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アドラー心理学で人手不足対策! 従業員が働き続けたくなる組織の作り方

書籍やテレビなど多くのメディアで紹介されているアドラー心理学ですが、その考え方は多くの分野に活用することができます。企業経営にアドラー心理学を活かし、従業員が働き続けたくなる組織を作るには・・・

(掲載日 2019/09/19)

経営に使えるアドラー心理学 〜「目的論」と「共同体感覚」〜

■はじめに

 人手不足に苦しむ多くの企業は、新たに人を雇用することや限られた人員での生産性を向上することに目が行きがちです。しかし、「今いる従業員が働き続けたい」と思う組織を作ることに、どこまで注力できているでしょうか。また、そのような組織づくりに取り組む際に昇給や昇格によるモチベーション維持を検討している経営者の方もいるかと思います。

 しかし、上記に挙げたような新規採用、従業員の育成、そして昇給や昇格によるモチベーション維持など、これらはいずれもコストがかかります。なるべくコストをかけずに、今までスキルを培った従業員が離職するのを避けるための方法として、筆者はアドラー心理学の考え方を取り入れて、組織のコミュニケーションスタイルを変えることを提案します。アドラー心理学とは、オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラーが築いた心理学の理論のことです。アドラー心理学には多くの教えが含まれていますが、ここではかいつまんで、「目的論」「共同体感覚」という二つの考え方をお伝えします。

■1.目的論とは?

ケーススタディ:部下のトラブル報告

 一つ目は、目的論に基づくコミュニケーションです。
 例えば、あなたの部下からこういった報告が上がってきたとします。

「明日が納期の商品の発注をし忘れてしまいました。今から発注してももう間に合いません」



 ……さて、その報告を聞いた時、あなたはどのように返事するでしょうか?


 「なぜそんなことが起きてしまったんだ?」と真っ先に原因を追求しようとしていたら、要注意です。原因を究明するのは当たり前のように思うかもしれません。かの有名なトヨタも、問題が発生したら なぜ起きたか? と5回繰り返し問うといいます。しかし、これはトヨタが機械主体の生産現場だからこそ適用できるものなのです。

 人が起こしたトラブルについて なぜ?なぜ? を繰り返していくと、「僕が忘れたから」「僕の不注意のせいで」というように、最終的に、その人の能力や人間性を否定することに陥ることがよくあります。聞いた側は原因が明確になりすっきりしますが、問い詰められる側は萎縮するのは目に見えていますね。こういった事象の原因に着目する考え方を原因論と言います。

 さて、ミスするたびに原因論的なコミュニケーションが行われると、どうなるでしょうか。ああ、またやってしまった。あの上司に報告すればきっとまた詰められる。うーん、気が重いぞと、報告を遅らせたり、報告自体をしないようになるわけです。


目的論に基づくとどうなるか?

 さて、ではどうすればいいか。アドラー心理学では、目的論という考え方があります。変えられない過去の事象の原因を考えていくことよりも、目指すべき本来の目的に焦点を当てて物事を考えていこうという考え方です。

 例えば、前述の部下の発注ミスのケースでは、まず「今から何をすれば本来の目的(明日に納品すること、あるいは納品した商品を使って、お客様がやりたいこと)を達成できるだろうか?」と、まず目の前の短期的な目的を達成する手段について考えること。そして、トラブルがひと段落した後には「どうすればこのトラブルを避けられただろうか?」と、組織の長期的な目的・目標に向けてそのトラブルを学びに変える方法を一緒に考えるということが、建設的な関わり方です。

 「なぜ起きたか」という原因論的な問いと「どうすればこのトラブルを避けられたか」という目的論的な問い、この二つは、一見同じ種類の問いに聞こえるかもしれません。しかし、この二つのうち、最終的により早く、建設的な結論に至り、良い雰囲気で話が終わりやすいのは後者であるというのは想像に難くないのではないでしょうか。なぜなら、前者は過去の原因追求に時間がかかる一方、後者の場合は次にとるべき未来の行動を考えるからです。過去に起きた原因を追求するのではなく、目的に立ち返る、ポジティブなコミュニケーションを行うことで、職場の雰囲気は確実に良くなります。

■2.共同体感覚とは?

人が幸福を感じるために必要なこと

 二つ目に、組織を考える上で覚えておきたいアドラー心理学のキーワードは、「共同体感覚」です。家庭、地域、職場などの共同体の中で人と繋がっているんだ、という感覚のことを言います。そして、人はこの感覚を感じられる時に、幸福だと感じるとされています。この共同体感覚は、分解すると自己受容、他者信頼、他者貢献、所属感の四つで構成されます。

自己受容とは、「私はありのままでいていいし、今の自分が好き」という感覚、
他者信頼とは、「周囲の人たちは信頼できる」という感覚、
他者貢献とは、「私はこの共同体の役に立っている」という感覚
所属感とは、「私はこの共同体の一員だ」という感覚です。

 これらが満たされると人は幸福を感じます。つまり、共同体感覚が強い組織は、人が辞めにくいのです。


共同体感覚を強めるためのコミュニケーション

 共同体感覚を強めるためには、下記のようなコミュニケーションが有効です。

自己受容を高めるためには
・従業員が過去に成し遂げたことや長所、できることなどの良い点を可視化し、認める
・従業員の抱いている目標・夢を共有し、認める
・あいさつ・雑談などの非公式コミュニケーションを活発に行う。

他者信頼を高めるためには
・従業員の改善すべき点などのネガティブなポイントを適切にフィードバックする
・対話を通して、従業員の抱いている思いや悩みを傾聴する

他者貢献・所属感を高めるためには
・会社の理念や目的を共有し、それらと日々の業務が紐づいていることを伝える
・従業員への日頃の感謝や貢献を表明・可視化する

 これらを具体的な制度に落とし込む場合には、月に一回などの定期的な1on1(1対1の対話)の時間を設けることのほか、定期的な社員表彰、社内イベントの開催、社内報の作成などが考えられます。また、従業員同士の対話を活性化するために、お互いの感謝を可視化するサンクスカードや、社内勉強会などの仕組みの導入を検討したりするのも良いでしょう。

 しかし、重要なのは制度を作ることではなく、日々のコミュニケーションであり、組織文化を作ることです。つまり、「あなたはこんなにも貢献してくれている。だから、あなたはありのままでいいし、そんなあなたを私は信頼している」というメッセージを伝えることを、まず、この文章を読んでいるあなたから始めることが大事です。

■3.まとめ

 組織のコミュニケーションを変えるポイントとして、「目的論」と「共同体感覚」という二つの考え方をお伝えしました。アドラー心理学の中でもごく一部のご紹介ですが、この他にも「認知論」や「対人関係論」など、組織のトップが学んでおくべき考え方は多くありますので、興味を抱いた方はアドラー関連の書籍を手にとってみてはいかがでしょうか。

 「メンバーと対話する時間を作ることが難しい」という組織のトップの方は、まず部下を信頼し権限委譲を行うことが必要です。まずあなたが、相手を信頼することから全てが始まります。そしてそれを組織全体に広げる空気や仕組みを作っていくことで、前述の「私はありのままでいていいし、今の自分が好き」、「周囲の人たちは信頼できる」、「私はこの共同体の役に立っている」、「私はこの共同体の一員だ」という感覚が従業員の中に養われていきます。皆が幸せで、働き続けたいと思う職場を作るために、今この瞬間から、組織をより良くするためのコミュニケーションを始めましょう。

著者プロフィール

中嶋 亜美(コンサルタント・中小企業診断士)

大学卒業後、外資系IT企業にて流通・小売業のシステムエンジニア・コンサルタントとしてグローバルプロジェクトを経験。プロジェクトマネジメントにおける心理学の重要性に気づき、アドラー心理学に基づくコーチングを習得。ビジネスマン・経営者など年間70名超にアドラー流コーチング・コンサルティングを実践している。

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