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食品衛生管理を確かなものに~制度化されたHACCPを現場に取り入れる<前編>

新型コロナにより多数の飲食店が急激にテイクアウトに参入しましたが、店内提供以上に食品の安全衛生管理が求められます。折しも、2020年6月に改正食品衛生法が施行され、「HACCPに沿った衛生管理」が求められています。HACCPの概要、運用と対応方法などを前後編にわたりお伝えします。

(掲載日 2020/09/14)

食品衛生管理を確かなものに~制度化されたHACCPを現場に取り入れる<前編>

1.食品衛生法の改正とHACCPの制度化(義務化)


 世帯構造の変化を背景に、調理食品や外食・中食への需要の増加といった食のニーズの変化、輸入食品の増加など食のグローバル化、一方で広域化し下げ止まらない食中毒の発生など、変化への対応が迫られています。オリンピックの開催や食品の輸出促進を見据え、国際標準と整合の取れた食品衛生管理も求められています。これら食を取り巻く環境の変化や課題を受けて、飲食による衛生上の危害発生の防止をその目的とする食品衛生法は、15年ぶりとなる2018年6月に改正、公布されました。

 この改正食品衛生法は、「営業届出制度の創設・営業許可制度の見直し」「食品のリコール情報の行政への報告義務化」「食品用器具・容器包装にポジティブリスト制度導入」など7つの主な改正点があります。

 中でも「原則すべての食品等事業者に、HACCPに沿った衛生管理が必要」と制度化(2020年6月1日施行。2021年6月1日に経過措置期間が終了し本格施行)されたことで、幅広い事業にその対応が迫られています。
 制度化により、食品衛生法施行規則に定められた「一般的な衛生管理」に加えて、その規模や業種に応じてHACCPに沿った衛生管理を行わなければなりません。

2.HACCPとは


 HACCPとはハザード(H)、アナリシス(A)、クリティカル(C)、コントロール(C)、ポイント(P)のそれぞれの頭文字をとった略称で「危害要因分析重要管理点」と訳されています。この管理手法は、国際食糧農業機構(FAO)と世界保健機構(WHO)の合同機関であり、消費者の健康の保護と食品の公正な貿易の確保を目的として、国際食品規格等を策定しているコーデックス(CODEX)委員会から示され、各国にその採用を推奨しています。
 つまり、HACCPに沿った管理をすることで、国際的にも認められた食品衛生管理をすることとなり、来日する海外客に提供したり、海外に輸出をしたりする食品の安全性を示すものになります。

 安全な食品製造のHACCPの概念は、アメリカ航空宇宙局(NASA)の宇宙開発計画、ロケット部品の品質管理手法でもあり、食中毒が絶対に許されない宇宙食に応用したものです。
 市販の製品としては、同じく米国で1973年に低酸性缶詰の適正製造基準が取り入れられ、これに従い各国でもHACCPが導入されるようになりました。1990年には、わが国でも食鳥処理場におけるHACCP方式による衛生管理指針が策定されました。1993年には、コーデックス委員会においてHACCP適用のガイドラインが発表され、各国においてその衛生管理が進められるようになりました。1996年には我が国の総合衛生管理製造過程(HACCPの概念を取り入れた衛生管理)による食品の製造が缶詰、魚肉練り製品、乳製品などを製造する一部の業種によりスタートしました。
 また2003年にはコーデックス委員会において「小規模な事業者のHACCPガイドライン」が改訂され、柔軟で弾力的な運用の導入が推進されています。


3.制度化で何が変わるのか


 今回の法改正より、食品事業者は、
衛生管理計画を作成し、食品等取扱者や関係者に周知徹底を図ること
②公衆衛生上必要な措置を適切に行うための手順書を必要に応じて作成すること
③衛生管理の実施状況を記録し、保存すること
④衛生管理計画及び手順書の効果を検証し、必要に応じてその内容を見直すこと
が求められます。

 規模や業種の違いにより必要な取り組みは異なりますが、飲食店などを含む小規模な事業者等は、一般的な衛生管理を基本に、各事業者団体が作成し厚生労働省が内容を確認した「手引書」による衛生管理を『HACCPの考え方を取り入れた衛生管理』として行うことができます。2020年8月8日現在、手引書は94種類が公開されています。保健所の食品衛生監視員による事業者への監視指導は、この「手引書」を基に行うこととなっています。

 これに対して、大企業や規模が大きい食品加工工場等は、『HACCPに基づく衛生管理』としてHACCPの7原則を要件とした衛生管理を行う必要があります。

 なお、HACCPに沿った衛生管理の認証基準としてJFS、FSSC22000、ISO22000、SQF等の民間認証が知られていますが、これら認証等の取得については事業者の任意の取り組みであり、法改正による義務化の対象とはなっていません。

4.これまでの衛生管理とHACCPとの違い


 HACCPの考え方以前の管理方式では、完成品の抜き取り検査を行い、合格基準を満たしているかどうかを確認していました。そして、その管理基準や合格・不合格の判定は、施設や食品によって多種多様です。さらに抜き取りのため検査をすり抜けてしまう製品があります。また問題があった場合、それは製造終了後の判明となり、最悪の場合には出荷後での対応・対策となります。その場合の影響は自社内ばかりでなくお取引先へと大きく広がります。

 それに対してHACCPは、HA (危害要因分析)とCCP (重要管理点)から作業工程を管理します。工程ごとに安全を脅かすポイントを予測・特定し、連続的に監視・記録します。その結果として、製品すべての安全性を科学的に検証することになります。問題が発生した場合、その工程での改善措置が取れるために、次工程への影響が最小限で済むこととなります。

 この手法は、原料の入荷受け入れから製造工程、さらには製品の出荷までのあらゆる工程において発生する恐れのある危害要因を、あらかじめ分析することから始まります。
 製造工程のどの段階でどのような対策を講じれば、危害要因を管理できるかを検討し、その工程を定めます。そしてこの重要管理点に対する管理基準や、基準の測定法などをあらかじめ定め、測定した値を記録します。これを継続的に実施することが製品の安全を確保する科学的な衛生管理の方法です。

 危害要因とは、次の3つがあります。病原微生物などの「生物的要因」、化学物質などの「化学的要因」、硬質異物などの「物理的要因」です。これらのハザード(危害)をコントロール(管理)するために、HACCPの7原則12手順があります。この7原則と12手順については後編で詳しくお伝えいたします。


5.事業者が対応すべきこと


 HACCPはこれまでの一般衛生管理プログラム(PRP)に加え、使用する原材料、製造・調理の工程等に応じた衛生管理となるように、計画策定と記録保存を行い、「最適化」「見える化」するなどの工程管理、すなわちソフトの基準です。施設設備等ハードの整備を求めるものではなく、現行の施設設備での対応が可能です。

 そのためここで大切なのが、HACCPの土台となる一般衛生管理プログラム(PRP)です。前提条件プログラムと呼ぶこともあります。
 施設や食品取扱設備の衛生・保守管理、調理器具の洗浄・殺菌、原材料など食品の衛生的取り扱い、従業員教育と衛生管理等、製造環境の衛生を保つために必要なプログラムです。これらの土台がしっかりできていなければ、こののちHACCPを導入しても、危害要因ばかりが増えてしまいます。このため、PRPを徹底することはとても重要です。

 HACCPの制度化に伴い、有資格者が必要なのかという問い合わせも多く寄せられているようですが、「HACCPに沿った衛生管理の制度化に関するQ&A(厚生労働省)」には、これまでの食品衛生管理者、食品衛生責任者以外に設置の義務はないと記載されています。

 営業許可の取消又は営業の禁停止については、都道府県知事等が判断することとなります。一般的には、事業者が衛生管理計画を作成しない場合や内容に不備がある場合、又は作成しても遵守していない場合に、まずは改善のための行政指導が行われます。前述のQ&Aでは「事業者が行政指導に従わない場合には、改善が認められるまでの間、営業の禁停止などの行政処分が行われることがあります」とされています。

 こうした行政指導の対象とならないように、そして提供する食品の衛生・安全を保つよう、事業者が制度化の意義を理解して取り組んでいく必要があります。

(後編につづく)

著者プロフィール

屋代 勝幸(会社の健康研究所 代表)

HACCPコーディネーター、HACCP伝道師、中小企業診断士として、食品衛生推進の支援を行う傍ら、HACCP、健康経営等をテーマにしたセミナー、講演、執筆をおこなう。国内乳業メーカー・外資系消費財メーカーにて27年、営業、営業企画、宣伝、商品企画、調達、人事総務での幅広い経験や知識を活かし、中小企業の伴走支援を実践している。

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