大谷選手に学ぶ「不可能を可能にする」事業計画書の極意
米大リーグ(MLB)・大谷翔平選手が高校時代に作成した目標管理シートをご存知でしょうか。このシートによって目標達成に必要な要素やアクションが明確となり、“生きた事業計画書”の作成につながります。今回は目標管理シートを活用した事業計画書の作成方法を紹介します。
(掲載日 2026/02/12)

大谷翔平選手に学ぶ「目標管理」〜実現可能な事業計画書の書き方とは?
1.約1,014億円という契約が示した「将来性(ポテンシャル)」
ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手は、10年7億ドル(約1,014億円※2023年当時のレート)という、スポーツ史上でも最大級の契約を結びました。この金額は、単に過去の実績を基にした報酬ではなく、「今後も前例のない価値を生み出し続けるだろう」という将来性(ポテンシャル)を踏まえた投資だといえます。その期待に応える形で、大谷選手は2025年シーズンにおいても、投打にわたりチームの連覇に貢献し、通算4度目のMVPを受賞するなど、圧倒的な成績を残しました。
さらに注目すべきは、右肘の手術を経て、投手としても公式戦のマウンドに復帰した点です。打者としてフルシーズンに近い出場を続けながら、投手としても役割を果たす。この事実だけでも、彼の存在がいかに特異であるかが分かります。
企業経営においても、このような将来性(ポテンシャル)の概念は極めて重要です。金融機関が融資判断をする際、融資担当者が見ているのは、過去の決算書に記された数字だけではありません。事業計画書に描かれた未来像が、どれだけ具体的で実現可能性が高いか。その計画に込められた経営者の本気度や、実行力への信頼が、融資の可否を左右します。つまり、過去の実績は「信用の土台」であり、未来への計画は「期待を生む源泉」なのです。大谷選手が示したように、確かな実績に裏打ちされた明確なビジョンこそが、周囲の信頼と支援を引き寄せる力となります。
2.役割の特化が一般的な世界で「二刀流」を選んだ理由
MLBに限らず野球界は、一般的に投手は投手、打者は打者として、それぞれが自分の役割に特化し、能力を磨く「専門分業」が基本です。大谷選手がプロ入りした当初、二刀流への挑戦は「長くは続かない」「どちらも中途半端になる」という否定的な見方が少なくありませんでした。これは、専門性を深めることこそが成果への最短距離だ、という固定観念が強かったからです。
しかし大谷選手は、その前提そのものに挑みました。投打を分けるのではなく、「投げること」と「打つこと」を一人の選手の中で統合し、全体として最大の価値を生み出す。この姿は、部門最適が進みすぎて全体像が見えなくなりがちな企業経営の課題とも重なります。
中小企業の真の強みは、組織がコンパクトで全体を見渡せることにあります。営業が製造現場の状況を理解し、経理が営業の課題を把握している。こうした部門を超えた連携や、一人が複数の役割を柔軟に担うことで、大企業にはない機動力とスピード感を発揮できます。大企業では意思決定に時間がかかる場面でも、中小企業なら即座に判断し、動くことができる。この機動力こそが、変化の激しい時代における中小企業の競争優位性となります。大谷選手の二刀流は、中小企業ならではの「全体最適」の可能性と、固定観念を超えた挑戦の価値を、私たちに示唆しているといえるでしょう。

3.高校時代に描いた「目標の設計図」
この挑戦の原点として語られるのが、高校時代の目標管理の考え方です。大谷選手は岩手県の花巻東高校1年生の頃、佐々木洋監督の下、将来の大きな目標を中心に置き、そこから必要な要素と行動を細かく書き出した「マンダラチャート®*1」を作成していたことで知られています。*1…マンダラチャート®は一般社団法人マンダラチャート協会の登録商標です

大谷選手が高校時代に作成したチャートでは、中心に「ドラ1 8球団」という大目標を据え、その周囲に「体づくり」「コントロール」「キレ」「メンタル」「スピード160km/h」「人間性」「運」「変化球」の達成要素を配置。さらにそれを実現するための行動として、直接野球に関わることだけでなく、「人間性」を高める行動や、さらに「運」を磨く行動として「ゴミ拾い」、「審判への態度」までが詳しく具体的に記されていたことは、多くの報道でも紹介されています。この手法は、中心の1マスに目標、周囲の8マスに達成要素、その外側に具体的な行動を書き込む計81マスの構造が特徴です。
重要なのは、このチャートが「夢」ではなく、「行動に落とし込まれた計画」だった点です。目標から逆算し、要素に分解し、今日やるべきことまで具体化する。この構造こそが、後の二刀流という前例のない挑戦を支える土台となりました。
このマンダラチャートの手法は、経営計画の立案にも直接応用できます。「5年後に売上3億円」という大きな目標を掲げたとき、それを達成するために必要な要素は何か。商品力、営業力、財務体質、人材育成、顧客満足度。それぞれの要素について、今期何をすべきか、今月何をすべきか、今週何をすべきかを具体化していく。この作業を通じて、目標は「見える化」され、計画は単なる願望から実行可能な戦略へと変わっていくのです。
4.事業計画も「目標→要素→行動」で考える
企業の事業計画書も同じです。たとえば「来期売上1億円を達成する」という目標があるなら、それを構成する要素は何かを分解します。
新規顧客の獲得、既存顧客のリピート、客単価の向上、利益率の改善、等々。
さらに、それぞれについて「誰が」「いつ」「何をするのか」という行動レベルまで落とし込みます。「営業部長が第1四半期中に、新規リストから毎週10件訪問する」「製造部門は不良率を3パーセント以下に抑える施策を6月末までに実施する」といった具合に、担当者、期限、具体的アクションを明確にします。
ここまで具体化されて初めて、計画は現場で動き始めます。抽象的な目標では、誰も動きません。具体的な行動指針があってこそ、組織は前に進むのです。

5.振り返りが計画を"生きたもの"にする
計画は、立てた瞬間から陳腐化が始まります。だからこそ、定期的な振り返りが欠かせません。大谷選手も、日々の徹底した自己管理と準備のプロセスの中で、常に自身の状態を確認し、微調整を繰り返していることが高く評価されています。企業経営においても、月次・週次で進捗を確認し、行動と結果のズレを修正する。この習慣が、計画を「実行を支える羅針盤」に変えます。
振り返りの際には、単に数字を追うだけでなく、「なぜ計画通りにいかなかったのか」「想定外の成果が出た要因は何か」を深く分析することが重要です。この学びの蓄積こそが、次の計画の精度を高め、組織全体の実行力を底上げしていきます。PDCAサイクル*2を回すとは、まさにこのことです。
*2…PDCAサイクル:目標の設定(Plan)→実行(Do)→結果の確認(Check)→改善(Action)を繰り返し、成果につなげていく考え方
6.事業計画書はビジョンを共有する道具
事業計画書は、金融機関のためだけの書類ではありません。経営者がどこを目指し、何を大切にしているのかを、社員と共有するための道具です。大谷選手の存在がチームに与えた影響は、成績だけでは測れません。明確な目標を掲げ、それに向けて行動し続ける姿勢そのものが、周囲を動かしてきました。
同様に、経営者が明確なビジョンを示し、具体的な計画として提示することで、社員は自分の役割を理解し、主体的に動き始めます。「会社がどこを目指しているのか」「自分は何を期待されているのか」が明確になれば、社員一人ひとりが当事者意識を持って働けるようになります。計画書は、組織全体を一つの方向に向かわせる「共通言語」なのです。

7.まとめ:経営のマンダラチャートを描く
高い目標を掲げ、要素に分解し、行動に落とし込み、振り返る。この積み重ねが、不可能を可能にします。
ぜひ一度、貴社にとっての「経営のマンダラチャート」を描いてみてください。そこには、今やるべきことと、次に進むべき道筋が、きっと明確に現れるはずです。
大谷翔平選手が示したのは、「前例がないことは、不可能ではない」という真理です。中小企業経営者の皆様も、自社ならではの強みを活かし、新たな価値を創造していただければと思います。計画という羅針盤を手に、確実に一歩ずつ前進していきましょう。
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