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墨田区のものづくり企業から経営戦略の本質を探る

ものづくり企業を取り巻く環境が、日本にとどまらず世界の中で大きく変化し複雑になる中、ものづくり企業のとても元気な町があります。東京都の墨田区です。墨田区のものづくり企業はどのような経営戦略を立て実行しているのか? その秘密を探ります。

(掲載日 2019/12/13)

ものづくり企業における経営戦略

1.はじめに


 東京都墨田区はものづくり、製造業を生業とする企業が多いです。平成30年工業統計調査(平成29年度実績)では、東京都の区市町村別の製造業の事業所数は、大田区、足立区に次いで墨田区が3番目に多く、703事業所(構成比6.8%)です。
 また、東京都の区市町村別の製造品出荷額等 (従業員4人以上)は、東京都の区部の中で墨田区は上位4位です(構成比3.5%)。

 墨田区のものづくり企業はどのような経営戦略を行っているのでしょうか。

2.町工場の挑戦:事業構造を変える


 株式会社浜野製作所は、平成30年度には当時の天皇陛下が工場見学に訪れ、令和元年6月には浜野慶一社長が国連で講演され、国連の報告書にも事例として掲載されました。

 浜野社長が家業を継いだ頃は、家族経営の自宅兼工場の町工場で、大手メーカーの4次・5次下請けでした。依頼された仕事を行うだけではいけないと浜野社長が目指したのは、既存の事業構造を変えることでした。つまり下請け体質からの脱却を試みます。

 浜野製作所は、様々な金属加工ができるので、複合的な加工が得意です。アイデア具現化の相談、設計・開発の上流工程、試作・小ロット生産、量産・組立、検証の下流工程まで一気通貫のものづくりの実現を目指しています。

 産学官連携事例としては、電気自動車「HOKUSAI」の開発、深海探査艇「江戸っ子1号」の開発を行いました。地域連携事例としては、「配財プロジェクト」(*1)や「アウト オブ キッザニア in すみだ」(*2)を行っています。

 さらに高度人材の集まる都市型・先進ものづくりへの挑戦として、スタートアップ、研究者、メーカー、デザイナー、設計者の「かたちにしたい」という想いを実現するために「Garage Sumida」という開発拠点を立ち上げました。オリィ研究所の福祉ロボット開発(遠隔操作型コミュニケーションロボットOriHime)、株式会社チャレナジーの次世代型風力発電機の開発等、多くのハードウェアスタートアップの支援を行っています。Forbes JAPANの2017年1月号「世界を変える!スタートアップ100選」では、浜野製作所と関わりのある企業が11社も掲載されました。

 現状に甘んずることなく、経営戦略を描き、目標をもって取り組んでいくことでひとつひとつを実現しています。

写真 世界のものづくりイノベーションを支える開発拠点 Garage Sumida



*1:墨田区内企業の金属・皮革・ウレタン・メッキ・紙・ガラス・繊維・ゴム・プラスチックなどの工場から出る「廃材」を「配財(新しく生まれ変わって世の中に配られる財産)」に変えるべく、新しい価値を創出しようとして発足したプロジェクト
*2:すみだの“ものづくり”と“観光”を融合した事業として、こどもの職業・社会体験施設の「キッザニア」、JTBの体験プログラム「旅いく」、および墨田区内の中小企業が連携し、子ども向け職人体験教室を開催





3.既存の概念を打破する


 株式会社モルフォ(墨田区両国)は、革服飾雑貨の製造・販売を行っています。バッグ、財布、キーホルダー等の革製品は、品質へのこだわりを持ち、見えない工程にも手間を惜しまず、長年の仕事を通じた職人達の技術によって質の高い商品を創り出しています。日本のモノづくり「MADE IN JAPAN」の歴史に培われた日本の美意識や技術の底力、奥深さを追求しています。

 主力の「CYPRIS(キプリス)」ブランドを始め、素材や形状、対象が異なるブランドを提供しています。
 革は素材によって用途が異なっているため、通常は異なる用途には使われません(例えば自動車に使われる革は革服飾雑貨には使われません)。モルフォでは発想の転換を行い、耐久性を突き詰めたクルマやレーシングカー、レーシングスーツなどに使われる最先端の革素材「ハイブリッドレザー」を使用して「Neu interesse(ノイインテレッセ)」という革服飾雑貨のブランドを創りました。ノイインテレッセの商品は、クルマの素材の洗練さがあり、好評を得ています。既存の概念にとらわれないことで、新たな製品を作り出しました。

 伝統を守りつつ、革新性にも取り組んでおり、繊研新聞社主催百貨店バイヤーズ賞・革小物部門で「ベストセラー」を連続受賞しました。

写真 株式会社モルフォの高品質な革製品





4.蓄積したノウハウを活用する


 株式会社和興(墨田区緑)は、アパレル企画・縫製業を営んでいます。裁断・縫製工程では、少ロット多品種、高難易度、短納期生産対応の実現に尽力しており、本縫い製品(*3)、ロック製品(*4)のどちらも得意としています。職人たちがひとつひとつ大切に創り上げ、世界から評価される「MADE IN JAPAN」を継承しています。

 また、OEM生産(*5)とともにODM生産(*6)も行っています。ODM生産の内容としては、60年以上に渡る縫製業のノウハウの蓄積から、商品コンセプト、素材、二次加工、コスト等のコンサルティングを行っています。また、数多くのプロジェクトを担当してきたベテランのパタンナー(*7)を中心に、「最終的に身に付ける人にとって大切なこと」を判断基準にデザインをしています。主たる生産を行う岩手工場と東北エリアを中心とする協力工場による「東北エリアで完結できる生産体制」という強みを背景に、MADE IN JAPANのものづくりをひとつひとつ丁寧に届けています。

 実例としては、高い縫製技術により動きやすく汗も吸収しやすいジャージ素材の工場のワークウェア、自閉症児のための子供服など、商品企画の段階から相談に乗り、素材・縫製・染色・プリント等、多岐にわたるアドバイスをもとにできたプロジェクトが数多くあります。

写真 株式会社和興の代表取締役 國分孝一氏



*3:家庭用ミシンで一般的に用いられている縫製方法。縫い目の構成が縫い目ごとに独立しているために、ほどけにくく返し縫いが容易
*4:布の縁をかがって縫う。縫い糸の使用される量も本縫い等と比べると非常に多くなるが、伸縮性に富む縫い目が得られる
*5:委託者のブランドで製品を生産すること
*6:委託者のブランドで製品を設計・生産すること
*7:デザイナーが作成したデザインをもとに、パターン(型紙)におこす専門職のこと





5.ものづくり企業における経営戦略


 市場環境は変化をしていきます。ダーウィンの進化論のように最も成功する企業は、外界の環境変化に最も適合した企業であり、最も成功する製品は、他以上に優れた競合優位を持つモノであるともいえます。

 ものづくり企業における経営戦略とは、ご紹介した3社のように自社の強みを理解し、環境変化に対応しつつ、自社の向かっていく方向を描くことで、実現できるものです。

著者プロフィール

高田 直美(So支援事務所 代表)

中小企業診断士/認定経営革新等支援機関
企業にて、マーケティング、戦略、研修等に携わる。中小企業診断士として、経営支援、研修、執筆、各種申請支援、地域活性化支援、女性活躍支援、子どもの未来プロジェクト等を行う。

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