新人の早期戦力化・定着を促すOJTのポイントとは?
事業を継続・拡大させるには、新たに入社した従業員やアルバイトスタッフが早期に活躍できる環境づくりが欠かせません。OJTを適切に実施できれば、新人の戦力化が早まるだけでなく、教える側にもメリットが生じます。はたして、効果的なOJTのポイントとは? 専門家が解説します。
(掲載日 2026/02/05)

【人材定着の新常識】「教える」が会社を変える!心理学が導く即戦力化と組織活性化の具体策
慢性的な人手不足が続く中、多くの企業が「いかに新人を早く戦力化し、定着させるか」という課題に直面しています。その解決策として、今も多くの職場でOJT(On-the-Job Training:実際の業務を通じて、上司や先輩が指導・育成を行う教育手法)が採用されていますが、現場の声を聞くと「理想と現実のギャップ」に悩まされているケースが少なくありません。
「忙しくて教える時間が取れない」
「とりあえず現場に出して覚えてもらうしかない」
こうした状況が常態化すると、OJTは本来の目的を果たせなくなり、新人の不安やストレスを増幅させ、早期離職を招く結果になってしまいます。
では、OJTがうまく機能している職場と、そうでない職場の違いはどこにあるのでしょうか。その鍵は、「教えられる側」ではなく、「教える側」の心理状態にありました。
「放置型OJT」が新人の心を折る理由
入社・入職直後の新人は、業務スキル以前に「この職場でやっていけるのか」
「周囲に受け入れてもらえているのか」
といった強い不安を抱えています。この時期に特に重要になるのが心理的安全性です。
心理的安全性とは、「分からないことを分からないと言える」「失敗しても責められず、学びとして扱われる」「率直な質問や意見を出しても否定されない」と、本人が感じられる状態を指します。つまり、新人にとっての心理的安全性とは、「安心して学び、挑戦できる土台」があるかどうかということです。心理的安全性が高い職場では、新人が質問する前に怒られないかを考えなくて済むのです。
しかし現実のOJT現場では、担当者が多忙なあまり新人を十分にフォローできず、
- 質問しづらい雰囲気が生まれる
- ミスをしても理由や改善点が共有されない
- 失敗体験だけが積み重なっていく
といった状況に陥りがちです。このような環境では、新人は「聞いたら迷惑かもしれない」と感じ、次第に質問や挑戦を避けるようになります。これは心理的安全性が著しく低下している状態だと言えます。
さらに、十分な説明や練習の機会がないまま現場に立たされる、いわゆる「ぶっつけ本番型OJT」は、新人の自己効力感(自分はやれるという感覚)を大きく損ないます。
「できない自分が悪いのだろうか」
「自分はこの仕事に向いていないのではないか」
「ここでは成長できないかもしれない」
こうした思考が積み重なることで、新人は職場に居場所を見いだせなくなり、早期離職へとつながっていくのです。
新人の早期戦力化を阻む「放置型OJT」。これを打破するためには、教える側の負担を減らすだけでなく、教える側が「教えるメリット」を実感できる仕組みが必要です。実は、この「教える行為」こそが、現場を劇的に変える鍵となります。

教えることで、教える人が成長するという事実
ここで注目したいのが、心理学の研究成果です。シカゴ大学のアイエレット・フィッシュバック博士らの研究*1では、「他者にアドバイスをする行為」が、アドバイスをする本人のモチベーションや行動量を高めることが示されています。
彼らの実験では、学生を2つのグループに分け、
- 一方は後輩に勉強のアドバイスを書く
- もう一方は教師からアドバイスを受け取る
という条件で比較が行われました。その結果、他者にアドバイスをした学生の方が、学習時間が大幅に増加したのです。
重要なのは、アドバイスを考える過程で「自分ならどう行動するか」を具体的にイメージする点にあります。つまり、人に教えることは、自分自身の行動指針を明確にし、主体性を高める行為でもあるのです。
教えさせること自体が教育担当者の育成になっていることを事例で説明していきます。
*1 出典:Eskreis-Winkler, L., Milkman, K. L., Gromet, D. M., & Fishbach, A. (2018). Dear Abby: Should I Give Advice or Receive It?. Psychological Science.
現場で試した「教えるOJT」という仕組み
私がガソリンスタンドの店長として現場を任されていた際、この心理的メカニズムを意識しながら、OJTの進め方を見直しました。それまで新人教育は主に正社員が担っていましたが、あえて一定の経験を積んだ大学生アルバイトスタッフにトレーナー役を任せる体制へと切り替えたのです。当初は、「本当に任せて大丈夫だろうか」という不安もありました。しかし、実際に運用を始めてみると、その懸念は良い意味で裏切られることになります。
その象徴的な例が、当時大学生だったアルバイトスタッフのAさんです。
Aさんは、店長である私から依頼を受け、新人スタッフのOJTトレーナーを担当することになりました。OJT用にAさんと作成したマニュアルをもとに、彼は現場での指導に前向きに取り組んでいきました。
ある日の指導中、新人スタッフから
「なぜエンジンオイル交換は定期的に必要なんですか?」
と質問を受けたAさんは、言葉に詰まってしまいます。これまで作業としては当たり前に行ってきた業務でしたが、その理由や仕組みを、他人に説明できるほど理解していなかったことに気づかされた瞬間でした。
この出来事をきっかけに、Aさんは自ら店長の私に相談し、エンジンオイルの役割や劣化の仕組み、交換を怠った場合のリスクなどを改めて学び直しました。その結果、オイル交換がエンジンの保護や車両性能の維持に不可欠である理由を、新人スタッフにも、そしてお客様にも、納得感をもって説明できるようになったのです。
変化はすぐに成果として表れました。
Aさんは、接客中に「交換を勧める」のではなく、車の状態や使用状況に応じて必要性を伝えられるようになり、エンジンオイル関連の販売実績を大きく伸ばしました。教えるために学び直した知識が、自身の接客力と成果の向上に直結したのです。Aさんは教える立場になって初めて、自分が何を分かっていなかったかを知りました。
このように、教える立場になったアルバイトスタッフには、
- 業務の理解が表面的な作業レベルから、本質的な理解へと深まる
- 自分の成長を実感し、仕事への自信が生まれる
- 職場の中での役割や存在価値を意識するようになる
といった変化が見られました。
「教えること」そのものがやりがいとなり、仕事に向き合う姿勢が主体的なものへと変わっていったのです。

「教える側」の定着と、「教えられる側」の安心
さらに興味深かったのは、その後の展開です。トレーナーを務めたAさんは、大学卒業後、正社員として入社することを決意してくれました。Aさんに理由を尋ねると、「自分が教えた新人が成果を出す姿を見て、『個人の力』ではなく『組織の力』を最大化させるマネジメントの面白さに気づいた」と言います。単なる作業員ではなく、育成を任されたことで「組織への貢献実感」が芽生え、それが「この会社でキャリアを積みたい」という定着意欲に繋がったのです。
また、この仕組みは「新人の戦力化」にも劇的な変化をもたらしました。
年の近いアルバイトがトレーナーを務めることで、
- 心理的ハードルが下がり、新人が「今さら聞けないこと」も即座に質問できる
- 正社員が忙しい時でも、現場のトレーナーが横で寄り添うため「放置」がなくなる
- ミスの芽をその場で摘み、成功体験を積み重ねられる
その結果、新人の離職率は大幅に低下しました。まさに「教える側」にはやりがいを、「教えられる側」には安心感を与える、人材育成の好循環が生まれたのです。
業種を問わず活かせるポイント
この仕組みは、ガソリンスタンドに限らず、飲食・小売・介護・物流など、多くの現場で応用可能です。導入の際に意識したいのは次の点です。- トレーナーの役割と責任を明確にする
- 指導内容をマニュアル化し、属人化を防ぐ
- 上司が定期的にフォローし、トレーナーを孤立させない
これにより、新人の安心感と、教える側の成長意欲を同時に高めることができます。

OJTを「人を育て続ける仕組み」へ
OJTは単なる新人教育の手段ではありません。設計次第で、既存スタッフの成長を促し、組織全体の定着率を高める強力な仕組みになります。「教える人も育ち、教えられる人も育つ」
そんなOJTを実現できたとき、人手不足は「外から補う問題」ではなく、「内側で解決できる課題」へと変わり、結果として、新人は「早く・安心して・戦力化」されることとなります。
貴社のOJTは、教える側の心理や成長まで視野に入れた設計になっているでしょうか。
今こそ、OJTの在り方を見直すタイミングかもしれません。
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