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コンプライアンスって何?

ここ数年、コンプライアンスという言葉をよく聞くようになりました。企業に対する社会の目が厳しくなる中、企業におけるコンプライアンスの重要性が増していると言えるでしょう。身近な事例をもとに、コンプライアンスの基本を押さえましょう。

(掲載日 2019/09/12)

これだけは知っておきたい企業を守るコンプライアンス

はじめに

 近年、企業の不祥事に対する社会の目は厳しくなっています。例えば、大手企業における品質管理問題が相次ぎました。出荷時の性能検査で基準に適合しているかのようにデータを装ったり、報告書に別のデータを転用してデータを改ざんしたりしていました。また、長時間労働の問題では、「自分の任された仕事は徹夜してでもやれ」や「神様である顧客の要求は絶対だ」のような考え方が浸透している職場では長時間労働が常態化した結果、体調を崩したり休職せざるを得なくなったりすることも多く見られます。

 IT化や顧客要求の変化、人手不足など急激な社会の変化にともない、仕事に求められる量や質、スピードが変化するなか、企業に対して求められるものが大きく変わってきています。少し前までであれば、ビジネス社会で問題として取り上げられなかったような品質管理やハラスメントなどにおいても、コンプライアンス違反として大きな問題となるようになりました。コンプライアンスの重要性に企業規模の大小は関係なく、大手企業も中小企業も問題を起こせば、取り引き中止や信用の失墜など社会的な制裁を受けることに繋がってしまいます。

 それでは、コンプライアンスとは一体何でしょうか?辞書によれば、遵守することとあり、一般的に法令遵守という意味で使われることが多いようです。しかし、社会からの要請が厳しくなるなか、企業活動においては、法令に加え、社内規則や社会的規範(倫理や道徳)など幅広く遵守することととらえることが大切です。

 そこで、「知らずにうっかり違反をしてしまった」では済まされない3つの身近な事例をご紹介します。

(1)個人情報の取り扱い

 個人情報とは、特定の個人を識別できる情報であり、氏名、生年月日、住所、電話番号、メールアドレス、顔写真、指紋、免許証番号、旅券番号などが該当します。さらに、年齢、性別、職業、勤務先、家族構成、趣味、購買履歴なども他の情報との組み合わせや照合によって、個人が特定できれば、個人情報になります。また、人種、信条、病歴などは要配慮個人情報として、情報の取得や利用に特別な配慮が必要です。

 その個人情報を保持する事業者は、取り扱う個人情報の数に関わらず、すべて「個人情報取扱事業者」です。法人に限らず、マンションの管理組合、自治会や同窓会などの非営利組織も含まれますので注意しましょう。個人情報取扱事業者は、個人情報を適切に取り扱い、万が一、漏えいが生じた場合には、必要な対策をとる必要があります。つまり、小売業やサービス業など一般の会社で、お客様の氏名や住所などの連絡先を預かることがあれば、規模の大小にかかわらず個人情報取扱事業者となり、さらに非営利組織であっても法規制の対象となるのです。
 
 情報漏えい・紛失の事例としては、顧客の個人情報が入ったパソコン・スマートフォンや書類を紛失する、顧客の携帯電話番号を本人の事前承諾なしに第3者に教える、社内で周りの人が聞こえるように社員の病歴を話す、ことなどが該当します。

 そこで、個人情報の取り扱いについて、以下の3点に留意します。


  1. 個人情報を預かった時は、利用目的の範囲内にとどめる。
  2. 漏えい・紛失を防ぐため、社内では、書類棚の施錠、書類放置禁止、メール誤送信防止、シュレッダーの使用などの対策を行う。社外では、カバンやパソコン・スマートフォンなどの紛失や盗難防止の対策を行う。
  3. 個人情報を漏えい・紛失した場合、経営者に直ちに報告して被害の拡大防止、原因究明と再発防止策の実施をする。

 個人情報を取得していれば、個人情報取扱事業者であることを認識し、取り扱うすべての従業員に教育を実施しましょう。

(2)著作物の利用方法

 販売促進用の広告やパンフレットなどにおける文章や写真の取り扱いには注意が必要です。文章、音楽、イラスト、地図、図表、映像、写真、プログラムなど著作物として、著作権法で保護されています。例えば、新聞や雑誌、インターネット上の画像のコピーをして無断で営業用のパンフレットなどに使用すること、ソフトウェアのライセンス契約数を超えるパソコンへのインストールなどは、すべて違法です。

 そこで、著作物を利用する場合は、以下の3点に留意します。


  1. 原則として、著作権者から利用許諾を得る(契約や対価が必要な場合あり)。
  2. 利用許諾を得ない場合は引用する。引用とは、説明のために他の文章や事例を取り入れることで、出所を明示して副次的に使用するなどの条件を満たすことで利用許諾が不要となる。
  3. 1,2以外の方法として行政の広報資料などを転載する。転載により、説明のために著作物をそのまま利用できるが、出所の明示や転載禁止でないことの条件がある。

 著作権法は、著作者の権利を保護することによって、文化を発展させることが目的ですので、ルールをよく理解し、上記の方法により、著作物を適切に取り扱いましょう。情報検索が便利なインターネットなどでうっかり著作物を無断利用することなどがないようにしなければいけません。不明な点は、文化庁のホームページ(http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/index.html)での確認や専門家への問合せをしてください。

(3)いろいろなハラスメント

 近年ハラスメントという言葉を頻繁に耳にするようになりました。セクシャルハラスメントに加え、パワーハラスメント妊娠や出産などに関するハラスメントなどさまざまです。ハラスメント問題の複雑なところは、ハラスメントをしている加害者の自覚がない場合が多いことです。一方、ハラスメントをされた側は、心身の不調が生じ、就業時だけではなく生活全体に影響が及びます。従業員が出社できなくなったり、退社することになれば、会社として大きな損失が生じるほか、労災認定や訴訟まで発展しかねません。ハラスメントは、弱い立場の人が被害者になりますので、新入社員などの社員だけではなく、外注先など、社内・社外のさまざまな人との関係で起こる可能性があることに注意します。
 
 代表的な3つのハラスメントをご紹介します。


  1. セクシャルハラスメントとは、職場で性的な発言をする、プライベートにしつこく誘う、宴会の席で相手を不快にさせる悪ふざけをするなどの行為が該当する可能性があります。気をつけたいのは、被害者は、力関係によりセクハラ行為を拒否できない場合があるなど、相手が拒否しないからといって、相手が同意していると勘違いしないことです。セクハラの判断基準は、相手や周りが不快を感じるかどうかです。
  2. パワーハラスメントは、以下の3つを満たすものです。
    ・上司と部下の地位や、知識や経験の差などの優越的な関係にもとづいている
    ・暴力や人格否定など、業務の適正な範囲を超えている
    ・何度も大声で怒鳴る、無視するなど、身体的・精神的に苦痛を与えている
     職場では、人前で叱責するなどして相手の意欲を奪わないよう、言葉使いや態度に気をつけます。
  3. 妊娠や出産に関するハラスメントは、マタニティハラスメントと言われ、上司や同僚が、産休や育休を取ることの妨害や嫌がらせをしたり、退職を強要したりすることなどが該当します。

 厚生労働省のまとめによると2018年度の全国のパワハラに関する相談件数は、10年前と比べ2.6倍の82,797件に大幅増加しました*。上司は部下のためと思い熱く指導しているつもりでも、部下はいやがらせととらえたりする場合があります。同僚同志のいじめも該当しますので、管理職に研修を実施するなど、対策が必要です。
* https://www.no-pawahara.mhlw.go.jp/foundation/statistics/

コンプライアンスに向けた取り組み

 以上の事例のように、コンプライアンス違反は、職場の身近なところでとても起こりやすくなっています。違反をすると、関係者に迷惑をかけるだけではなく、以下の様な3つの責任を問われる可能性があります。


  1. 刑事責任:法令に違反して処罰されるもので、法人の代表者や違反者などが、刑事告訴・告発により、逮捕・拘留、懲役や罰金などの罪に問われる。
  2. 行政責任:営業停止や輸出入禁止、許認可取り消しなど受けることで、事業運営ができなくなる。
  3. 民事・社会的責任:取引先からの取り引き停止や被害者からの損害賠償請求、信用の失墜などの影響を受ける。

 経営資源が少ない中小企業にとって、事業運営に支障がでれば、会社の存続にかかわる事態となります。一方、コンプライアンスへの取り組みの効果として、会社の信頼度や従業員満足度の向上、優秀な人材の確保などにつながることが考えられます。

 そこで、時間や人材が限られるなか、コンプライアンスを守るために、以下の3つの取り組みを行いましょう。

  1. 経営者や経営幹部がセミナーなどに参加し、コンプライアンスについての理解を深める。
  2. 朝礼や掲示板などで全社員に向けてコンプライアンスの重要性と事例について周知する。
  3. 上記2.による継続的な教育や管理職研修などによって、社内への浸透を図る。

 コンプライアンスの重要性の理解を通じた小さな取り組みが、大きなビジネスリスクへの備えにつながるのです。

著者プロフィール

木下 岳之(木下事務所)

中小企業診断士 AFP(日本FP協会認定)
メーカーにおいて経営企画や事業管理、総務業務、国内工場や海外駐在などを経験。素材から電機、バリューチェーンなど製造業を専門とし、事業計画策定や経営改善、海外事業、コンプライアンスなどのガバナンス関連、事業承継を中心に、中小企業支援や執筆の活動中。

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