地域に愛される酒店の事業拡大に向けた新たなチャレンジ
企業名:有限会社藤屋酒店 取材先ご担当者様:次期代表:大江理恵子氏

これまで3人で協力してやってきたが、母は高齢となり自分たちも節目の歳が近くなって、今後の店舗運営をどうしようかという漠然とした想いを抱えていたところ、西東京商工会から本プロジェクトの紹介を受けたが・・・
企業概要

有限会社藤屋酒店(代表:伊藤秀子氏)は田無駅南口から徒歩約15分の落ち着いた住宅街に位置する酒店である。
酒の品揃えについては、量販店やスーパーとの差別化のため一線を画している。それらの店では手に入らない、多摩地区にある酒蔵の日本酒や地方の蒸溜所が造る国産ウィスキーが店頭に並ぶ。店内には買った酒を飲める「角打ち」スペースが設けられ、酒を嗜む近隣住民の憩いの場となっている。酒のつまみを揃える一方で、子供向けの駄菓子も販売しており、地域の幅広い年齢層の需要に応えてきた。また、店の一角には健康食品コーナーを設け、販売に注力している。
取材時(2024年11月)は事業承継手続き中で、代表の長女である大江理恵子氏(次期代表)に話を伺った。
企業の悩み
当社の創業は1965年、ウィスキーメーカーの営業マンであった大江氏の父(現代表の夫)が、取引先の酒問屋から現在の地を紹介されたのがきっかけである。当時は周囲に魚屋・肉屋・八百屋が入居するストアや、米屋、蕎麦屋等が軒を連ねる商店街を形成し、競合店がないため酒店開店に適していた。また、御用聞きの商売スタイルを主流に多くの顧客を獲得し、店舗の経営は順調に推移してきた。
しかし、創業者である父が病に倒れたことから大江氏の生活がガラリと変わることになる。そのころ大江氏は栄養士の仕事に就いていたが、この職を辞して母と酒店経営に専念。大江氏の夫は栄養士仲間であったが、この時期に結婚して同じく経営に参画した。
父が逝去した1988年頃は好景気だったものの、その後バブル崩壊により景気は下向きとなる。当時から「お酒だけでは将来的に厳しい」と感じていた大江氏は、同じ多摩地域で酒店を営む経営者グループに入会し、情報を集めた。そこから店頭精米や健康食品取り扱いのアイデアを得て、商材を多様化してきた。現在、顧客は9割程度が個人である。
これまで3人で協力してやってきたが、母は高齢となり自分たちも節目の歳が近くなって、今後の店舗運営をどうしようかという漠然とした想いを抱えていたところ、西東京商工会から本プロジェクトの紹介を受けた。
導き出された課題
代表である母の高齢化に関しては、既に税理士や司法書士のアドバイスを得ながら大江氏への事業承継手続きを進めており、2024年内に完了する予定である。よって本プロジェクトにおける経営分析では、①今後の店舗の方向性についての明確化、②売上および利益率の向上、の2点が課題として取り上げられた。
大江氏自身、これからの20年を見据えた店舗の在り方を模索し始めたのが本プロジェクト利用のきっかけでもあり、今後の方向性検討にあたっては、まず大江氏の店舗に対する想いや、やりたいことを整理することが求められた。他方、酒店の既存顧客も多く存在し、お店に対する周囲からの期待についても併せて考慮する必要があった。また、直近2期の収益は心もとなく、商材ごとの数字をチェックし、利益率改善のために商品構成の見直しを行うことが提示された。
大江氏はこれらの指摘を受け、本プロジェクトのアシストコースを利用することにした。
提案された解決策
アシストコースでは専門家と定期的に面談を行い、課題解決に向け作業を進めた。具体的には、まず中期経営計画の策定を行うことである。
今後の店舗の方向性については、専門家からのヒアリングによって現状や大江氏の中にある想いを丁寧に整理していった。角打ちで来店されるお客様や常連の方との接客は楽しいし、大切にしていきたい。一方で、これからは健康志向がメインテーマになると考えている。後者については、従来のお客様とは若干異なる顧客層へのアプローチも必要になる。
売上および利益率の向上については、まず商材ごとのデータを確認した。定価のある酒・菓子等の小売は利益率を上げることが難しいので、こちらは角打ち等で付加価値を高める方向で検討を進めた。一方、健康食品は前者に比べ高い利益率が期待でき、徐々に規模を拡大する必要性について大江氏も確信できた。
事業計画について文書化することは不慣れであったが、専門家の協力を得ながら本コースを通じて中期経営計画完成を予定している。
提案した中小企業支援施策
その後の状況
これまで同社では、一人ひとりへの丁寧な接客を心がけてきた。それが顧客に愛顧される所以であり、その方針は今後も変わらない。加えて本プロジェクトを利用する過程で、適正な利益を得ていくことも必要であるとの認識が大江氏の中に生まれている。
また、専門家との面談の中で、これまではっきりとしていなかった方向性について、健康食品に本腰を入れていくことが明確化され、販促のためのチラシ配布や試飲機会の増加等、具体的な施策へ考えが及んでいる。一足飛びにネット販売等には手を出さず、同社の強みである「顔の見える」商売を進め、口コミや紹介で浸透を図っていく方針である。従来の酒類販売についても既存のお客様を大切にしつつ、健康食品販売との並立を目指すこととしている。
企業様の声
本プロジェクトを通じて自分の考えが整理され、専門家との面談も楽しく取り組むことができ、とても良い機会になったと思います。薄利多売ではなく、どのような商品で利益を得ていくか、どう付加価値を付けていくかという点に気づきがあり、自分の好きな健康食品に力を入れたいという想いとも整合しました。今後もどんな形であれ、来店されるお客様の皆さんにワクワクしてもらう、楽しいと言ってもらえるお店にしていきたいと思います。
また、自分達ではどんな公的支援があるのか良くわかっておらず、経営指導員から本プロジェクトを紹介されとても有意義な取り組みができました。今後も色々とご提案いただけることを期待しています。
(次期代表:大江理恵子氏)
経営指導員の声
同社とは2年ほど前からのご縁となりますが、普段から講習会等にも積極的に参加いただき、良いものは素直にすぐ取り込んでいく行動力が光っています。また、皆さんの人柄や接客力・商品知識から、地域のお客様に愛されるお店となっています。これに対して、各商材の価格設定や利益率といった数値面が、次期代表の今後の課題と認識されました。本プロジェクトはここまでスムーズに進行しており、今後のビジョンがある程度見えてきましたので、このあとアドバンスコースでも支援していきたいと考えています。
西東京市に根付いて商売をなされてきた同社には、これからも引き続き地域に必要となるお店づくりを進めてもらいたいと思います。
(西東京商工会:村上 功氏)
企業情報
企業名 | 有限会社藤屋酒店 |
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代表者 | 代表:伊藤秀子氏 |
創業年 | 1965 |
業種 | 小売業(酒類・食品小売) |
所在地 | 東京都西東京市芝久保町1-13-5 |
事業PR | |
URL | https://www.facebook.com/fujiyasaketen |
中小企業診断士 北川雅也