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文書管理が組織を救う

危機の時代、不確実性の時代などといわれる現代において、企業としての説明責任が求められるシーンが増えました。説明責任を果たすためには、その元になる情報や文書の管理が適切に行われている必要があります。今回は組織の文書管理のポイントを紹介します。

(掲載日 2022/10/31)

今、文書管理が求められている

近年、情報漏洩事件や、大規模セキュリティ事件が後を絶ちません。そんな時、わたしは発表内容をみて、“その発表情報はどのように残され、どのように収集・整理したのだろう”と考えてしまいます。

事件によって発表レベルはまちまちですが、“わからない”を繰り返せば組織としての管理体制を疑われ、企業の信頼は失墜します。逆に速やかに原因を特定し、トップが対応を明確にした企業は、信頼性が高まる場合もあります。文書管理の巧拙が企業ブランドに大きな影響を与えるのです。

また、SDGsなどサステナブルな企業活動に対する社会からの要請は、日に日に強まっています。事業を継続するためには、過去のビジネスの結果(影響)に対しても責任を持つことが必要です。現在のビジネスによる影響が、将来社会にどう影響するかを予想することは困難です。だからこそ、現在のビジネスに関して、将来活用できる情報(文書)を残すための適切なルールを共有し、ルールにそった文書管理を行うことが大切です。

文書管理のルールが必要です


みなさんの組織には「文書管理規程」はありますか?あったとしても、内容をみんなが知らなかったり、現実にそぐわなくて形骸化したりしていませんか?

多くの場合、理由としては
・紙文書全盛の時代に作られたものが、電子文書が増えたときに見直されない。
・最近のシステムは、マニュアルを読まなくてもなんとなく使えてしまう。
といったことがあるようです。

ルールづくりのポイント


しかし、ルールがない情報管理・文書管理では、いざというときに使える情報を残すことはできません。かといって、厳しすぎるルールは抜け道を探す人がでたり、業務効率の低下を招くことになり本末転倒です。

ルール作りのポイントですが
 1.ルールを階層化する
 2.どんな情報を残すべきかを決める
 3.探せるように情報を残す
をお勧めします。一つ一つ見ていきましょう。

1.ルールを階層化する


ルールは一度作って終わりではなく、環境変化に合わせて改訂をしなくてはなりません。また、従業員がそれに従うための権威や理由が必要です。そしてそのルールは将来にわたって引き継がれなければなりません。

そこで、ルールを階層化して、トップに「文書管理規程」を置きます。ここには文書管理が必要な理由、文書管理の原則、下位規程の位置づけや、維持・改訂についてのルールを記載します。第二階層には各種規程がきます。通常は業務別に作成され、“どんな情報を管理すべきか”や、その方針が書かれます。第三階層の個別文書運用手順とは、具体的には作成マニュアル等が該当します。必要に応じて階層を増やすことはありますが、あまり階層を増やすと維持・改訂のコストが上がってしまいます。

階層が上がるほど、変更には上位マネージャー(社長、部長など)の承認が必要なルールにし、更新頻度は低くなります。

規程・マニュアルの階層は文書管理体系を意味し、規程類と現実とのギャップを監査することで、組織がルールに従っていることを社会に示す(説明責任を果たす)ことができます。

文書管理ルールの階層 ※筆者作成



2. どんな情報を残すべきかを決める


組織活動を行う上でまず考えるべきは“法令遵守”です。国税関連や会社法、労働基準法など企業や組織が社会活動を行う上で、義務付けられている文書・情報がありますので、そのルールをしっかり守りましょう。(期限や保存形態、検索条件など様々な要件がありますのでそれらも考慮が必要です)

次に考えるのは危機管理の視点です。自然災害や、システム事故、セキュリティ事件、製品トラブルなど様々な危機を乗り越え企業がサステナブルであるためには、備えが最も重要です。とはいえ、危機を列挙して都度対応を検討するのは現実的ではありません。まずは、事業継続に必要な情報を重要度の高いものから列挙し、重要度の高いものから対処を検討しましょう。

三番目が業務記録です。なくても業務はできるが、次のビジネスにつなげたり、従業員を評価したり、技術の蓄積や継承、将来振り返った時にその時の状況を見える化できる情報を文書として残し、活用しましょう。

3. 探せるように情報を残す


文書は残しただけで終わりではありません。探せることが重要です。探せる文書の保存法としては“文書の正規化”や“時間軸を意識する”のをお勧めします。

“文書の正規化”とはわたしの造語で、
 ・同一レベルの文書は形態を統一する(ファイル形式を混在しないなど)
 ・ファイルの保存場所をできる限り統一する(保存場所のルールを明確にする)
 ・ファイルサーバー内の文書はフォルダ名で識別できるようにする。
といったものです。

“時間軸を意識する”とは、保存文書の利用時期が数日後なのか数年後かによって、文書内容のレベルを変えたり、検索時に利用頻度の高い最近の文書がヒットしやすいように、過年度のファイルをアーカイブするといった意味です。

保存するシステムの特性(ファイルサーバーか、クラウドシステムかなど)に応じて工夫をすることで、保存の手間を最小限にしつつ検索しやすいルール作りを心がけましょう。

紙文書の電子化


文書管理を考える上では、紙文書の電子化も重要です。リモートワークや電子帳簿保存法などデジタル化の流れを考えると、紙文書の電子化は避けて通れません。

しかし、なんでも電子化すればいいわけではありません。文書の長期保存(数十年単位など)が必要な場合は、紙やマイクロフィルムでの保存も検討すべきでしょう。PDF/A*以外の文書形式は、ファイル形式が数十年後に読める保証はありませんし、電子ファイルは、事故があれば多量の文書が一瞬で消えることもあります。

また、紙を電子化する場合には、事前に“どのような付帯情報(タグやファイル名)を付けるか”や、“保存場所”や“分類”を決めることをお勧めします。法定文書を電子化する場合には、解像度などの電子化条件にも注意をはらいましょう。

*PDF/Aは国際標準化機構(ISO)によって規格が定められています。

法定保存文書のデジタル化


昨今のコロナ禍を契機に、政府はデジタル庁を先頭にデジタル化を加速させています。その影響もあり、ここ数年で法定保存文書の電子化も急速にすすんでいます。特に
 ・電子帳簿保存法
 ・インボイス制度
 ・建築分野の電子化解禁
 ・マイナンバーカードの利用拡大
など、身近な分野でのルール変更が迫っていますので、法令変更には早めの対策をとりましょう。

技術動向


最後に、近年サイバー・セキュリティの脅威や内部不正のリスクの高まりに対応して、文書管理や情報セキュリティの技術も急速に進展しています。例えば、マイクロソフトは自社サービスの中で、文書にラベルを付けて暗号化し、企業外に送付された文書であってもその利用を制限したり、期限を付けたりする機能や、クラウドを活用した高度なコンプライアンス保護機能を提供しています。

こうした機能を活用しながら、無理のないルールを整備することで、手間を最小限に抑えながら説明責任を全うできる、サステナブルで未来志向なビジネスを展開いただければ幸いです。

著者プロフィール

村松 真(株式会社ソフトクリエイト 技師長)

クラウドシステムなどのシステム系プロジェクトマネージャーを長年務め、近年は中小企業診断士として情報資産管理活用のアドバイス(コンプライアンス対応、セキュリティ対応、情報活用)を行う。中小企業診断士、文書情報管理士、記録情報管理士、ITコーディネータ。

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