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社内人材の有効活用を徹底するヒト重視の企業経営のすすめ

人口減少が進む日本の社会構造から、人手不足の状況が深刻化しています。本コラムでは人手不足時代を生き抜くために必要な「人材定着」と「業務効率化・生産性向上」の両立をテーマに、貴重な社内人材を最大限有効活用する「人材活用経営」への取り組みについてご説明します。

(掲載日 2023/12/20)

人手不足時代を生き抜く「人材活用経営」への取り組み

1.労働市場を取り巻く環境について

日本は長期の人口減少過程に入っており、総人口は2022年の1億2,495万人から2040年には1億1,284万人に、15歳~64歳の生産年齢人口は7,421万人から6,213万人に減少すると推計されています*1。日本の社会構造上、人手不足の状況は今後も継続・深刻化すると予想されるため、大企業は賃上げや職場環境の改善等を含め、人材確保対策を強化しています。このような状況下、中小・小規模企業の新規採用は更に困難化していくと考えられますので、企業の存続に関わる人材定着と業務効率化・生産性向上への取り組みは、最重要経営課題として位置付ける必要があります。

*1 出典:内閣府 令和5年版高齢社会白書 第1章 高齢化の状況 P4「高齢化の推移と将来推計」https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/zenbun/pdf/1s1s_01.pdf


2.「人材定着」に影響する要因とその対応について

人手不足が深刻化する一方、労働市場では転職が一般的となってきています。人材が流出すると業務に支障が出るだけではなく、人材定着率が低い企業との評判になると新規採用もより一層難しくなります。そのためまずは人材流出防止・人材定着を第一に考える必要があります。

社員の離職理由から見た人材定着に影響する要因は、大きく次の3つに分類できます*2

(1)会社の制度
(2)会社の雰囲気・人間関係
(3)会社の将来性 

*2 出典:厚生労働省 令和3年雇用動向調査結果の概況「転職入職者が前職を辞めた理由」を基に筆者分類
(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/22-2/dl/gaikyou.pdf)



本章では、人材定着に影響する各要因とその対応についてご説明いたします。


(1)会社の制度

会社の制度を検討する際には、価値観の多様化や労働力の流動化などの社会の動きを踏まえた上で、人材定着に繋がる制度を整備することが重要です。中小・小規模企業は近隣在住の社員が多いため、近隣の事業者のホームページなどの情報も参考にしつつ、他社に見劣りしない制度構築を目指しましょう。

中小企業庁の資料*3によれば、中小企業が行う人材確保のための具体的な方策としては、「給与水準・賞与の引き上げ」「長時間労働の是正」「福利厚生の拡充」など、【職場環境改善・職場の魅力向上】への取り組みが多く見られます。また、「再雇用などシニア人材の活用」「研修など能力育成制度の整備」など、【社員のやりがい】に繋がる人事制度の整備も行われています。このような他社動向を参考に、自社の業容・社員構成・地域特性に見合う制度の構築を検討しましょう。

*3 出典:中小企業庁 2023年版中小企業白書 第1部 令和4年度(2022年度)の中小企業の動向 PⅠ-29「人材確保のための方策」https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2023/PDF/chusho/03Hakusyo_part1_chap1_web.pdf


(2)会社の雰囲気・人間関係

会社の雰囲気・人間関係を良好に保つには「心理的安全性」の高い組織風土の醸成を図ることが重要です。心理的安全性とは「率直に発言したり、懸念や疑問やアイデアを話したりすることによる対人関係のリスクを、人々が安心してとれる環境のこと」であり、大まかに言えば「みんなが気兼ねなく意見を述べることができ、自分らしくいられる文化」のことです*4。この心理的安全性が、社員エンゲージメント(組織に対する社員の自発的な貢献意欲)を高め、人材定着に繋がることとなります。

心理的安全性が高い組織は、メンバー同士の健全な意見の衝突により組織が活性化し、モチベーションの向上、生産性の向上、離職率の低下など、様々な好ましい効果が生まれることが明らかになっています。自社の心理的安全性を考えてみましょう。会議では発言しやすい雰囲気があるでしょうか? 失敗やミスを素直に認められるような雰囲気があるでしょうか? 心理的安全性が低い組織では、コミュニケーションが希薄化し人間関係が構築しづらくなることで人材定着が難しくなるだけでなく、チェック機能も低下し問題や事故が発生しやすくなります。

社内人材の能力を最大限有効活用するには心理的安全性は必要不可欠であり、それは会社のリーダーである社長によってつくられるものです。近年ビジネスシーンにおいて注目されている心理的安全性の観点から自社の組織風土の検証を行い、有能な人材が定着する魅力的な職場を作っていきましょう。

*4 出典:「恐れのない組織」エイミー・C・エドモンドソン著


(3)会社の将来性

上場企業とは違い、中小・小規模企業の場合は社員が会社の業績や経営計画の内容について知らされていないことが多く、それが社員の疎外感や会社への他人事感に繋がり、ひいては離職への引き金になる可能性があります。自身の生活・将来設計のため、社員が経営状況に関心を持つのは当然のことですので、経営情報の社内共有を行うことを検討しましょう。各種経営情報を社員と共有することにより、コミュニケーション機会の増加や相互理解の深化、社員の主体性向上など、人材定着に繋がる効果が期待できます。

経営情報の共有を行うにあたっては、経営計画を社員と共同で策定することから始めることをお勧めします。コロナ禍後の事業環境変化を踏まえた現状分析(SWOT分析)を行った上で、「活用すべき機会」と「再認識した自社の強み」を活かした経営計画を策定しましょう。「機会x強み」の積極戦略を重点的に検討した計画を策定することで、会社の将来への前向きな思いを共有できるとともに、計画達成への社員の当事者意識を高める効果も期待できます。

ここで大事なことは、「心理的安全性」を心掛けた計画策定会議を行うことです。社員からの忌憚のない意見を歓迎し、計画実現に重要な要素を漏れなく組み入れることで、社員の納得感が高い計画となります。現場を知る社員の知識を最大限活用し、社員とともに計画達成に向けて積極的に行動することで、社員の会社への共感を高め、人材定着を図りましょう。


3.「業務効率化・生産性向上」への対応について

IT技術の急速な進化などにより様々な物事が目まぐるしく変化し、VUCA*5の時代と呼ばれる先行き不透明な社会情勢が続く現在、企業に求められる業務内容は高度化・複雑化しています。

この状況に対応するにあたっては、人手不足時代の新規採用の困難さを踏まえ、社内の現有人材で高度化・複雑化する業務をこなすことを考える必要があります。中小企業庁の資料によれば*6、中小企業が行う新規採用以外の人手不足への対応方法としては、「業務プロセスの見直しによる業務効率化」「IT化等設備投資による生産性向上」などの取り組みが多く見られます。また、「社員の能力開発による生産性向上」への取り組みも多く、総じて「貴重な社内人材の限られた業務時間を、いかに有効活用するか」という観点での取り組みを重視していることが分かります。

*5 VUCA(ブーカ)… 変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の頭文字を取った略語で、先行きが不透明で将来の予測が困難な状態を意味する。

*6 出典:中小企業庁 2023年版中小企業白書 第1部 令和4年度(2022年度)の中小企業の動向 PⅠ-26「人手不足への対応方法」
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2023/PDF/chusho/03Hakusyo_part1_chap1_web.pdf



この観点を念頭に置いた上での業務効率化・生産性向上への具体的取り組みとして、以下4つの対応を検討し、人材の有効活用を徹底しましょう。


(1)社員の業務内容・業務プロセスは現在の事業環境に合っているか

従来から行っている業務が、(特にコロナ禍後の)現在も同じように必要でしょうか? 業務マニュアルの見直し・作成などを通じて、ムダな業務を減らし、効率的な時間の使い方を徹底しましょう。尚、新規採用者への業務内容説明時にも業務マニュアルは必要です。社員教育が属人的にならないよう、業務マニュアルの整備に努めましょう。


(2)適材適所の業務分担となっているか

各担当者の業務は、その担当者の能力に見合っていますか? 特に、能力の高い社員が能力に応じた業務に専念できるよう、各社員の能力に見合った業務分担を徹底しましょう。


(3)外部委託や外部専門家に任せられる業務はないか

社員には社内人材にしかできない業務に専念させていますか? 特に、経理や人事・総務など管理系の業務は、外部委託を検討しましょう。また、社長は社長が行うべき業務に専念できるよう、士業などの外部専門家の積極的活用を検討しましょう。


(4)業務を人手から機械に置き換えられないか

機械にできることは機械に任せ、ヒトにはヒトにしかできないことに専念することを徹底しましょう。設備投資が必要な場合は、国や自治体の各種補助金や融資制度の活用を検討しましょう。


まとめ

人手不足時代を生き抜くためには、貴重な社内人材を最大限有効活用する企業経営が求められます。一方、人材を有効活用している企業という評価が定着すると、新規採用の可能性も高まります。人手不足が深刻化している今こそ、自社の現状を再検証し、人材定着と業務効率化・生産性向上を両立する「人材活用経営」への取り組みを開始しましょう。

著者プロフィール

小西 龍一(RYKコンサルティング 代表/中小企業診断士)

総合商社営業部門にて、東京・札幌・香港に勤務。その後小規模海産物卸売業経営、上場化学品製造業勤務(海外事業・経営企画・人事部門管轄責任者)を経て、中小企業診断士事務所を開業。30数年にわたる企業勤務経験をもとに、企業規模に合わせた人材マネジメントを含む幅広い企業経営支援を行っている。

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