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「パーパス経営」で持続的に成長する会社を作りましょう

「パーパス経営」という言葉をご存じでしょうか。パーパス経営は大企業が行うもので中小企業には関係ないと思うのは早計です。中小企業の経営者にパーパス経営とは何か、企業経営にとっての重要性、取り組み方などを筆者の経験談をまじえながら具体的にご紹介します。

(掲載日 2022/12/20)

「パーパス経営」のすすめ

パーパス経営とは


パーパス(purpose)とは、「目的、意図」という意味の言葉(英語)ですが、企業経営では「存在意義」や「志」と訳され、パーパス経営とは、「企業の経営理念として自社の存在意義(志)を明確にして、どのように社会に貢献していくのかという「パーパス」を基軸に企業活動をすること」と言われています。

一橋大学大学院特任教授の名和高司氏は、同氏の著書(『パーパス経営』東洋経済新報社)でパーパスを「志」と読み替え、パーパス経営を「志本経営」と呼び、「資本主義」の先には「志本主義(パーパシズム・purposism)」があると提唱しています。

同書では、ヒト・モノ・カネの生産活動の3要素のうち「カネ」(金融資本)と「モノ」(物的資本)は「カネ余り」「モノ余り」の現代では既にコモディティ化*1しており、「カネ」と「モノ」を基軸にした「資本主義」は終焉を迎えている。21世紀の企業価値創造の基軸は「ヒト」(人的資産)であり、その源泉は自分(自社)の欲望のためではなく、他者(社会)にとって価値のあることをしたいという志(パーパス)である、すなわち「パーパス経営(志本主義)」の時代が到来している*2と言っています。

*1 コモディティ化…差別化要因にならず、一般化すること
*2 『パーパス経営 30年先の視点から現在を捉える』(著・名和高司氏、東洋経済新報社)より引用

出典:d's JOURNAL「パーパス(purpose)とは?注目される理由や「パーパス経営」「パーパスドリブン」などの関連用語をわかりやすく解説」https://www.dodadsj.com/content/220131_purppse/


上の図は、パーパスと経営理念、ビジョン、ミッション、戦略との関係をイメージした図です。パーパスは最上位の概念に位置付けられ、経営理念、ビジョン、ミッションを定義する根幹となるもので、一貫性のある戦略策定の基本となるものと考えられています。


パーパス経営の重要性


なぜ今、パーパス経営が注目されているのでしょうか。

パーパス経営が注目され始めたのは2019年、ビジネス・ラウンドテーブル*2による「企業のパーパスに関する宣言」が発端です。背景には、社会的意義を重視する風潮による「市場の変化」があります。

*2 ビジネス・ラウンドテーブル…米国トップ企業が所属する財界ロビー団体


顧客市場では、倫理的な「エシカル消費」(人や社会・環境に配慮した消費活動)が台頭するようになってきました。

人材市場では、これから企業活動の中心となる「ミレニアル世代」(1980年代~90年代半ば生まれ)は、働きがいを求め「社会に貢献したい」という強い気持ちを持ち、パーパス経営に共感する人が多くなっています。

金融市場では、ESG(環境・社会・統治)が投資や融資の基軸になりESGに配慮しなければ資金が集まらなくなってきました。

このため、パーパス経営を実践すると、

 ・差別化され独自性が強くなる
 ・ステークホルダー(あらゆる利害関係者)から支持される
 ・従業員のエンゲージメント(会社への愛着)が高まる
 ・革新や変化を生み出す組織文化ができる

などの効果を生み、持続的に成長できる会社になることが期待できます。

パーパス経営の実践により、多面的なメリットの享受が期待できます



パーパス経営の取り組み方


パーパス経営は、次の順番で取り組みます。

 ①パーパスの定義・明文化
 ②パーパスの従業員への浸透(自分ごと化)
 ③パーパスの顧客への共感の醸成

手順①:パーパスの定義・明文化


パーパスの定義・明文化の要件として、

 ・社会貢献を誠実に真摯に提示している
 ・自社の事業に関係している
 ・従業員が共感しワクワクする
 ・抽象的でなく現実的で実現可能である
 ・形式的でなくシンプルでわかりやすい言葉で言語化されている

などが挙げられます。


手順②:パーパスの従業員への浸透(自分ごと化)


パーパスを従業員へ浸透させ「自分ごと化」させるためには、

 ・従業員をパーパスの策定時に関与させる
 ・浸透のための従業員教育を継続的に実施する
 ・社内コミュニケーションを活性化させる
 ・パーパスを経営戦略や事業計画に落とし込む

などの取り組みが必要です。


手順③:パーパスの顧客への共感の醸成


パーパスを顧客へ共感してもらうためには、

 ・パーパスに則した企業活動を実践して「見せかけだけ」にしない
 ・行政や公共団体等と連携して社会貢献活動に取り組む
 ・PR活動等で積極的にパーパスと企業活動を発信して顧客と情報を共有する

ことが必要です。

パーパス経営の成功には、従業員への浸透と顧客の共感が欠かせません



パーパス経営の実践事例


パーパス経営の実践事例として、私が福島県の中小乳業会社の経営に携わった経験をご紹介します。

パーパス経営を決意した経緯


私は、2012年6月、東日本大震災から1年経過した福島県の東北協同乳業株式会社(当時)に代表取締役社長として派遣されました。

当時の東北協同乳業は、震災で建物、機械・設備に甚大な被害を受けましたが、それ以上に原発事故による放射能の風評被害で、主力の牛乳の販売減少に歯止めがかからない状況でした。業績回復の見通しが立たず、モラール(士気)が低下し、退職者が続出。社内の雰囲気は最悪になっていました。

このままでは、会社はもたないとの危機感より、パーパス経営の実践を決意しました。もっとも、当時はパーパスという言葉は知らず使ってはいませんでしたが、パーパス経営の考え方で会社の再建に取り組もうとしたことには間違いありません。

パーパス経営の歩み


最初に、パーパスを明確にしました。大震災・原発事故からの復興を目指す地元福島県の人々のお役に立とうと「牛乳乳製品で地域の人たちの健康に貢献する」と定義し、ホームページなどに掲載したり、マスコミに取り上げてもらったりして公表しました。

そして、パーパスを従業員に浸透させるため、朝礼、社内会議、従業員集会、社長個人面談などあらゆる機会で何度も繰り返し説明しました。「当社は、このように崇高な存在意義のある貴重な会社だからつぶすわけにはいかない。会社を存続させるためには、人件費以外のコストを徹底的に削減して、売り上げが回復しなくても利益が残る筋肉質の経営体質にしよう」と訴えました。会社の経営状況を包み隠さず開示し、他人ごとではなく自分ごとにしてもらおうとしました。

しかし、パーパスと経済活動が両立(一致)せず、なかなか従業員の共感は得られませんでした。ある従業員からは「社長の言うことは、きれいごとばかりの精神論だ。コスト削減ばかりで具体策がない」という手厳しい手紙をもらうこともありました。

パーパス経営がもたらしたV字回復


パーパスに則した具体的な施策が必要ではないだろうか。そんな模索をしていたところに、一本の電話がかかってきました。それは、2013年1月、東京大学薬学部の関水和久教授(当時)からの電話でした。

「おたくのホームページを見た。福島の人たちの健康に貢献するという志(パーパス)に共感する。この度、私の研究室で自然免疫を活性化する能力が非常に高い乳酸菌を発見した。この乳酸菌を使ったヨーグルトを作り、福島の人たちの健康に役立ててくれないか」

願ったり叶ったり、喉から手が出るほど欲しいオファーでした。直ちに新商品の共同研究を開始しました。

この乳酸菌は、発酵条件が工業製品化するのに難しかったのですが、開発や製造担当をはじめ、全従業員が一丸となり、粘り強い試行錯誤の末、1年半後の2014年7月、ついに完成し、発売開始しました。

前述の手紙をくれた従業員も販売担当として、新商品の拡販に尽力してくれました。

福島県内の仮設住宅や小中学校などへのヨーグルトの寄贈や、ヨーグルトの売り上げの一部を義捐金に寄付するなど積極的に社会貢献活動を実施しました。それらの活動情報を新聞やテレビ・ラジオで積極的に発信しました。また、関水教授にテレビの情報番組に出てもらったり、福島県の復興状況を視察に来られた当時の首相にヨーグルトを食べてもらっている状況がニュース番組で放映されたりもしました。

その結果、業績は、震災後、売上が震災前より33%減少し、大幅な営業赤字に陥っていたのが、新商品発売開始以降、徐々に回復し、売上は震災前に近づき、営業黒字に転換し、その後伸び続けました。

パーパス経営へ舵を切ったことで経営が好転。業績のV字回復をもたらしました



最後に


業績が回復し、持続的に成長できる会社になったのは、もちろん、新商品が市場に受け入れられたことが大きいですが、その根本要因は、「地域の人たちの健康に貢献する」というパーパスとそれに則した企業活動が、従業員の心に火をつけ、顧客の支持・共感を得たためであると思っています。

関水教授と引き合わせてくれたのもパーパスのおかげだと信じています。
各社事情は違いますが、パーパス経営はどんな会社でも通用する基本的で普遍的な考え方です。

皆さんの会社でも、パーパス経営の効果を信じて実践されることを希望します。

著者プロフィール

今長谷 浩(中小企業診断士)

全国農業協同組合連合会で30年間、東北協同乳業株式会社で7年間、全農物流株式会社で3年間の勤務経験があり、東北協同乳業株式会社では代表取締役社長を務めた。農畜産業界(特に酪農)や食品製造販売業界(特に乳業)、および物流業界を得意とする。

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