BtoB中小企業の変革を成功に導くポイントと具体策<後編>
変革にITやDXは欠かせません。さまざまな業務プロセスにおいてデジタルツールは成功をもたらす武器になります。BtoB(法人向けビジネス)企業はツールを適切に活用することで、高精度の営業プロセスマネジメントを実現できます。今回はその具体的な活用方法を解説します。
(掲載日 2024/03/01)
“Change or Die”~変化を成功に導く営業プロセスマネジメント<後編>
成果を上げるマネジメントに必要なこと by P・F・ドラッカー
マネジメントと言えば、「ドラッカー」を思い浮かべる人が少なくないのではないでしょうか。ドラッカーの名著『マネジメント』を精読すると、マネジメントに必要な事は、以下である、と読み解くことができます。●企業の目的は顧客の創造である。
●そのために、企業は二つの必要な機能を持つ。それが「マーケティング」と「イノベーション(変革)」である。
●組織が機能を発揮して成果を上げるために実施することが「マネジメント」である。
●成果を上げる「マネジメント」に必要な事は、
・業務プロセス(BtoBの場合は営業プロセス)…作業を集め編成すること
・分析…仕事に必要な手順と条件を知る事
・ツール(道具)…適したツールを使ってそれらを行うこと
出典:『マネジメント【エッセンシャル版】基本と原則』(P・F・ドラッカー著 上田惇生編訳 ダイヤモンド社 2001年)を筆者要約
これらのポイントを押さえて日々の活動目標をマネジメントする事で、ビジョン実現に繋げたいところです。ついてはここから、オフィス用機器やIT機器・サービスを販売・提供するBtoB企業を例に、「適したツール」を活用した「営業プロセスのマネジメント」について話を進めていきます。
「適したツール」を活用した「営業プロセスのマネジメント」
IT機器やサービスを販売するBtoB企業にとって重要な「業務プロセス」は「営業プロセス」、つまり「営業活動」や「(その結果として創出した)案件」が該当します。また、現代における「適したツール」とは、コンピュータアプリケーション等の「システムツール」、中でも「営業プロセスをマネジメントするツール」としては「SFA/CRM*1」が代表的なツールとして挙げられます。
*1 SFA/CRM:CRM(Customer Relation Management)は顧客管理システムのことで、顧客情報を接触履歴も含めて記録・管理するためのシステム。SFA(Sales Force Automation)はCRMで蓄積された記録・情報を活用して営業活動を支援して効率化するためのシステム。近年はSFAとCRMを一つのシステムとして提供するベンダーが少なくない。
なお、2022年法人営業組織を対象とした調査*2ではCRMを導入している営業組織は36.1%。また、IDC Japanの調査*3では、国内CRMアプリケーション市場の2022年~2027年の年間平均成長率は10.1%で推移すると予想されている。
*2 HubSpot年次調査「日本の営業に関する意識・実態調査2023」https://www.hubspot.jp/company-news/stateofsales-20230215?
*3 国内顧客エクスペリエンス(CX)関連ソフトウェア/CRMアプリケーション市場予測を発表(IDC Japan株式会社 2023年6月20日)https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prJPJ50936823
では、SFA/CRMを「営業プロセスをマネジメントするツール」として活用するための“3大ポイント”について解説いたします。
SFA/CRM 活用のための“3大ポイント”
1.営業プロセスを定義した上で、具体的な活動をKPIとして定める2.活動のKPIをブラッシュアップし続けるマネジメント体制を確立する
3.マネジメント方法に基づいて、入力項目、入力ルールを決定し、SFA/CRMに実装する
“3大ポイント”その1.営業プロセスを定義した上で、具体的な活動をKPIとして定める
図5は、IT機器やサービスを販売するBtoB企業の営業プロセスの例です。上段は営業プロセスの概要、下段は具体的な活動の例です。
BtoB企業の変革ポイントの一つとして「モノ売りからコト売りへ」の対応が挙げられます。コト売り、すなわち「お客様への課題解決の提供」のためには、お客様の「課題」と「システム環境」の把握が欠かせません。それらを把握したら、課題やシステム環境に沿った最適な解決策を提案し、案件化を図ることになります。つまり「把握する“課題/システム環境”」「案件化する“解決提案”」の具体的な内容を、「活動のKPI」として施策別にそれぞれ設定します。
活動のKPIの具体例としては以下が挙げられます。
・“課題/システム環境”を把握するための「システム診断シート」収集活動を行った数
・把握した“課題/システム環境”ごとに設定した「解決パターン」による提案活動の数
図6は、「把握する課題/システム環境」の例です。KPI設定の際、参考にしてください。IT機器を販売する企業(事例企業)以外の業種の方は、「自社サービスが関わる領域」に置き換えてみてください。
“3大ポイント”その2.KPIをブラッシュアップし続けるマネジメント体制を確立する
図7の右方は、KPIブラッシュアップのイメージ図、左方は、KPIの検証ポイントを整理したマトリクス表です。最初から最適なKPIを設定できるわけではありません。設定したKPIを実行しながら、定期的に検証する“場”をもち(月次のキーマンMTG等)、左方のマトリクス表を元に検証の上、必要な修正を施すという「PDCAサイクル」を回していくことが、KPI最適化のポイントとなります。
“3大ポイント”その3.マネジメント方法に基づいて、入力項目、入力ルールを決定し、SFA/CRMに実装する
図8は、SFA/CRMに実装する項目を表したイメージ図です。顧客情報を起点に活動や案件の結果を蓄積し、その情報を分析し活用することが、営業活動の“生産性向上”に繋がることを表しています。蓄積していく情報は、把握した「課題/システム環境」、提案した「解決策」、その結果創出した「案件」、その結果導入/契約した「ソリューション(機器/サービス)」、これらの過程でお会いした顧客企業の「キーマン」「決裁者」。これらを漏らす事なくSFA/CRMに入力するためのルールを定め、システムの入力項目として実装した上で、キッチリ入力していく体制を構築していきましょう。
「データドリブン経営」について
SFA/CRMの活用を “3大ポイント”で実行する際、ベースにしたい考え方が「データドリブン経営」です。データドリブン経営を一言で表すと、「収集・蓄積したデータをもとに戦略の立案や施策の実行とそのマネジメントを行う経営スタイル」と言えます。
客観的なデータを活用することで、結果が出やすい、取引先、投資家などのステークホルダーに説明しやすい、社員に会社がやりたい事を腹落ちさせやすい、などのメリットがあります。
データドリブン経営の考え方は、“3大ポイント”それぞれの実行にあたり、以下のように当てはめることができます。
●ビジョンを実現する戦略に基づく施策の活動実施状況や案件発生状況を、SFA/CRMで収集・蓄積していく。
●収集・蓄積した「活動/案件」のデータを、受注数と照らして分析することで「受注率」や「案件発生率」を算出し、KPIの再設定に役立てる。
●再設定したKPIが、「ビジョン~戦略」の実現に向けた目標達成の進捗状況を、SFA/CRMへの入力を通じて“見える化”したデータを共有することで、社員の日々の活動がビジョン実現に向けて重要な意味を持っていることへの理解を、全社員に促し続ける。
BtoB営業の世界では、かねてから「営業のKKD」が重要と言われてきました。
市場が拡大している状況ではこれを磨くことが大切でした。今でも活かせるシーンはあります。しかし、変化や進化が加速する市場においては、これに「営業の新KKD」をプラスする必要があります。
計画に基づいて目標を設定し、その進捗をデータで検証していくことが営業実績の向上に有効である、という考え方で、データドリブン経営への起点にもなり得ます。
SFA/CRM活用の“3大ポイント“を、「営業の新KKD」を念頭に実行していくことで、”データドリブン経営“に取り組んでいかれてはいかがでしょうか。
まとめ
実はSFA/CRMの入力や活用が定着している中小企業はまだ多くはありません。以下のような悪循環に陥っているのがその理由です。・蓄積した情報を活用できておらず、”電子日報”状態になっている。
・だから、システムへの入力に労力がかかる割に、効果が見えにくい。
・効果が見えにくいから、入力の習慣化が徹底できない。
・習慣化されていないから、情報が正しく蓄積されない。
これらの懸念は、先に述べた「ビジョンを起点に全てを繋げる」事で解消できます。つまり、
✓変革の重要性を認識し、
✓環境変化やテクノロジーの進化を踏まえた上で、経営ビジョンを再確認、必要であれば再構築し、
✓ビジョン実現のための戦略とそれを実行するための施策を策定し、
✓施策の具体的な活動の実施数をKPIとして定めて、
✓そのKPIをSFA/CRMを活用してマネジメントしていく。
✓これらの実行を通じて“データドリブン経営”に取り組んでいく。
BtoB中小企業経営者のみなさまが、このコラムをお読みいただくことで、「ビジョン~戦略~施策KPI~マネジメント」、これらを実行する体制構築に向けて、お取り組みを開始していただければ幸いに思います。