもらうことも有効です。


2)後継者候補へのサポート

自分の大事な事業を社員に引き継いでもらうことは「有難い」ことです。

後継者候補がスムーズにバトンを受け取れるよう、手厚いサポート体制を作ってください。そして、後継者候補の価値観を尊重することが良い結果につながります。サポート体制の中には、後継者候補を支える人材の育成も含まれます。そういった人材を育てることも社長の大きな役割になります。


3)後継者候補とその家族の人生プラン

後継者候補にバトンを渡すということは、その人とその家族の人生を大きく変えることを意味します。

事業を自分で興した社長と、会社で働いてきた社員とでは、見ている景色や考え方が違います。家族の理解も違ってきます。

後継者候補とその家族の人生プランを尊重し支援する姿勢を持ちたいものです。

最後は後継者候補の責任で決めることですが、社長がこの視点を持つことで円滑な引き継ぎができるようになると思います。

社長が「後継者視点」に立つことで、後継者候補の腹落ちを生み、円滑な事業承継が期待できます。



まとめ

社員の後継者候補は事業を引き継ぐことに不安を感じます。後継者としてバトンを受け取ったあとも不安は感じるものです。

事業承継では、後継者の「腹落ち」が何よりも重要です。「腹落ち」しないままバトンを受け取ると、あとから心理的負担としてのしかかります。それがモチベーションの低下や先代社長への不信感につながる恐れもあります。そうなると会社の業績にも影響が出ます。

事業承継というと社長視点の話になりがちですが、「後継者候補がどのように感じるか」という視点も大事にしていきたいです。

ぜひ参考にしていただければと思います。

著者プロフィール

平山 博之(中小企業診断士)

中小企業診断士として独立して9年目。2016年、40年以上続く化粧品会社を外部後継者として事業承継を行い、6年間代表として経営に携わる。代表を退任後は、自身の経験をもとに「経営者・後継者の人生を創造する」という視点で事業承継の支援を行う。

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