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いますぐに取り組むべき、企業のメンタルヘルス対策とは

コロナ禍で働き方は大きく変化しました。働き方が自由になったと歓迎する声がある一方で、働きづらさを抱える人も増えており、中には心を病んでしまう人も多く見られます。対策の遅れる中小企業で取り組むべきメンタルヘルス対策の方法とは・・・

(掲載日 2021/10/26)

コロナ禍の今に考えたい、中小企業のメンタルヘルス対策

今年(2021年)6月、厚生労働省が「過重労働や仕事のストレスで精神障害を発症し、労働災害に認定された人は2020年度が608人で過去最多になった」と発表をしました。下図は厚生労働省が公表した精神障害の労災請求、決定及び支給決定件数の推移を示したものです。これによると、精神障害による労災請求件数は過去5年間に500件近く増え、決定件数も増加傾向にあることがわかります。

出典:厚生労働省ホームページ「別添資料2 精神障害に関する事案の労災補償状況」
(https://www.mhlw.go.jp/content/11402000/000796022.pdf)に筆者加筆


特にコロナ禍でリモートワークが増えている中、「コロナうつ」といわれる人が増えてきており、今後この人数はますます増えていくのではないかと懸念されます。

こういった状況の中、メンタルヘルスについて、企業の対策はどこまで進んでいるのでしょうか。厚生労働省が発行している「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」で、平成30年における事業所規模別のメンタルヘルスケアの実施状況のデータが掲載されています。100人以上の事業所においてはほぼ100%取り組みがされている一方、事業所規模が少なくなるとともにその割合は減少し、10~29人規模では約半数の企業がメンタルヘルスケアに取り組んでいないということがわかります。

図 心の健康対策(メンタルヘルスケア)に取り組んでいる事業所割合
出典:「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」(平成30年 厚生労働省 独立行政法人労働者健康安全機構)
(https://www.mhlw.go.jp/content/000560416.pdf)のデータより筆者作成


<メンタルヘルス対策を怠ることによる4つのリスク>


このコラムを読んでおられる方の中には「うちは、心を病んでいる従業員なんていない」「この状況下でメンタルヘルス対策をやっている場合じゃない」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、そうやってメンタルヘルス対策を放置しているとどうなってしまうのでしょうか。

メンタルヘルスケアを怠ることにより、次のような4つのリスクを生む可能性があります。

1.高額な損害賠償請求
うつ病にかかり、その結果、従業員が自殺してしまった場合、遺族から民事訴訟による賠償請求が発生する場合があります。有名な事例では、2000年3月24日に最高裁判決の出た大手広告代理店事件が挙げられます。新入社員のAが配属後、帰宅しない日が続き、「元気がない」「眠れない」「自信がない」と上司に訴えるようになったなど、うつ病の症状が現れ、入社1年5か月後に自殺に至ったというものです。この時、会社は1億6800万円という多額の和解金を支払っています。この事例は大企業のものですが、中小企業においても、事業継続が危ぶまれるような多額の賠償金を支払わないといけなくなる可能性は十分に考えられます。

2.企業イメージの低下
近年、企業の社会的責任が強く求められている時代です。近年注目されているSDGsの17のゴールの中にも「8.働きがいも経済成長も」と記載されており、「働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する」という取り組みの必要性が述べられています。

そんな中、インターネットやSNSが発達している現代において、もしも「自社の従業員が自殺した」というニュースが流れてしまったらどうでしょうか? 自社のイメージは一挙に低下してしまいます。それにより業績は悪化し、事業継続が難しくなってしまう可能性が高まります。

3.優秀な人材が集まりにくくなる
企業イメージが低下すると、優秀な人材が集まりにくくなってしまいます。近年インターネットにはブラック企業という言葉が飛び交っており、採用応募者は特にこれらの情報に敏感です。企業の情報をインターネットで検索して、メンタルヘルス対策を怠っているということがわかると、採用募集に応募する人数が大きく落ち込んでしまいます。優秀な人材が集まらなくなることは、企業の事業継続を考える上で非常に深刻な問題です。

4.生産性の低下
「出勤はしているけども体調が悪い」「なんだか気持ちが沈んでいる」などの理由で仕事があまり手につかないという経験はないでしょうか?

こういった理由で生産性が低下している状態を「プレゼンティーイズム」と言います。経済産業省の「企業の「健康経営」ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~(改訂第1版)」によると、このプレゼンティーイズムによる労働損失の研究がおこなわれており、医療費や傷病手当金などを含めた健康関連総コストのうち、このプレゼンティーイズムが77.9%を占めるという結果が現れました。この体調不良にはメンタルヘルス不全に関するものも当然含まれており、メンタルヘルス対策はこれらの生産性低下のリスクを下げることがわかります。

図 健康関連総コスト
出典:「企業の「健康経営」ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~(改訂第1版) 平成28年4月経済産業省」
(https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkokeiei-guidebook2804.pdf)のデータより筆者作成


<メンタルヘルス対策に必要な4つのケア>


では、具体的にメンタルヘルス対策はどのようなことを行えばよいのでしょうか?
前述の「平成30年職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」では下記の「4つのケア」を継続的に行っていくことを求めています。

1.セルフケア
まず、労働者自身がストレスについて正しい理解をし、ストレスに適切に対処できる能力をつけていくことが必要です。現在行われているストレスチェックの活用はもちろんですが、教育研修、情報提供を行う等の支援をすることも重要です。また一般社員だけでなく、管理監督者においても、高ストレスに晒される可能性は十分に考えられますので、管理監督者を含めたセルフケアの情報提供が不可欠です。

2.ラインによるケア
各職場において、常に職場環境等の把握をし、リスクのある環境や行動があった場合、それを即改善できるような体制づくりをラインの管理者が中心となって行うことが大切です。また、従業員の悩み事等の相談対応や、職場復帰における支援なども含まれます。

3.事業場内産業保健スタッフ等によるケア
事業場内における産業保健スタッフ等(多くの場合、総務・人事が担当)は、前述のセルフケア、ラインによるケアが効果的に実施されるよう、労働者及び管理監督者に対する支援を行う役割が求められます。
また、メンタルヘルスケアの実施に関する具体的な立案、事業場外資源とのネットワーク形成、職場復帰支援における各機関との橋渡し役としての役割も必要です。

4.事業場外資源によるケア
社内だけでのメンタルヘルスケアに限界がある場合は、事業場外に支援を求めることも有用です。公的機関では様々な支援が行われており、ここではその一部を紹介いたします。

・産業保健総合支援センターの地域窓口(地域産業保健センター)
 全国47都道府県に設置されています。窓口での長時間労働者に対する医師による面接指導の相談や、医師や保健師によるメンタルヘルスに関する健康相談、事業場への戸別訪問による産業保健指導の実施等を行っています。

・地域障害者職業センター
 こちらも各都道府県に設置されています。リワーク支援事業では、休職中のうつ病など精神障害の従業員が円滑に職場復帰できるように、本人と事業主、主治医などが連携し、助言等の適切な支援を行っています。

この他にも国や地方公共団体が様々な支援策を実施しています。ほとんどが無料で行っていますので、積極的に活用されることをおすすめいたします。


これら4つのケアについては、それぞれが相関しており、連携して実施していくことが必要です。メンタルヘルス対策の一番大切な点は、トップがメンタルヘルスにおける重要性を理解し、真剣に取り組む姿勢ではないかと思います。

著者プロフィール

大口 憲一(Vrijednost Consulting(ブリジェドノスト コンサルティング) 代表)

中小企業診断士・国家資格キャリアコンサルタント・健康経営アドバイザー
製造業での生産管理や、公的支援機関を経験し2021年4月より独立。現場の業務改善、標準化による生産性向上、補助金活用を含めた事業計画策定支援、従業員モチベーションアップのためのキャリア支援等を得意としている。

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