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一度は考えてみよう! IT活用による生産性向上

 人手不足が深刻化する中、企業ではこれまで以上に生産性の向上が求められていますが、ではどうやって取り組めばよいのでしょう。ここでは、ITを活用した生産性向上の方法を紹介します。

(掲載日 2018/11/15)

IT活用による生産性向上

 中小企業の人手不足が進み、優秀な人材を確保しにくい状況下で、如何に生産性を維持・向上させていくかが、中小企業の大きな課題となっています。その最も有効な対策の1つがIT活用であり、特に、十分に利用していない中小企業者はその余地が大きいといえます。
 本コラムでは、ITを活用しやすくなった現状と、生産性向上へのアプローチ方法や留意点について考えます。


1.IT導入で生産性が向上しています


 2016年度版中小企業白書によれば、IT投資をしている企業としていない企業では、各業種とも売上高に大きく差が開いており、全業種平均で約2倍の差となっています(※図1)。

 また、IT導入補助金事務局によれば、「ITツール導入の結果として売上が向上する一方、雇用については勤務時間が短縮され、従業員数が増加傾向にある」との効果が記載されており、下図2のように、概ね20~45%程度の生産性向上が報告されています。

2.ITは使いやすくなっています


(1)IT導入の敷居が下がっています。
 一般に、企業が業務ソフトを導入する形態は、

(i) クラウドサービス(ネット上で提供されるサービスをそのまま利用する)
(ii)パッケージソフト(サーバ等を用意し、業務用パッケージソフトをインストールして利用する)
(iii)オーダーソフト(業務に合わせたソフトを開発する)

に大きく分類されます。
 そのうち、比較的容易に導入できるのは、クラウドサービスもしくはパッケージソフトである場合がほとんどです。
 クラウドサービスは、ソフトをインストールするサーバを用意する必要がなく、ハードウェア保守も不要です。ソフトウェア更新の手間も要りません。更に、クラウドサービス同士で容易に連携できるものもあります。

 下図3は、クラウド会計のイメージ図です。
 決算はすべての事業者で義務付けられていますが、この例では、銀行口座の入出金情報や POS レジサービスの売上データを会計データとして自動的に読み込ませることができます。毎日、レジデータを手入力している方は、締め処理がとても楽になることが分かると思います。

 その他にも、クラウドストレージ(ネット上のデータ保存・共有サービス)、グループウェア(情報共有・スケジュール管理等)、簡易データベース(プログラムせずに簡易的なシステムを作成・運用)など、費用をあまりかけずに利用できるクラウドサービスは多くなっています。


(2)IT 活用の支援体制が整いつつあります
 昨年(2017年)から、「中小企業・小規模事業者等における生産性の向上に資するソフトウェア、サービス等」の導入を支援する「IT導入補助金」が交付されています。
 今年(2018年)の同補助金では予算が500億円に増額されたにも関わらず、応募者が予想した程伸びていないようです。

 2018年度版中小企業白書によれば、社外におけるITに関する相談相手は「地元のITメーカ・販売会社」が多くなっており(※図4)、同補助金でも主にITベンダーが計画策定を支援することが想定されていますが、十分に機能していなかったのかも知れません。

 それを踏まえて、経済産業省では、ベンダー等の中小企業支援を促進するため、「情報処理支援機関」の認定制度が創設され、業種や提供するサービスに応じて支援事業者を検索できる仕組みができています。(https://smartsme.go.jp/)

 また、IT導入補助金の募集期間に合わせ、全国100箇所に及ぶ「プラスIT研修」が行われ、IT導入支援者の育成が図られました。その他に、ITに詳しい中小企業診断士やITコーディネータも控えており、IT活用による生産性向上に関して具体的な相談に応じることができる人材は増加しています。

 中小企業がIT導入について支援を受けられる環境は確実に整いつつあるのです。 


3.業務を見直して生産性を高めましょう


(1)業務の見直しが有効です。
 では、IT活用はどのように考えたら良いのでしょうか。

 2018年度版中小企業白書に、業務見直しへの取組が生産性向上の効果をもたらしていることが報告されています(※図5)。そして、「IT導入や設備導入等の他の生産性向上に向けた取組を行う前提としても重要な取組である」とも記されています。
 やはり、業務を効率化させるための改善点を模索し、業務見直しと合わせてIT導入を図るのが定石と言えます。

(2)業務見直しと生産性向上策のアプローチ方法
 業務の改善点を探すには、業務フロー図の作成が有効です。
 例えば、下記のような手順で具体策を検討します。

(i) 現在の業務手順について、部門ごとの業務の流れを業務フロー図で”見える化”する。(※図6左部)

(ii)同じ情報を何度も入力していたり、単純な繰り返し作業を行っていたりする業務に着目する。(※図6中央部)

(iii)データ共有や自動化によって効率化できる箇所を探す。(※図6左赤色囲い部分)

(iv)それを解決できる適切なITツールを選択して具体策を考える。(※図6右部)

(3)業務見直しと生産性向上策の具体例
 具体的な例を見ていきましょう。

 下図7は、3店舗を展開し、訪問販売を行う事業者の業務フロー図です。
 営業員は顧客宅を訪問し、選定された商品の在庫・納期を電話で確認してから契約します。店舗の営業アシスタントは在庫管理表(Excelファイル)を参照し、店舗に在庫が無ければ、他店舗に電話で問合せます。そして営業員に折返しの電話にて、在庫状況と納期を伝えます。

 ここで、同じような在庫管理表を3店舗で別々に管理し、電話で各店舗に確認しています。これを、下図8のように、全社共通の在庫データとしてクラウド上に一元管理し、営業員がスマートフォンで参照することで、下記のようなスッキリとした業務フローに効率化できることが分かります。

 これにより、残業が増加しつつあった営業アシスタントの負荷が減少し、DMの送付などに手が回るようになり、売上増加と費用削減を同時に進めることができます。実施したのは、各店舗で在庫管理表のフォーマットを合わせ、クラウド上の簡易データベースに読み込ませただけです。年間費用は数万円から可能です。

(4)IT導入を考えるときの留意点
 IT活用による業務の見直しを行う判断は、費用対効果の検証や従業員のITリテラシー(活用する能力)への考慮が必要です。また、見直した業務手順を定着させるには、従業員の協力を得なければなりません。具体的には、マニュアルの整備や従業員教育などを計画します。
 それらに配慮しつつ、経営者ご自身がリーダーシップをとって業務見直しを推進することが重要です。


4.おわりに


 必要性が高まっているIT活用について、導入しやすくなった背景や導入の考え方・留意点を述べてきました。
 業務には、IT活用により生産性を向上させる余地がまだ多くあるかも知れません。これを機に、業務を見える化し、「IT活用による生産性向上」を考えてみてはいかがでしょうか。

著者プロフィール

近藤 栄一([経営革新等支援機関] 近藤中小企業診断士事務所 代表)

IT活用による生産性向上、経営改善計画策定支援、創業支援等の中小企業支援を実施している。また、ITツールの審査に携わっており、調査実績は1,000件に及ぶ。中小企業診断士、(公財)日本生産性本部 認定経営コンサルタント、ITコーディネータ、情報処理技術者(NW,SC,PM)、情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)、個人情報保護士などを保有。

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