助成金・補助金等、経営力UPの経営情報が満載!

専門家コラム

専門家コラム
会員登録すると、
新規会員登録はこちら
お気に入りに追加 シェアツイートLINEはてぶ

社員が笑顔で成長する「ほめる人材育成術」<前編>

「企業は人なり」-昔から言われ続けている言葉ですが、実際に社員を育成するのは簡単なことではありません。近年、人材育成の新しい手法として、「ほめる人材育成」が注目を集めています。この新しい人材育成の手法について、前・後編にわたってご紹介していきます。

(掲載日 2021/10/11)

社員が笑顔で成長する「ほめる人材育成術」<前編>

■心のコップ


 皆さまは、自社の従業員、特に20~30代の比較的若い社員について、どう思っていますか。やる気が感じられないと思ったことはありませんか。仕事を教えても反応が今ひとつだったり、自分から進んで仕事を習得する姿勢が見られないと感じたことはありませんか。そのような社員に対して、皆さまはどのように対応しているでしょう。「最近の若い者は・・」「自分が若かった頃は・・」というような話を持ち出して、ひたすら仕事を教え込もうとしているのではないでしょうか。実は、このような対応をしているうちは、若い社員はなかなか育ってこないのです。では、そのような場合、どういう対応をすれば良いのでしょうか。

 そこで、まず初めに、「心のコップ」という話をご紹介しましょう。人はみんな心の中にコップを持っているのですが、それが上向きになっている人と下向きになっている人がいるのです。コップが上向きの社員にアドバイスという水を注げば、コップの中にどんどんたまっていきます。つまり、アドバイスをしただけ、社員は成長していくのです。しかし、コップが下向きの社員にいくらアドバイスという水を注いでも、全部こぼれてしまいます。つまり、そのような心の状態のまま、次から次へと仕事を教えても、社員は成長しないのです。これは、専門的には「知覚的防衛」と呼ばれているもので、本人も気がつかないまま無意識のうちにそのような機能が働いていると言われています。まずは、社員の心のコップを上向きにすることから始めてみましょう。

 心のコップが下向きの人は、比較的若い社員に多いと言われています。昭和の頃の若手社員は、自分の将来に希望や可能性を感じていました。当時の日本経済は右肩上がりで成長し、年功序列や終身雇用制度が自分の将来を守ってくれると信じていたからです。そのため、その頃の若手社員には、心のコップが上向きの人が多かったのです。それに対し、現在の若手社員はどうでしょうか。日本経済は縮小傾向で先行きが不透明なうえに、少子高齢化で将来の年金さえどうなるかわからない不安定な状況です。自分の将来に漠然とした不安を持つのも無理はありません。そのような不安を抱える社員の心のコップは、往々にして下向きであることが多いのです。

 では、どうすれば、心のコップを上向きにできるのでしょうか。それを実現するのが、まさに「ほめる人材育成術」なのです。人間は、ほめられると、脳の中でドーパミンという快楽物質が放出され、それが「幸福感」をもたらすと言われています。幸福感は漠然とした不安を取り除き、徐々に心のコップも上向きになっていくのです。


■ほめる人材育成で成功した企業の事例


 ここで、社員をほめることで成功した企業の事例をひとつご紹介します。
 これは、実際にあった居酒屋チェーン店の話です。このチェーン店では、売上が低調な店舗があったため、あるコンサルタントにその店舗の覆面調査を依頼し、どこが悪いかを店舗にアドバイスするよう依頼したのです。

 コンサルタントが店舗を訪れてみて、一番気になったのは、あるアルバイトの行動でした。来店客が帰った後に、忘れ物がないかをいちいちチェックし、テーブルも時間をかけて拭いていたのです。普通のコンサルタントであれば、「アルバイトの仕事が遅い。時間をかけずに効率的に作業をして、来店客の回転率を上げるべきだ」と店長に提案するところでしょう。しかし、このコンサルタントは違いました。少しでもほめられるところを探していたのです。そして、店長に対して「お宅のアルバイトはとても仕事が丁寧です。お客様のことを大事に考える素晴らしい方ですね。ぜひ、ほめてあげてください」と報告したのです。

 それを聞いた店長は、そのアルバイトに「あなたの丁寧さを、この店の売りにしていこう」と言ってほめたのです。これを聞いたアルバイトは、とても喜びました。そして、それ以降、仕事のやり方もガラッと変わったと言います。自信にあふれ、輝きだしたのです。そして、それは他のスタッフにも伝わり、全員に笑顔と活気が出てきました。このようなスタッフの雰囲気は来店客も敏感に感じ取ります。こうして、この店は、明るくて感じの良い店だという評判が広がり、リピーター客の増加により、わずか3か月で売上を2割も伸ばしたそうです。

 仮に、コンサルタントや店長が、このアルバイトに対して、「仕事が遅い。効率性を考えて、時間をかけずにやれ」と言っていたらどうなっていたでしょう。仕事のスピードは多少上がったかもしれませんが、おそらく、このアルバイトが成長することはなく、店全体の売上アップは実現しなかったでしょう。
 ぜひ、皆さまの会社でも、ほめることで社員を伸ばし、この店舗のように売上アップにつなげてみてください。


■今日からできる「ほめる人材育成術」の実践方法


 それでは、いよいよ「ほめる人材育成術」の具体的なやり方について、説明していきます。

 まずは、ほめ方からです。「ほめる」と言っても、やみくもにほめれば良いというものではありません。「おだてる」とか「甘やかす」というものとも違います。正しい「ほめ方」というものがあるのです。

 では、正しい「ほめ方」とは、どのようなものなのでしょうか。実は、「ほめる」前に、ひとつやることがあります。それは、「相手の良いところを見つける」ということです。つまり、「ほめる」というのは、「相手の良いところを見つけ、それを教えてあげる」ということに他なりません。自分の良いところというのは、案外自分にはわからないものです。それを、客観的な目で見つけ、そして教えてあげるのです。人間は、誰しも「認められたい」という欲求を持っています。良いところを教え、それをほめることで、相手は「自分のことを認めてくれた」と感じるのです。

 居酒屋チェーン店の事例でも、アルバイトに対して、お客様のことを大事に考え、丁寧に行う仕事のやり方を「良いところ」だと教えて、それをほめていました。アルバイトはこれによって、「店長に認められた」と感じ、自分に自信を持つようになったのです。そして、この瞬間、このアルバイトの漠然とした不安が消え、心のコップも上向きになったのです。そうなれば、あとは自ら工夫して、どんどん成長していくだけです。


■良いところの見つけ方


 とは言っても、なかなか良いところが見つからない、というケースもあると思います。そのような時は、リフレーミングという方法を試してみてください。言い換えれば、物事を別の角度からとらえなおし、マイナスのことも敢えてプラスとして考えてみるという手法です。

 例えば、「内気」な社員がいたとしましょう。このような社員も、見方を変えれば「じっくり考えて行動できる」と言えるのではないでしょうか。また、「気難しい」社員がいたとしても、裏を返せば「信念がある」「ブレない」と捉えることができます。そう考えれば、どんな社員にも、良いところは必ずあるものです。ぜひ、皆さまも、社員一人ひとりのことを、どんな良いところをもっているか、という目でじっくり見てあげてください。

リフレーミングの例

注:本コラムは、人材育成の新しい手法として「ほめる人材育成」の普及に力をいれている「一般社団法人 日本ほめる達人協会」のセミナーの内容を、了承を得て参考に執筆させていただきました。

著者プロフィール

小林 雅彦(みやびコンサルティングオフィス 代表)

1965年生まれ。東京都在住。大手通信会社で30年以上の勤務経験を持つ。2020年5月に中小企業診断士に登録し、「みやびコンサルティングオフィス」を開業。飲食業を中心としたマーケティング、新規事業開発、人材育成、IT導入支援を専門とする。中小企業の経営者に寄り添う支援スタイルが信条。一般社団法人 日本ほめる達人協会「ほめる達人検定」3級。

< 専門家コラムTOP

pagetop