中小企業のためのマーケティング消去法「やらないことを決める戦略」
SNS、動画、広告…。どれも魅力的だが、試してみるまで成果は読めない。中小企業が迷わず進むためには、消去法で自社に合う方法を見極めることが欠かせません。
(掲載日 2025/12/23)

自社の業種に適したマーケティング消去法
「やらないことを決める」マーケティングの考え方

※筆者提供(編注)この画像は「類似性」または「依拠性」を満たさず、著作権侵害にあたらないと判断し掲載しています。
マーケティングとは「新しいことを増やす活動」ではなく、「限られた資源をどこに使うかを選ぶ」ことが重要です。多くの企業は、やってみないと効果が分からないと感じており、実際に試すことは大切です。ただ、すべてを手当たり次第に行えば、時間も費用も分散し非効率になります。特に中小企業では、人材・時間・予算が限られるため、どこに集中し、何を「やらないか」を決めることが成果の分かれ目となります。あえて手を広げず、選択と集中で成果を上げる「引き算のマーケティング」の考え方を整理し、自社のターゲット顧客層、商品特性に基づき、実行すべき施策を見極めるための視点を解説します。
やることを増やさず、選択と集中で成果を出す
マーケティング方法は多様です。WEBサイト、LP、ブログ、SEO、MEO、パンフレット、看板、展示会、ポップアップストア、DM、FAXDM、メルマガ、SNS(LINE・Instagram・Facebook・X・TikTok)、リスティング広告、DP広告、SNS広告、アフィリエイト、ポータルサイト掲載、キュレーション、口コミ対策、SFA、CRM、小冊子、カタログ、アプローチブック、動画・ショート動画、テレアポ代行、問い合わせメール等、上げればきりがありません。どれも一度は試してみる価値があるように見えますが、戦略なく行えば、結果はどれも中途半端に終わります。だから「やらないこと」を決め、限られた資源を効果的なものにのみ絞ることが大切です。顧客層・商品特性・競争環境によって有効施策は変わる
マーケティングの正解は、顧客層・商品特性・競争環境によって大きく異なります。法人向けか個人向けか、「今すぐ必要とする商品」か「いずれ検討する商品」かで、手法はまったく変わります。顧客が何を重視し選ぶか、商品が高級品か低価格品か、競合や類似商品が多いか少ないかによって、方法が変わります。過去に売れていた商品でも、似た商品が増えれば売れなくなることは日常茶飯事です。だからこそ、顧客がどんな視点で比較し、競争相手がどんな動きをしているのかを常に観察し、その変化に合わせてマーケティング方法や戦術そのものも柔軟に見直し、訴求方法を最適化していくことが大切です。うまくいかないマーケティングの共通点とその背景
検索広告・SNS広告で反応が悪かった事例

※筆者提供(編注)この画像は「類似性」または「依拠性」を満たさず、著作権侵害にあたらないと判断し掲載しています。
建築業界向けの専門サービスを提供する企業が、検索広告*1とSNS広告を実施していました。しかしクリック数、問合せは一定数あったものの、広告費に対する成約が少ない状況が続きました。
実は、ターゲット顧客がどの媒体をチェックしているかを十分に把握していないまま施策を行っていたことが、成果不振の要因でした。
*1 検索広告…検索エンジンの検索結果ページに表示される広告のこと。検索キーワードによって表示される広告が変わる。リスティング広告とも呼ばれる。
売り手目線の広告媒体選定では顧客に届かない
既存顧客の数社にヒアリングを行ったところ、「仕事では業界紙を信用し読んでいる」「メールより、まだFAXを使っている」「ネット広告はあまりクリックしない」等という声がありました。そこでマーケティング消去法の考え方で複数の媒体候補から広告媒体を絞り込み、最終的に特定の業界専門誌への広告とFAXDMの施策に切り替えました。そこから WEBサイトを検索してもらうという導線へ改善した結果、反応が大きく改善しました。
コンバージョンの設定が悪い
コンバージョンとはWebサイトや広告などにおいて、ユーザーに達成してほしい目標です。この事例では「問合せ獲得」をコンバージョンに設定していたことも、不振の原因でした。そこで、コンバージョンを「パンフレット請求」に変更したことで、見込み顧客の母数が増加し、その後の営業フォローによって成約数の改善が実現できました。マーケティングにおいて、コンバージョンのハードルの高さは成果を大きく左右します。段階を踏んだ設計が重要です。
BtoCマーケティングの本質と成功のパターン
BtoC(個人向け)マーケティングとは、消費者の感情を動かし、信頼を積み重ねながら長期的な関係を築く活動です。共感や憧れといった感情価値を刺激しつつ、安心感や信頼を育む仕組みを持つことで、初回購買から継続的なブランド支持へとつなげることができます。インフルエンサー活用で高級化粧品の売上を伸ばした企業

※筆者提供(編注)この画像は「類似性」または「依拠性」を満たさず、著作権侵害にあたらないと判断し掲載しています。
ある高級化粧品を販売するある企業は、InstagramやLP*2を活用してブランドの世界観や使用感を丁寧に発信しました。さらにインフルエンサーによるSNS投稿を組み合わせた結果、商品の信頼性と共感が拡散し、売上を大きく伸ばすことに成功しました。BtoCのマーケティングでは、購買の決め手が「機能」よりも「感情」にあります。美しさ・共感・憧れといった情緒的価値を刺激することが、消費者の行動を動かす鍵となります。InstagramやTikTokの動画、Google口コミや体験談といった「リアルな声」は、顧客の共感を生み出す最強のツールです。
なお、インフルエンサー活用を行う場合は、「広告」「PR」等の明示が必要となるため、ルールに沿った運用が欠かせません。
*2 LP…ランディングページの略称で、広告やSNSなどを経由して最初に訪れるwebページ。1ページで完結していることが多く、商品やサービスの魅力がユーザーにより伝わるデザインが重視される。
「発信しても届かない」ため成果が出ないケースもある
自社のWEBサイトやLPでいくら丁寧に魅力的に発信しても、顧客が集まる場所に露出できなければ見られないケースも多くあります。BtoCでは、口コミサイトや比較サイト、SNSなど、すでに顧客が信頼している多くのプラットフォームが存在します。これらへの掲載には販売手数料が発生する場合もありますが、それを「宣伝用の費用」と捉えて投資することが重要です。まずは信頼性の高い場で商品を見てもらい、ブランドの認知度を高めてから自社サイトや直販へ誘導し、利益を回収する戦略を設計すると効果的です。比較と口コミの時代に求められる信頼構築マーケティング
個人顧客は衝動的に購入することもあれば、「失敗したくない」という心理から比較や口コミを慎重に確認します。そのため、BtoCマーケティングでは、感情に訴える発信と、信頼を積み重ねる仕組みの両立が欠かせません。口コミやSNSで共感を生み、購入後はLINEやSNSのDM(ダイレクトメッセージ)などで関係を継続することが、売上とブランド力の向上につながります。企業側は、顧客の目線が届く場所で、安心感と信頼を積み重ねる発信を継続的に行うことが求められます。BtoBマーケティングの信頼構築と成果の仕組み
BtoB(企業向け)マーケティングとは、個人消費者ではなく企業や組織を顧客とし、信頼・実績・情報提供を通じて長期的な関係を築きながら受注につなげる活動です。「反応がある=売れる」とは限らないSNSの落とし穴

※筆者提供(編注)この画像は「類似性」または「依拠性」を満たさず、著作権侵害にあたらないと判断し掲載しています。
サロン向けに美容機器を販売するある会社は、Instagram広告で一定の反応を得ていました。投稿への「いいね」やフォロワー数も増え、手応えを感じていましたが、実際の購入率を分析すると驚くほど低いものでした。SNSは興味喚起やイメージ形成には有効ですが、BtoB取引では最終的な意思決定を行う担当者が限られており、感覚的な発信が直接受注に結びつきにくいものです。一方、「業務用 〇〇機器」などの検索広告やブログ記事からは、具体的な導入を検討している企業が流入しており、商談や契約に至る確率が高い傾向がありました。
特にBtoB事業を実施している場合はSNSの活用を消去法の考え方で再検討するとよいでしょう。
信頼を積み上げるBtoBマーケティングのポイント
BtoBでは、感覚的な広告よりも「信頼を見せる」仕組みが成果を左右する。展示会での直接対話は、製品の実物確認や導入相談を通じて確かな関係を築く好機となります。技術資料や導入事例は、専門性を示す強力なコンテンツであり、信頼形成の武器になります。さらに、こうした活動を通じて優良なリード(見込顧客)を獲得し、MA(マーケティング支援ツール)で情報を一元管理することが有効です。フォローを継続することで、効率的に関係性の質を高め、成約の確度を着実に引き上げられます。AIを活用したマーケティング効率化
文章・画像・動画はAIで作る時代

※筆者提供(編注)この画像は「類似性」または「依拠性」を満たさず、著作権侵害にあたらないと判断し掲載しています。
ライティング、SNS投稿、ロゴ、画像、動画制作まで、AIを活用し生成できる時代となりました。少人数でも短時間で多くのコンテンツを発信できるため、中小企業でも大手並みの露出が可能になりました。ただし近年、SNS各社(Instagram・X・TikTokなど)はAIによる自動投稿を制限する方向にあり、ツール任せの運用には注意が必要です。
人間らしさが差別化のポイント
今後は更にAI生成コンテンツが氾濫するなか、ユーザーは「機械的な発信」を敏感に見抜くようになってきます。AIが生成した投稿のみでは共感を得にくく、むしろ敬遠される傾向になるでしょう。だからこそ、経営者の言葉や現場のリアルな写真など、人間らしさを残した発信がブランドの差別化要素となります。AIは効率化の道具にとどめ、最後の温度感を伝えるのは人の役割です。著者プロフィール
























