得意先の企業に理解と納得を与える価格交渉の進め方
物価上昇が進む昨今、価格転嫁は重要な経営課題となっています。ところが、自社の独断で値上げすると、得意先である顧客企業との関係が悪化するおそれもあります。価格交渉のポイントは得意先の理解と納得を引き出すことです。今回は法人営業向けの価格交渉の進め方を紹介します。
(掲載日 2026/01/22)

価格転嫁で終わらせない─関係強化につながる交渉の視点
1.価格転嫁の現状と課題
原材料費や人件費の上昇は、企業努力だけでは吸収しきれない段階に達しています。それにもかかわらず、多くの中小企業では「値上げ=顧客離れ」という意識が根強く、価格交渉が後回しになりがちです。しかし、適正な利益が確保できなければ、品質の維持や納期の遵守といった基本的なサービスの継続も困難となり、最悪の場合、経営の継続すら危ぶまれます。顧客にとっても、安定した供給が損なわれることは大きな損失です。適切な交渉がなされないまま供給が不安定になることは、誰も望んでいません。
一方で、単に「原価や人件費が上がったから値上げしたい」と伝えるだけでは、顧客の納得を得られない可能性があります。当社としては、長期間の我慢の末の判断であっても、顧客にとっては急な要求と受け取られることもあります。
2.価格交渉の本質と考え方
顧客企業にとって、仕入れルートの確保は事業継続に直結する重要な課題です。購買担当者は、単に安く仕入れることだけを目的としているわけではなく、品質・数量・価格のバランスを考慮しながら、安定した供給を求めています。この視点に立てば、価格交渉とは、当社が継続的に取引を維持するために必要な利益を確保しつつ、顧客に安定した供給を提供するための条件調整といえます。価格転嫁が苦手な中小企業では「競合があるから値上げは難しい」と考えがちです。しかし、競合が現価格を維持できている理由は何でしょうか。単に利益を削っているのではなく、生産性向上に努めている可能性もあります。
優れた経営者ほど、価格交渉の場で“利益を削る”という判断を避ける傾向があります。むしろ交渉を通じて相互理解を深め、当社ならではの対応を見出す関係強化の機会としています。価格交渉の本質は、取引条件を見直し、持続可能な関係を再構築することにあります。

3.交渉準備のポイント
(1)“ここまでなら受けられる”ラインを明確にする
価格交渉において最も重要なのは、「これ以下の価格では受注すべきでない」という基準を明確にしておくことです。単に「できるだけ価格を上げたい」という姿勢では、適正価格を十分に検討しているとは言えません。当社としても持続的な取引が可能な価格を把握することが、相手を納得させる自信ある交渉につながります。そのためには、材料費・外注費だけでなく、生産量・ロットサイズ、在庫・運送コスト、営業・管理費など、取引にかかる総合的なコストを正確に把握しておく必要があります。これらの情報を把握しておくことは、価格の妥当性を説明する自信となり、交渉を進めるための重要な材料となります。
| 材料費・外注費 | 原材料や資材、外注の価格、 発注に関する作業量 | 適量を入手できているか 供給は安定しているか 発注先を維持管理する手間がかかっていないか |
| 労務費 | 段取時間、生産時間 | 短納期対応のため残業が発生していないか ベテランでないと対応できなくなっていないか |
| 生産量・ロットサイズ | 1回あたりの生産量、 年間出荷量 | 見積基準となっている数量はいくつか 過去数年の出荷実績と比較して生産量は適正か |
| 設備関連費 | 減価償却費、稼働率、 保全費、教育コスト | 使用する設備の稼働率は安定しているか 維持、管理に余計な手間がかかっていないか |
| 在庫・運送コスト | 梱包費、輸送費、保管費、 配送量と頻度 | 原料・製品の在庫期間が長くなっていないか 小口輸送になっていないか |
| 営業・管理費 | 見積・検査・請求処理など製品別の間接費 | 頻繁な訪問や問い合わせ対応が生じていないか |
| 目標利益率 | 自社の必要利益水準 | 自社の目標利益率は何%であるか |
(2)値上げの理由を整理し、根拠資料を揃える
価格交渉では、「なぜこのタイミングで値上げするのか」という問いにも答えられる必要があります。たとえ原材料の価格が上昇していたとしても、それを数ヶ月間放置していた場合、値上げの必要性に対する説得力は弱まってしまいます。交渉のタイミングは、当社の価格管理体制の良し悪しを暗に示しています。また、現行価格がいつ、どのような背景で決定されたのかを調査し、過去の経緯を整理しておくことも欠かせません。たとえば、以前は取引量が多かったため、一部の製品が薄利でも問題はなかったが、現在は取引量の減少により採算が合わなくなっている、というケースもあります。こうした背景は、担当者の交代などにより、顧客側に十分伝わっていないこともあります。
さらに、顧客が最も関心を持つのは、「値上げ幅を抑える方法があるかどうか」です。当社が仕入先から値上げを通告された場合でも、それをそのまま顧客に転嫁するのではなく、価格の妥当性を検証し、可能な限り改善の努力を行うことが求められます。こうした対応を迅速に行うことが、顧客との信頼関係の構築につながります。

4.顧客視点に立った交渉の進め方
(1)対面で交渉を行う
価格変更をFax一枚で通知するだけでは、顧客に『納得できなければ購入しなくてよい』という印象を与えかねません。当社にとって大切な顧客であることを示すためにも、まずは面談を行い、相手の理解と協力を得る姿勢が求められます。購買担当者は、仕入れ価格の変更について上司や社内関係者に説明する責任を負っています。そのため、価格変更の根拠となる資料を整え、社内で説明しやすい形で提供する配慮が重要です。
もし顧客に協力の姿勢が見られない場合は、すぐにではなくとも、将来的に取引の見直しを検討する必要があるかもしれません。価格交渉は、当社が顧客から信頼されるパートナーとして認識されているかを見極める機会でもあります。
(2)相手の事情を理解する
顧客企業にも、それぞれの承認プロセスや予算決定のタイミングがあります。年度単位で価格を決定する企業もあれば、四半期ごとに見直す企業もあり、そのサイクルは業種や企業によって異なります。当社と同様に、顧客にも価格転嫁について自社の顧客へ説明・交渉するための準備期間が必要です。したがって、顧客の立場や社内事情を理解し、最適な交渉時期を見極めることが、円滑な価格交渉を進めるうえで重要なポイントとなります。
(3)代替案・選択肢を提示する
価格交渉においては、品質や納期に加えて、次回交渉までの期間や販売数量の見込みといった要素も価格に影響を与えます。不定期な注文、短納期、生産や品質管理における特別な対応が必要な場合などは、価格が高くなるのも当然の結果と言えるでしょう。しかし、どのような要求が価格を押し上げているのかを把握せず、従来の条件をそのまま踏襲している購買担当者も少なくありません。また、たとえ価格に転嫁できたとしても、製造現場にとっては負担となる条件もあるでしょう。価格を上げないために検討すべき点は、図表1で確認した項目の改善と合わせ、図表2のような視点も考えられます。
価格交渉は、顧客にとって本当に必要なサービスを見極めるとともに、当社にとっても無理なく対応できる着地点を見つけ出すための重要な機会であるといえます。
| 汎用品の使用 | 顧客指定の専用品が多く、コストや在庫負担が大きい | 汎用品・共通部材への切り替え |
| 価格改定頻度 | 交渉のタイミングが限られる 交渉に数ヶ月かかる | 「都度改定」「3〜6か月単位の再交渉」などのルールを設定 |
| 納期 | 短納期・不定期発注で調整負担が大きい | 納期に余裕ができれば非稼働対策となる場合がある |
| 工程 | 個包装・特殊仕上げなどに時間を取られている | 当社が通常行う工程までとする 生産が容易な条件に変更してもらう |
| 在庫 | 原材料や製品の在庫、管理の負担が大きい | 原材料を支給としてもらう 生産したものを全量引き取ってもらう (顧客側で在庫してもらう) |
(4)スケジュールを明確に設定する
準備を進める中で複数の選択肢が出てくることがありますが、重要なのは交渉の期限を明確にすることです。顧客が「検討中」と言いながら社内が動かず、結局決まらないということも少なくありません。値上げの承諾が得られるまで、当社はコストアップの影響を一方的に受け続けることになります。当社が必死の姿勢を見せることで、顧客の社内を動かす力となるのです。

5.交渉後の関係強化と経営効果
交渉が終わった後も、関係づくりは継続していきます。たとえば、最低でも四半期に一度の訪問や、年1回の生産現場見学など、定期的な接点を設けると、相互理解が深まりやすくなります。仕入れ価格が高い時だけ値上げを求め、価格が下がった時にはそのまま利益を享受するような姿勢では、顧客からの信頼を得ることはできません。また、訪問しない期間が長くなると、担当者が交代しており、関係構築を一からやり直す必要が生じることもあります。継続的なコミュニケーションは、こうしたリスクを防ぐためにも重要です。
今回の価格転嫁では、どの程度の値上げを提示したのでしょうか。10%以上の値上げは購買担当者にとっても大きな負担となります。こうした大幅な改定は、社内調整や顧客への説明に時間と労力を要するため、慎重な対応が求められます。当社の交渉が遅れたことで、結果的に値上げ幅が大きくなってしまったという事態を避けるためにも、日頃から価格動向を適切に伝えておくことが重要です。継続的な情報共有は、顧客の理解を促し、スムーズな価格改定につながります。
このように、価格交渉は「説得」ではなく「共通課題の解決」です。価格上昇という環境変化にどう適応するかを共に考える姿勢が、真のパートナーシップを生みます。価格改定ひとつをとっても、当社が信頼できる企業であるかどうかが問われる場面であり、その姿勢が顧客に伝わるのです。
外部環境の変化は、競合企業にも共通して起こるものですが、その対応の仕方は企業ごとに異なります。値上げ交渉をきっかけに、自社のコスト構造・取引方針・顧客関係を見直すことこそが、次の成長への第一歩です。
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