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介護離職を防止する!

もし従業員から「家族の介護でもう限界です。会社を辞めさせてください!」と急に言われたら、あなたはどうしますか? 介護離職はいまとても身近な問題で、事前の対策がとても重要です。介護離職を防止するその方法とは・・・

(掲載日 2020/01/06)

介護の「わからない」を解消するには事前の準備から

1 介護離職対策の必要性


 急速に高齢化が進む日本。企業経営にもさまざまな影響が及んでいますが、その一つに介護離職の問題があります。

 総務省の「就業構造基本調査」によると、2017年に家族の看護・介護を理由に離職したのは約10万人。この数字は2012年調査からほぼ変わっていません(※1)。一方、要介護・要支援認定を受けている人は、2018年3月現在で641万人(※2)、2000年の介護保険制度発足当初の256万人から約2.5倍に増加しており、さらに2035年頃までは増加のペースは緩まないという予測もあります(※3)。

 この増加する介護の担い手は誰になるのでしょうか。

 日常生活に制限のない期間である健康寿命が、男性72.14年、女性74.79年(2016年時点、※4)であることを考えれば、介護の主な担い手となるその子どもは40~50歳代、いわゆる働き盛りの世代でしょう。共働き世帯の増加や生涯未婚率の上昇を踏まえると、一昔前のように「嫁に頼る」わけにもいきません。

 企業の中核人材である彼らが退職したら、どうなるでしょうか。企業から貴重な知見・技術が失われてしまう恐れがあります。ただでさえ人材確保が難しい昨今、規模の小さな企業なら大きな打撃を受けかねません。また、離職した本人も、再就職は厳しいのが現実です。介護に専念するにあたり、肉体的・精神的に疲弊してしまうことも考えられます。それは本人にとっても、介護をされる側にとっても、望ましくありません。そこで、介護をしながら働き続けるための道を模索していく必要があるのです。

※1 総務省「平成29年就業構造基本調査」
   https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2017/pdf/kyouyaku.pdf (P.3 Q3)
※2 厚生労働省「平成29年度 介護保険事業状況報告(年報)」
   https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/osirase/jigyo/17/dl/h29_point.pdf (P.1 2)
※3 経済産業省「将来の介護需給に対する高齢者ケアシステムに関する研究会報告書」(2018年4月9日)
   https://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180409004/20180409004-2.pdf (P.8)
※4 内閣府「令和元年版高齢社会白書」
   https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2019/html/zenbun/s1_2_2.html (図1-2-2-4)

2 「わからない」のが不安


 仕事と介護との両立は、多くの企業、そして従業員にとっても未知の領域です。何とかしなければならない、しかし何をしていいのかわからない、という声もあるのではないでしょうか。

 実際に、厚生労働省委託事業の調査では、仕事と介護を両立することに対して「不安を感じる」と回答した人が男女ともに7割以上を占めています(※5)。また、具体的な不安については、公的保険制度や両立のための仕組みがわからない、介護がいつまで続くかわからず見通しが立てにくい、といった声が数多くあげられています(※6)

※5 厚生労働省「平成27年度 仕事と介護の両立支援事業 企業における仕事と介護の両立支援実践マニュアル」(平成28年3月)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000119918.pdf (P.5図表5)

※6 厚生労働省「平成27年度 仕事と介護の両立支援事業 企業における仕事と介護の両立支援実践マニュアル」(平成28年3月)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000119918.pdf (P.5図表6)



 このように、多くの従業員は、「わからない」ことを不安に感じているのです。それならば、この「わからない」を「わかる」状態に変えていくことが、取り組みの第一歩になりそうです。


3 まずは両立支援制度を知ることから


(1)介護休業に関する制度

 「仕事と介護との両立支援制度には何があるでしょう?」という質問に対し、まず「介護休業」を思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。

 育児・介護休業法では、介護休業は、対象家族1人につき通算93日まで、3回まで分割して利用できるとしています。ここで注意したいのは、「介護休業は介護に専念するための休業ではない」ということです。介護をするのに93日では足りない、と思いがちですが、介護はいつまで続くかわからないものです。従って、介護サービスを適切に利用して仕事と両立するための準備期間と捉えましょう。また、通院の付き添いや介護サービス利用に必要な手続きを行うためには、介護休暇(年に5日(対象家族が2人以上の場合は年10日)まで、1日または半日単位で取得可能)も利用できます。
 その他、仕事と介護が長期にわたって両立しやすいように、申し出があったときは、介護が終わるまで残業を免除したり、3年以上の間で2回以上利用可能な所定労働時間短縮等の措置を講じたりする必要があります。

 以上の制度は、正規従業員だけでなく、一定の要件を満たした有期雇用労働者も利用可能です。

 また、経済的支援として、雇用保険の被保険者が一定要件を満たせば、介護休業を取得した場合に介護休業給付金を受け取ることができます。 
 このように、両立に向け、実は多様なメニューが整っているのです。

(2)介護保険制度

 さて、以上の制度があったとしても、実際に両立となると「本当に大丈夫か」という思いは、企業にも本人にもあるでしょう。

 家族の介護に直面したら、自分で何もかも抱え込むのではなく、介護保険サービスを利用しましょう。介護保険とは、40歳以上が加入する公的な社会保険制度であり、65歳以上が主な制度利用対象者です。

 サービスを受けるには、まずは要介護の家族が居住する市区町村の介護保険担当部署に、要介護認定の申請をします。約1カ月後に認定通知書が届きますので、その後、介護のコーディネータ役であるケアマネジャーと相談しながら、「どのようなサービスを、いつ、どれだけ利用するか」のケアプランを考えます。ここで、「サービス利用には多額の費用がかかるのではないか」という不安もありそうですが、介護保険サービスを利用した場合の利用者負担は、かかった費用の1割(一定以上所得者の場合は2割または3割、ただし要介護度ごとに利用限度額あり) です。

 これらのサービスについて、企業は詳細まで知っている必要はないでしょう。ただし、従業員に、「地域包括支援センター」の存在だけは知らせてください。こちらでは地域の高齢者などの相談対応や介護予防、サービスの連携・調整業務を行っており、自治体によって異なりますが、おおむね中学校区に1か所の割合で設置されています。


4 介護を相談しやすい雰囲気づくりを


 とは言え、企業として心配なのは、従業員が介護をしていることを打ち明けてくれるか、でしょう。隠れて介護をしていて、ある日突然「限界です、退職します」と言われ、はじめてその事実を知り、時すでに遅し、というケースは少なくありません。
 このような場合、なぜ介護をしていることを打ち明けづらいのか考えてみてください。「自分の仕事を代わってくれる人がいない」「担当業務が多すぎて、プライベートの事情を言い出しづらい」など、思い当たりませんか。幹部・中堅世代ならなおさらです。

 これを解決するには、上記のような情報を折に触れ周知するとともに、「当社は絶対に介護離職させない」という強いメッセージを送ることが重要です。そのうえで、自社の従業員が介護をどのように捉えているか、介護に直面して悩んでいる従業員はいないか等、実態調査を行うことをお勧めします。そこで見えてきた状況によって、制度周知のための研修を行う、相談窓口を設置する、より柔軟に働けるような制度を導入する、等の具体策を講じるとよいでしょう。

 さらに、今後、働く時間や場所が限定される従業員が増えることを見越して、誰かが不在でも業務が回るような体制を整えましょう。業務を棚卸して効率化を図る、情報共有を進めるなどの取り組みは、誰もが働きやすい環境づくりにつながります。

5 事前の準備が何より大事


 身近な人の介護に直面したら、誰もが動揺するでしょう。しかし、事前に何らかの準備があれば、その動揺も和らぎ、早くに適切な支援に辿り着くことができます。それによって、要介護となった家族も、本人も、気持ちを落ち着けることができます。

 確かに介護そのものは、見通しがつきにくいものです。介護を始めてからの期間(介護中の場合は経過期間)をみると、平均して4年7カ月、場合によっては10年以上というデータもあります(※7)。気持ちが沈むこともたくさんあるでしょう。しかし、離職を思いとどまらせる策はあるはずです。

 なお、これらの支援のため、厚生労働省ではさまざまなツールを準備しています。特に、「企業における仕事と介護の両立支援実践マニュアル」(※8)には、社内の実態把握に向けた調査票や、社内研修のテキスト例、「親が元気なうちから把握しておくべきこと」チェックリストなど、活用可能な資料が掲載されています。また、「介護プランナー」という専門家の派遣制度もあります(無料、※9)。今、介護に直面した従業員がいるならもちろんのこと、介護に直面する可能性が高まる40歳代以上の従業員が多ければ、今のうちからこのような制度を利用して準備しておいてはいかがでしょうか。


※7 公益財団法人 生命保険文化センター「平成30年度生命保険に関する全国実態調査〈速報版〉」
   https://www.jili.or.jp/press/2018/pdf/h30_zenkoku.pdf (P.95)
※8  https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000119918.pdf
※9  http://ikuji-kaigo.com/lp/kaigo/

著者プロフィール

高橋 美紀(中小企業診断士・社会保険労務士)

農業関連団体、食品卸売会社、社会保険労務士事務所を経て独立。専門は人事労務管理・組織活性化であり、特に昨今は働き方改革推進や両立支援に重点を置いて活動中。「制約を持っても能力発揮できるような環境づくり」を応援している。一方、女性のキャリア開発支援にも注力。日本女子大学非常勤講師。

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