「貢献営業」で働き方改革を実現する!
働き方改革の実現のためには、生産性の向上は避けては通れません。従業員が能動的に働き、生産性を高めるためにはどうすればよいのか? そのヒントとなる「貢献営業」について詳しくお伝えします。
(掲載日 2019/08/09)
「貢献営業から考える働き方改革の実践」
1.はじめに
2018年(平成30年)6月、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が成立し、企業にとっては長時間労働の是正や、多様な働き方の実現など様々な対策を講じなければならなくなっています。企業はテレワークやフレックスタイム制度、育児休暇、副業や兼業に対する取り決めなど各種制度の見直しを図りながら 、生産年齢人口(*1)の減少などによる働き手不足にも後押しされ、“更なる生産性の向上”を同時に図ることが喫緊の課題となってきています。
しかしながら、中小企業にとっては最近話題となっているAIやIoTなどの設備投資は費用面や体制面、情報面でも難しい場合が多く、生産性の向上を目指すことは容易ではありません。ましてや各種制度の見直しも図りながら、生産性の向上を同時に対策していくことが必要となってきています。
本コラムでは、従業員が能動的に業務を行うことにフォーカスを当て、業務の効率化や、企業内で働く意欲の向上を図っていくためのヒントである“貢献営業”(*2)についてお話をしたいと思っております。
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(*1) 15歳〜65歳未満の年齢に該当する人口
(*2) 商品やサービスを販売することを主体とした営業活動ではなく、顧客への貢献をすることを主体とした営業活動のこと
2.働き方改革の課題
そもそも国に求められている“働き方改革”を行う上で、企業・従業員にとってはどのような課題があるのでしょうか?
企業側にとってみれば、細かな制度が増える事での事務的な業務増のほか、長時間労働で何とかこなしていた業務をどのように実施して行くかなど、制度の遵守だけではなく具体的な対策が必要となる企業も多いと思います。厚生労働省のホームページによれば、中小企業の時間外労働の上限規制は、2020年4月からは原則として月45時間・年360時間となることが決定されており、今から対策を考えていかなければなりません。
業務を減らせば当然売上も減少しますし、従業員を増やせばコストが増加してしまいます。そのような中で従業員の生産性をいかに向上させるかが企業側の課題となってくるでしょう。
働く従業員にとってみても、今ある業務を勤務時間内に終わらせるために、業務の進め方を改善し、効率化することや、いかに「やらされ仕事」を解消して能動的な働き方を行なっていくかが課題となってくると思います。
企業・従業員の両者にとってみても、事業を伸ばしていく上で制度が足かせになってしまっては本末転倒ですので、ただ単に制度を遵守するだけではなく、企業と従業員の双方にとっても良い環境を整えなければなりません。
3.生産性の高い働き方とは
それでは、生産性の高い働き方を実現していくためには、何が必要でしょうか?
生産性が高いと言っても、色々な定義があると思います。例えば、仕事が早い、チームで助け合って進める、無駄な作業を削減する、優先順位をつけて行動するなど、様々なことが挙げられますが、生産性を“お客様にとっての価値を産み出す活動”と捉えると、どうでしょうか?
必ずしも今ある業務を早く終わらせることや、作業を削減することばかりが生産性を高めるとは言えないと思います。
当たり前のことですが、自社のサービスがお客様にとっての価値となり、そこに対価が支払われる訳ですので、“お客様にとって”ということは切り離して考えることは出来ません。事業を伸ばし、且つ企業と従業員の双方のためにも“お客様にとって”、つまりお客様への貢献を増やすことが生産性を高めることとなります。
4.日々の業務=お客様への貢献には繋がらない?
多くの企業では、経営理念を策定し、会社の方向性や社会への貢献事項を取り決めていると思います。しかしながら、経営理念は非常に幅広い内容を表現していることも多く、一つ一つの実務においては、経営理念を意識しながら業務を行なっている従業員はなかなかいないのではないでしょうか。
結果的に価値ある商品やサービスを提供することでお客様へ貢献をすることになると思いますが、実際の業務を日々の仕事に置き換えると、例えば営業部門ではお客様への訪問活動のほか、提案書や見積書を作るなど、業務をタスク(作業単位)に細分化して行なっています。そのため、目の前のタスクをこなして終わらせることを日々の仕事として捉えている方も多いと思います。細分化されたタスクを確実にこなして、価値ある商品やサービスに繋がればいいのですが、必ずしもそうではありません。
私は、前職のコールセンターアウトソーシング企業において営業を担当しておりました。提供サービスは「人材を用意し、決められた時間帯に研修されたオペレーターが企業に代わって電話を代行して受ける」というものであったため、お客様企業とも人材の人数、対応時間、どのくらいの数の電話を取るという目標を共有し、サービスの提供をしておりました。
本来のお客様企業の目的は、自社のコールセンターで運営するより、プロのオペレーターのいる専門の会社に委託することで、電話の応対品質を向上させ、それによってお客様企業の評判を上げ、サービスの解約率を減らす事でした。しかし私の提供しているサービスは、いつしかタスク単位に細分化されたことから、電話の応対品質を良くすることで評判を上げることより、人材や電話を取る数を守ることに意識が行ってしまったことがあります。
このようになってしまうと、お客様企業とお約束した契約(電話対応件数など)を守るために、会話が早まるように調整したりするオペレーターも出てくるなど、電話をかけて来た方が問題を解決しないまま終わってしまうケースも出て来てしまい、応対品質を下げるような結果を招くことも多々ありました。
当然、お客様企業の担当者からは「渡辺さん、サービスを確実に提供すれば良いのですか?当社の目的に沿った対応をすることの方が大切なんじゃないですか?」とお叱りを受け、その後しばらくして契約を打ち切られてしまうという苦い経験がありました。
そのため、業務の中でお客様の目的を忘れてしまうと、いくらサービスや商品をお約束通りに提供したところで、全くお客様への貢献には繋がらない事もあるのです。
5.働き方改革の実践を行うには
上記を踏まえ、働き方改革を具体的にどのように進めるべきでしょうか?
私が推進しているのは、お客様の目的をヒアリングし、サービスや商品を提供し、導入後の状況を確認出来る営業部門を中心に、業務を改革していくことです。
前項で記載したように、お客様への貢献を増やすことで、生産性を高めることが重要になるため、営業部門が日々社内に報告する内容をそうした視点で考えてみることをお勧めいたします。
おそらく通常は、今月の売上はいくらで、来月はいくらになりそうかといった自社目線での数値報告が主かと思います。そこに加えて、お客様のA企業は〇〇の目標を持っていて、当社は□□の価値を提供したといったお客様目線での情報も共有することで、自社がどのような価値を提供しているか、すなわち“貢献営業”が出来ているのかを知ることが出来ます。
企業側からとってみれば、売上目標を達成することは非常に重要ですが、従業員側にとってみると数字を達成しても、給与や評価などに連動しない限りは企業側と全く同じ目線で考えることは難しいと思います。しかし自社の“貢献営業”で、お客様が喜んでいると知れば、やる気が向上する人は多いでしょう。
私の経験でも、お客様に喜んでもらうことで、もっと喜んでもらえる自分・会社になろうと心から思い、競合他社を研究したり、少しでもいい提案を考えたりすることで、結果として継続して選ばれ、実績とやり甲斐を両方得られるような良いサイクルを何度も経験してきました。
更に、製造部や人事部、総務部などの他部門ですと、直接顧客に折衝する機会がそもそもありませんので、営業部門から“貢献営業”の活動情報を共有していくことで、自社がお客様に貢献出来ていることを会社全体で把握していくことが重要なのです。そうすることで、日々の細分化された業務を実行する場合に、少しでもお客様への貢献に繋がることを優先することや、「やらされ仕事」を解消し、結果的に能動的に動く人が増える事で、“生産性の向上”が実現していくと思います。
6.まとめ
働き方改革は色々な捉えられ方もあり、対策についても企業毎に異なった方法が出てくると思います。そのような中、制度や規制強化ばかりを重要視するのではなく、事業を伸ばし、企業と従業員の双方にとっても良い改革に出来るような“貢献営業”を起点に取り組みを考えてはいかがでしょうか?