もっと多くの方に焼酎を、 八丈島を楽しんでいただけるように
企業名:八丈島酒造合名会社 取材先ご担当者様:奥山絹代氏
新型コロナの感染拡大により、島を訪れる観光客が激減して飲食業・宿泊業での消費が消失し、個人消費のみとなったことで、出荷量は大幅に減少した。その後、徐々に観光客が戻りつつある中、打った一手とは…
企業概要
八丈島酒造合名会社(代表:奥山清満氏)は、大正時代に創業された焼酎の蔵元である。代表者でもある杜氏の清満氏は、原材料にこだわりながら地道な作業で丁寧に焼酎を造るという伝統を受け継ぎ、誇りを持って実践してきた。八丈島産の芋のみを使用し、コストと手間をかけて造られる当社の焼酎は、島内の飲食業・宿泊業はもとより、都内をはじめとする各地の居酒屋や割烹等で提供され、熱心なファンを獲得している。
近年は、元Jリーガーのご子息・武宰士氏が島に戻り、親子でこだわりの焼酎造りを行っている。武宰士氏は、ものづくり補助金を活用して「スパークリング焼酎」の開発に取り組み、販路として羽田空港の売店を開拓する等して、当社に新しい風をもたらしている。
製造以外の総務・経理、販売管理等については、清満氏の奥様である絹代氏が主に担い、職人気質の清満氏・武宰士氏親子を側面から支えることで、家族が一体となって経営している。
企業の悩み
当社の焼酎の出荷比率は、概ね島内3:島外2である。2020年以降、新型コロナの感染拡大により、島を訪れる観光客が激減して飲食業・宿泊業での消費が消失し、個人消費のみとなったことで、出荷量は大幅に減少した。島外でも居酒屋等の休業・酒類提供制限が長い間続き、減収に拍車をかけた。
やがてウィズコロナの時期に移り、徐々に観光客が戻りつつある中、絹代氏は、以前より温めてきた「自社の焼酎を活かして八丈島の活性化に貢献したい」という夢を、今こそ形にしようと決心した。具体的には、焼酎と八丈島をゆったりと楽しんでいただけるように、今まで空き地だった醸造所の北側に試飲場兼宿泊施設を建設・運営することである。
とはいえ、絹代氏は、その夢を実際にどう形にしていけばよいのか、独力では明確に描ききれずにいた。そこで、2021年のある日、女性部で役員を務める等で以前からつながりのあった八丈町商工会へ相談したところ、多摩・島しょ経営支援拠点事業の専門家派遣を勧められ、その仕組みを利用して準備を始めることにした。
導き出された課題
2021年度の専門家派遣では、事業計画の策定や実行支援に明るい専門家が選定され、丁寧なヒアリングをしながら、事業内容、それに適した設備、運営のあり方等を一緒に詰めていった。
試飲場は、島内の他の酒蔵にはまだ例がなく、雨の日でも楽しめるようなインドアの観光が少ない八丈島において、貴重な観光資源となり得る。宿泊施設は、スポーツ以外でのリフレッシュやワーケーションといった新たな宿泊需要に適したものにすることで、既存の宿泊業者と直接競合せずに、従来とは異なる層の来島者を増やすことにつながる。低価格競争に陥らないように、部屋数を抑えて1部屋を広くし、バスとトイレを別々にする等の方向性も決まった。また、あえて宿泊と朝食のみの提供(ベッド&ブレックファスト)とし、宿泊客のニーズに合わせて近隣の飲食店を案内することで、地域の飲食業者とWin-Winの関係構築を図ることになった。
一方、実現に向けた最大のハードルは、試飲場兼宿泊施設の建設にかかる費用の調達である。絹代氏は、建物の新築にも使うことができる事業再構築補助金にチャレンジすることにし、自分の言葉で事業計画を作り上げた。
提案された解決策
2022年度は、本プロジェクトのアドバンスコースを活用し、2021年度の一連の支援の中でまとめられた事業計画を出発点として、その実行をハンズオンでサポートしていくことになった。苦労して作り上げた事業計画を用いた事業再構築補助金の申請は、2022年6月に無事採択されるに至り、絹代氏は夢の実現に向けて大きな一歩を踏み出した。
絹代氏は、建物の設計指示や建築費用の見積比較等、初めて取り組むことも多かったが、アドバンスコースで専門家に適宜相談し、自分で気付いていなかった点についてはアドバイスをもらう等しながら、実現性を高めることができた。
建物建築以外についても、焼酎の蔵元である当社らしくかつ八丈島の魅力を活かしたサービス内容、社内運用、情報発信のあり方等を検討し、少しずつ準備を進めていった。
提案した中小企業支援施策
- 専門家派遣事業
企業経営上の様々な課題を解決するために、専門家が企業の現場へ出向いて支援致します。
その後の状況
2023年夏の試飲場兼宿泊施設のオープンに向けて、計画は順調に進捗するかに思われた。しかし、2022年秋以降、原材料費・エネルギー価格・物流費等が著しく高騰し、交付申請した金額では収まらない可能性が出てきた。工期についても、コロナ禍の反動で建築需要が増加し、職人の確保が難しくなっているため、当初のスケジュール通りには行かない可能性が出てきた。
そこで、最近のアドバンスコースのミーティングでは、上記の環境変化への対処について協議が行われた。絹代氏は、専門家から島内・島外のリソースを組み合わせることで価格を抑えるといった現下の環境変化を踏まえたアドバイスを得ながら、修正に努めている。
予断を許さない状況ではあるが、絹代氏にせっかくつかんだ夢を実現するチャンスを活かしていただけるよう、商工会と専門家がタッグを組み、残りの期間も試飲場兼宿泊施設の開設に向けて支援を続ける予定である。
企業様の声
コロナ禍以前から、「もっと焼酎を飲んでくださる方を増やしたい」、「もっと多くの方に八丈島へいらしてほしい」という強い思いがありました。私の実家は式根島の民宿で、母親の食事づくり等を手伝っていたこともあり、思いを実現する方法として、今回の試飲場兼宿泊施設というアイデアに至りました。建物に関する知識や実現に向けた課題整理等、自分ではまかないきれない部分について、専門家の先生にはかなり助けられました。宿泊施設の開設と継続は簡単ではないでしょうが、家族全員で協力して成功させ、八丈島の焼酎産業の発展と島全体の活性化に貢献していきたいです。
(奥山絹代氏)
支援者の声
八丈島酒造合名会社様は、八丈島産のさつま芋や国産の麦といった原材料にこだわった製法で、島の内外から高く評価され愛されている蔵元です。長年、身近な相談者として何かとご支援させていただいていますが、今回は絹代様から試飲場兼宿泊施設を作りたいとご相談いただき、専門家派遣の仕組みを使ってご支援することになりました。大がかりな事業ゆえ越えるべきハードルは高いとは思いますが、夢の実現に向けて今後も「一番身近な相談者」として精一杯サポートさせていただきます。
(八丈町商工会:金田 光氏)
企業情報
企業名 | 八丈島酒造合名会社 |
---|---|
代表者 | 代表:奥山清満氏 |
創業年 | 1927 |
業種 | 製造業(焼酎製造および販売)、宿泊業 |
所在地 | 東京都八丈島八丈町大賀郷1576 |
事業PR | |
URL | http://www.hachijojimashuzo.com/ |
中小企業診断士 松林栄一