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成熟市場における中小メーカーのマーケティング戦略とは?

多くの国内市場が成熟していく中、中小メーカーに求められるマーケティング戦略も変化し始めています。今回は成熟市場に向き合う中小メーカーが採り得るアプローチとして、ソフトインテグレーションの考え方を紹介します。

成熟市場における中小メーカーのプロダクトマーケティング

〜 潜在ニーズを掘り起こすソフトインテグレーション 〜

1.STP分析の限界


 STP分析は、もっとも有名なマーケティングのフレームワークのひとつであり、市場を細分化する(セグメンテーション)、標的セグメントを決定する(ターゲティング)、自社の立ち位置を明確にする(ポジショニング)という分析アプローチです。そして「40歳代、年収1000万円以上、都内在住、独身、男性会社員」と言った具合に集団としてのユーザーをイメージするという点にも特徴があります。

 STP分析が素晴らしいフレームワークであることに今さら疑いの余地はありませんが、成熟市場において使える場面は限られてきます

 STP分析は1950年代に定義されましたが、その頃の時代背景には継続的かつ自発的な市場拡大への期待が存在しており、メーカーが積極的に市場を拡大する、新たに創造するという課題はあまり考慮されておらず、その前提は限られた市場のパイの奪い合いにありました。そして当時の多くのプロダクトには、生活に必需な用途を満たし、それがユーザーや周囲にとって心理・肉体的に安全であるといった人間の基本的なニーズを満たすことが求められており、そのようなニーズは顕在化しやすい一方で、自社からも他社からも発見されやすいものでした。

 しかし、成熟市場ではユーザーの基本的なニーズはすでに充足され、顕在ニーズに代わって潜在ニーズの掘り起こしが重要になるなど、当時とはマーケティングの成否のポイントも異なってきました



2.潜在ニーズへ対処するソフトインテグレーションとは


 部品のモジュール化が進み、ハード面でのインテグレーション(擦り合わせ技術)の重要性が低下したとも言われることが増えてきましたが、その反面で市場調査から得られた気付きや知識などの無形のノウハウを個々の企業活動に反映させるソフトインテグレーションの重要性が高まっています。

 ソフトインテグレーションとは、徹底的なユーザー調査に基づいてユーザーを取り巻く様々な事象を多様な視点や視座から捉え直すことで潜在ニーズを発掘し、さらにはその調査結果を開発から営業まで一貫した全社的な取り組みへと相乗的に発展させることで他社の模倣が困難なビジネスモデルを構築するというものです(下図参照)。従来のハード面のインテグレーションは設計部門が主導していたのに対して、ソフトインテグレーションはマーケティング部門が主導する点でも両者は大きく異なります。

3.ソフトインテグレーションに向けたアクションプラン


 以降では、ソフトインテグレーションの実現に向けた具体的な取り組みを紹介します。

1)ペルソナを作る
 ペルソナとは、ユーザーを代表する一人の人物の姿です。そこには表情や、佇まい、名前、趣味、話し方、将来の夢、週末の行動など、実在の人物であるかような詳細で具体的な情報が含まれます。STP分析が広い集団における平均的なユーザー像をイメージするのに対し、ペルソナは一人の人物を深く掘り下げる点で異なっています。
 ペルソナは開発着手時から販売時まで組織の中でブレないユーザー像として共有されるため、市場に向けて発信するメッセージの一貫性を高める効果があります。質の高いペルソナを作るには、集団としてのユーザーをイメージするSTP分析の時以上にユーザーの性格や感情、行動に着目することが大切です。そしてペルソナが出来上がった後も常にペルソナを意識しつつプロダクトやメッセージを考えます。

 ここで「ターゲットユーザーを絞り込むと他の人に売れないのでは?」という疑問が湧くかもしれませんがその心配はありません。例えば、プラダやシャネルのターゲットが女子高生ではないことは明らかですし、アウトドアブランドのパタゴニアのユーザー全てが環境や動物の保護、労働環境の改善といった社会問題に関心が高いわけでもありません。
 それでも彼らがプロダクトを購入するのは、ターゲットユーザーに向けたメッセージが彼らにも響いたからです。特定のターゲットユーザーに向けて優れたメッセージを発信することができれば、必ずターゲットユーザー以外も集まってきます。そして、このような考え方はそもそも標的市場の絞り込みを定石とする中小メーカーの戦略とも非常に相性が良いということも覚えておくといいでしょう。

2)ユーザー調査は範囲より深さを重視
 開発段階においてランダムに出くわしたインタビュー対象者から、発売前のプロダクトを欲しくないと言われ、何故欲しくないのか?どうやったらあなたにとって良くなるのか?と言った具合に担当者が当初の案を修正しようとするのは割と日常的に見られる光景です。しかし、本来ここでの正しい行動は、潔くそのユーザーに対しての調査を打ち切ることです。みんなが満足する製品を目指せば中心コンセプトは希釈化してしまいます。共感者を探すことに注力し、その人の意見を徹底的に掘り下げなくてはなりません。競合メーカーについても同様です。無駄に範囲を広げ過ぎると不要な競争に巻き込まれてしまうので要注意です。

3)生の情報を現場で収集する
 市場調査でECサイトなどにある購入者レビューを参考にする場合は、慎重な扱いが必要です。一般的に購入者はプロダクトを高評価する傾向にあり(行動経済学で「保有効果」や「プロスペクト理論」と言われます)、それを勘定に入れなければ誤った結果を導きかねません。またこのような第三者を介して得られる情報は二次情報と呼ばれるもので、情報が提供されるまでの過程で何度も加工されて精度が低下しています。

 一方、ユーザーから直接得られる生の情報は一次情報とも呼ばれ、受け手に対してより多様な解釈を促します。ソフトインテグレーションでは、この一次情報を重視します。さらに欲を言えば、ユーザーの発想を刺激するためにプロダクトの使用現場で生の情報を得ることができるとベストです。

4)情報収集と分析を切り分ける
 一度自分で物事を結論付けてしまうとそこから抜け出し、完全にバイアスを取り払うことは容易ではありません。それにより以降の分析結果も初期の結論に誘導されてしまう恐れが出てきます。まずユーザーに何が起きているのかということに着目し、それらを事実として正しく認識していくことが大事です。従って、最初から情報収集をしながら分析を同時に行うのではなく、初期の情報収集と以降の分析は切り分けて行いましょう。

5)リードユーザーを探す
 成熟市場においてリードユーザーは私たちに多くの示唆を与えてくれます。リードユーザーとは市場の最先端ニーズにいち早く向き合い、その実現に向けて独自に創意工夫を重ねているユーザーであり、その深い問題意識と洞察から専門家を凌ぐほどの知恵を提供することすらあります。日本のリードユーザーが費やした研究開発費総額は、英国、米国に比べればまだまだ割合は低いものの、国内消費財メーカーが費やした研究開発費の13% *に匹敵します。リードユーザーには膨大な研究開発資源が眠っています。

 ところで元々、塗装現場で使用されていたマスキングテープですが、最近はポップな模様が施され一般家庭でも見かけるようになりました。粘着力が強く、剥がせる、裏に文字が書けるといった点が評価されているようです。これも一人のリードユーザーである主婦のアイデアに着想を得たものと言われています。

 日本では全産業のユーザーのうちリードユーザーが占める割合はたった3.7%と言われ*、リードユーザーを探すのは容易ではありません。そこで私がオススメするのがピラミッティングです。これは市場におけるユーザーの分布をピラミッドに例えるとリードユーザーがその先端に位置しており、なおかつ数少ないという考えに基づいたアプローチ方法です。イノベーションに役立つ情報を求めるリードユーザーたちは、互いに集まりやすいという認識のもと、あるリードユーザーからの紹介を受けながら別のリードユーザーへと接触を重ねるというものです。


4.成熟市場を中小メーカーの機会へと転換する


 中小メーカーと大手メーカーの技術力を比較した場合、資産が潤沢な大手優位であることが一般的です。しかし、ユーザーのニーズが頭打ちの成熟市場において、大手メーカーは技術力での差別化の難しさに直面しています。かたや市場全体の拡大が収益の源泉である大手企業に対し、中小メーカーは大手が抱えるシェアのごく一部を奪うか、一定規模の市場さえ発掘できれば成長を続けることが可能です。また、成熟市場では以降に訪れる衰退期を懸念して大手メーカーが撤退することも珍しくありません。そう考えると成熟市場は中小企業が大手メーカーに対する相対的なプレゼンスを高める機会と捉えることができます。今回、紹介したソフトインテグレーションが、その一助になれば幸いです。


*(参照:エリック・フォン・ヒッペル『民主化するイノベーションの時代:メーカー主導から脱却』(ファーストプレス刊、2006年)

著者プロフィール

河村 裕司(日本マーケティング協会会員/品川区登録ビジネスカタリスト/中小企業庁ミラサポ登録専門家/板橋区振興公社登録専門家)

中小企業診断士。プロダクトプランナー。ニッチ市場に向けたマーケティングやプロダクトプランニングを得意とする。製造業、民間・公共団体向けのコンサルティング、セミナー、ワークショップ等を開催するほか、自らも電子機器メーカーにて国内外市場向けに50以上の新商品プロデュースに携わってきた。
ホームページ:http://yujikawamura.main.jp/

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