助成金・補助金等、経営力UPの経営情報が満載!

専門家コラム

専門家コラム
会員登録すると、
新規会員登録はこちら
お気に入りに追加 シェアツイートLINEはてぶ

わが社の事業承継、何から始めればいいの?

皆様は事業承継の取組みを始めていますか? 毎日忙しくて何も取り組めていない方、そして後継者がいない方でも、いつかは事業承継を考えなければいけません。でも、何から始めたらよいのでしょうか? 事業承継の基礎からわかりやすく解説します。

(掲載日 2020/01/08)

わが社の事業承継、何から始めればいいの? ~事業承継のための基礎知識~

1.はじめに


 昨今、「大廃業時代」、「後継者不足」といったフレーズとともに、「事業承継」という言葉を耳にする機会も多くなりました。社長の皆様の中にも「うちもそろそろ事業承継を考えないといけないのかな」などと思われている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 しかし、そうはいっても、何をすればよいのかわからないし、後継者候補もいない、そんなことを思っていたら、日々の業務に忙殺されて結局何もせずにいる、という方も多いのではないかと思います。そこで、今回は事業承継をするにあたってまず何から始めればいいのか、事業承継の基礎知識とともにご説明します。



2.「事業承継」とは?


 会社が長く事業を続けていれば当然、社長は代替わりしていきます。そのため、会社を新たな代表者に引き継いでいくことは、これまでも行われてきました。以前は、社長のご子息が、漠然と「将来は会社を継ぐことになるんだろうな」と考えていて、そのままなんとなく社長となり、会社を継いでいくというケースが多くありました。中には社長が突然亡くなってしまい、右も左もわからないけれど自分がやるしかない、ということで社長になる方もいらっしゃいました。


 今でもそういったケースは見られますが、昨今、よく耳にする「事業承継」はこのようになんとなく行われるものでも、どうにかしないといけない切迫した状況になって取り組むものでもありません。根底にある考え方は、「魅力ある良い会社にして次世代に引き継いでいこう」というもので、通常は5年から10年程度の時間をかけて承継を行います

 中小企業庁が策定した「事業承継ガイドライン」でも、このような考えから、事業承継のステップとして、「見える化」(ステップ2)と「磨き上げ」(ステップ3)をしましょう、と説明されています。

「事業承継ガイドライン」(中小企業庁 平成28年12月公表)20頁より引用




3.「見える化」とは?


 読んで字のごとく、「目で見ることができない、あるいは見えにくいものを見えるようにすること」です。

 例えば、社長が創業時から現在まで、「人々の暮らしを便利にし、笑顔で毎日を送れるようにしたい」という想いで事業に取り組んできたとします。そのような想いを「経営理念」として文章化することが「見える化」です。ほかにも、自社の製品が売れている理由を分析し、「社長の営業力」、「品質の高さ」などという形で言語化し、自社の強みとして社内外で共有することも「見える化」ですし、自社の商流の図解化、重要取引先リストの作成なども「見える化」です。

 このように会社内で、言語化されずに暗黙のまま伝えられたり共有されたりしていることを、誰が見てもわかるように言語化や視覚化していくことが「見える化」です。

 事業承継に際しては、経営状況や事業承継に際して取り組むべき課題を「見える化」することが必要です。

4.経営状況の「見える化」


 経営状況の「見える化」を行うためのツールとしては、経済産業省のホームページに掲載の「ローカルベンチマーク」や中小企業基盤整備機構(中小機構)のホームページに掲載の「事業価値を高める経営レポート」などが有用です。フォーマットに従ってこれらの書面を作成することで、「見える化」ができます。

 しかし、この「見える化」の作業は自分たちだけで取り組もうとしてもなかなか難しい面もあります。そのような場合は、中小企業診断士などの専門家を活用することも検討されるとよいでしょう。



5.事業承継に際して取り組むべき課題についての「見える化」


 事業承継に際して取り組むべき課題については、後継者候補の有無や、いない場合はどのように事業を承継するかが大きな問題となります。そのほかにも、株主構成を確認するなどし、社長が亡くなったときに相続問題が生じないか、経営権争いが発生しないか、といった点を検討します。



6.「磨き上げ」とは?


 「見える化」を通じて、自社の強みや弱みが見えてきます。そして、強みを生かし、弱みを克服していくために取り組むべき課題も見えてきます。その課題に取り組み、経営状況を改善していくプロセスが「磨き上げ」になります。

 例えば、不採算事業や不良在庫、遊休資産の整理による経営のスリム化、大企業からの下請体制を脱却するための自社製品の開発・製造、販路拡大や利益率向上のためのインターネットでの直販事業の開始、などが考えられます。

7.「事業承継」を成功させるために大切なこと


 「事業承継」には、大きく分けて、親族内承継、従業員承継、第三者による承継(M&Aなどによる売却)の3つの方法があります(社内あるいは社外での承継という観点から、前掲の図のように親族内承継と従業員承継を1つにまとめて整理することもあります)。

 承継をする側の立場に立って考えてみましょう。整理されておらず、ごちゃごちゃしていて何が出てくるかもわからない、そんなものを引き継ぎたいでしょうか?いずれの承継の方法によるとしても、大切なことは、「見える化」と「磨き上げ」を通じ、「引き継ぎたい」と思わせる魅力ある会社に変えることです。



8.後継者候補がいなくても、早めに事業承継に着手しよう


 「事業承継」を行うに際し、最も重要なことは後継者の決定です。後継者が決まれば、「〇年後の承継」というゴールが設定され、ゴールから逆算することで今から取り組むべきことが見えてきます。

 例えば、社長の人脈を生かした営業力を強みとする会社であれば、後継者を社長の営業に同行させ、「次期社長です」と紹介をして営業先を引き継ぐことが必要になります。従業員との信頼関係が十分に構築できていないというのであれば、新規事業や新規プロジェクトのリーダーに任命し、従業員と力を合わせて課題に取り組んでいくことで、従業員との信頼関係を醸成します。


 現時点では、ご子息が「会社を継ぎたくない」と言っているかもしれませんし、M&Aの買い手がいない、という状況かもしれません。しかし、「見える化」と「磨き上げ」を通じて魅力ある会社にすることができれば、「後継者になりたい」、「会社を買いたい」という人が現れ、事業承継が可能になります。

 そのため、後継者候補がいなかったとしても、早めに「見える化」や「磨き上げ」に着手することが、事業承継を成功させるためには重要となります。

9.典型的な失敗事例


 「見える化」も「磨き上げ」もしないままに時間が過ぎてしまいますと、それだけ社長の健康上のリスクなども高まりますし、M&Aでの売却で満足のいく結果を得られない可能性があります。

 ある会社では、社長が急死してしまい、得意先の引継ぎなどもしていなかったため、社長が亡くなったことを機に得意先との契約が終了してしまいました。
 また、ある会社では、相続が続いて株式が分散した状態を放置していたため、株式の集約ができず、100%の株式を取得できないことを理由に、M&Aの買い手を見つけることに苦労しました。

 これらの失敗は、早い段階から「見える化」を行い、課題を発見して解決に取り組んでいれば、防ぐことができたと思われます。



10.最後に


 先ほど述べたように、「見える化」や「磨き上げ」が行われることで、「こんな会社なら自分が継いでいきたい」と後継者候補の考え方が変わることもあります。また、最近は、親族や従業員に後継者候補がいない会社のために、M&Aのマッチングを行うサービスが増えていますし、自らが後継者となって会社を引き継ぎたい、と考えている個人と後継者がいない会社をマッチングするサービスなども始まっています。そのため、今は後継者候補がおらず、先が見えなくても、しっかりと「見える化」や「磨き上げ」を行うことで新たな未来が拓ける可能性が十分にあります。

 本稿を読まれている社長の皆様は、「まだまだ自分が現役でがんばる!」と決意していて、今すぐに事業承継をしなければならない、という状態ではないかもしれません。しかし、日常的な会社経営の場面でも「見える化」をして課題を発見し、「磨き上げ」を行って経営改善をすることは、必要かつ非常に有用な取り組みとなります。また、残念ながらいつかは社長からの引退を決断しなければなりません


 事業承継をするということは、価値ある事業を未来に残し、つないでいく、ということです。また、会社を支えてくれた従業員の生活を守ることにもつながります。社長が創り上げた素晴らしい会社が将来にわたって末永く発展していくためにも、早めに事業承継に着手することが重要です。

著者プロフィール

松井 智(榎本・松井法律事務所 パートナー)

2011年弁護士登録。2015年より上智大学法科大学院非常勤講師。2017年中小企業診断士登録。上場企業、中小企業を問わず広く企業法務を中心に取り扱っている。「データで読む最近の株主総会」(東京弁護士会)、「事業承継における『見える化』の重要性」(東京税理士会)など企業法務、事業承継に関する講演を多数行っている。

< 専門家コラムTOP

pagetop