助成金・補助金等、経営力UPの経営情報が満載!

オンライン経営力自己診断

経営診断・分析事例
会員登録すると、
新規会員登録はこちら
お気に入りに追加 シェアツイートLINEはてぶ

本を読みたくなるレトルトカレー製造販売の実現

企業名:コクテイル書房  取材先ご担当者様:代表:狩野俊氏

明確な事業計画の策定から業域の拡大へ

開業当初は古書店だったが、やがて居酒屋も始め、本と食べ物を融合させた業態となった。余剰スペースに工房を作り、レトルトカレーの製造を内製化することを検討したが、設備投資の負担が大きく困難と…

企業概要

コクテイル書房(代表:狩野俊氏)は高円寺駅から徒歩5分、高円寺北中通りにある古い町長屋の一角を利用した、街の風景に溶け込んだ古書居酒屋である。開業当初は古書店だったが、やがて居酒屋も始め、本と食べ物を融合させた業態となった。狩野氏が自ら手に入れた古い建具を使用し内装された店内は、レトロ感に満たされている。その雰囲気と書物をテーマとする姿勢に共鳴するファンも多い。
古書販売では、店舗のみならず、インターネットを通じて全国からのニーズに応じている。その一方で、店先の通り沿いに「まちのほんだな」と名付けた書架を設け、無償で自由に本の交換をしてもらうという取り組みを続けている。近隣の方々に気軽に本を手に取ってもらうための書架の設定は、この店らしい地域貢献になっている。
古書店兼業の店らしく、居酒屋としては、原稿用紙に手書きされたメニューを毎日準備し、文学作品をイメージさせる品を「文士料理」と銘打って提供する。そして時に著名な小説家が出演するトークライブを実施する等、個性的な店舗をベースとした古書店と居酒屋との融合を試み続けている。

企業の悩み

コアなファンはいるものの、単独の飲食店として営業を続けるだけでは成長が難しい。新たな事業の柱を求め、人気メニューを改良して「文学カレー」というレトルトカレーを開発し、その販売を開始した。新型コロナウイルスの影響がありながら、目標販売数は達成し、一定の市場があることが分かった。
一方で課題もあった。レトルトカレーの製造委託先とは念入りにすり合わせを行ったが、レシピは同じでも機械で生産すると味が変わり、店で製造したカレーとは異なるものになってしまった。また、委託コストが発生するため、利益も少ない。そのため、店舗の余剰スペースに工房を作り、レトルトカレーの製造を内製化することを検討した。しかし、設備投資の負担が大きく、実現は困難と思われた。そこで、補助金を活用しての設備購入について、東京商工会議所へ相談するに至った。

導き出された課題

当初、東京商工会議所からは、補助金申請に先立って自社の目標と課題を明確にする目的で、経営革新計画の申請を提案された。経営革新計画を策定する中で、販売計画の精緻さやコスト・利益管理の不足が明らかになった。そこで、課題整理と経営改善のため、本プロジェクトの活用を提案され、まずは経営診断を受診することになった。
専門家による経営診断では、他社にはないコンセプトや特長ある商品・サービスが優れている反面、財務管理・在庫管理・役割分担等には未整備な点が多いことを指摘され、経営管理全般を強化しつつ、計画的に新商品開発と販路開拓を行っていくように勧められた。当面の課題として挙げられたのは、①事業別損益の把握方法を確立する、②新商品開発を効率的に行う、③作業効率を高めるの3点である。
引き続き、アシストコースで支援を受けながら、これらの課題解決に向けて取り組んでいくことになった。

提案された解決策

上記の①事業別損益の把握については、売上を事業別に出し、売上原価(飲食メニューの材料費、古書の仕入金額等)を差し引いて売上総利益を計算し、人件費や水道光熱費を事業別に配分する、といった基本的な方法について助言を受けた。
②新商品の効率的な開発については、作家・書籍と関連するカレーの新商品を定期的に販売する、新刊企画カレー・作家企画カレーなど新たなテーマにもチャレンジする等、方針とスケジュールを明確化して取り組むことになり、事業計画書にも盛り込まれた。
③作業効率については、QCD(品質・コスト・納期)のバランスを意識して改善に取り組むようアドバイスを受けた。Qは手作りであることから来る味のブレ、Cは食材ロスの削減、Dは製造時間と顧客への配送時間の短縮等である。
一連の支援を踏まえて作成された事業計画書は、実効性の高いものとなった。並行してものづくり補助金を申請し、採択されることができた。同補助金を活用して、店舗内にレトルトカレー製造工房が作られ、「文学カレー」を内製化できる体制が整った。

提案した中小企業支援施策

その後の状況

「漱石」に始まったレトルト「文学カレー」はシリーズ化され、第2弾として「萩原朔太郎」を発売、さらに次の企画も進んでいる。加えて、カレー以外のレトルト商品として、「枝豆の山椒煮」等、文学者にちなんだ酒のつまみを開発・販売している。文学の薫りがする当店ならではの特徴的な商品群は、読書を愛するファンから好評である。
狩野氏は、単にカレーを商品として販売するのみならず、関係する文学作品やその周辺の話題を載せたチラシを同封する等、新しいメディアとして利用していく構想を持っている。さらに、作家にゆかりのある地域(夏目漱石は松山道後温泉、萩原朔太郎は下北沢)の事業者とのコラボレーションによる、地域振興への貢献と自社の販路拡大を両立させた活動にも、意欲的に取り組もうとしている。

企業様の声

意識の改革が何よりの収穫でした。経営革新計画の策定に始まり、経営診断、そしてアシストコースの支援へと進む中で、従来とは全く違う見方で事業に取り組むようになりました。それまでは、計画を作るということがあまりありませんでしたが、目標を設定し、現実に即した判断をしながら、その実現に向けて着実に進んでいくことの重要性がよく分かりました。
食品の製造販売を始めるにあたり、求められる衛生水準の高さを知り、その実現にも尽力しました。ここでもやはり意識の変革がありました。体得した基準感を、今後、まず居酒屋の運営へ、そして本の世界へも展開し、さらなる発展に繋げたいと考えています。
(代表:狩野俊氏)

支援者の声

アシストコースにおいて事業計画書の作成をすることによって、新規事業の販路開拓の施策や数値計画、飲食事業・小売事業の効率化における課題を可視化することができました。事業計画書の実行支援後も、計画書で盛り込まれた取り組みについて、経営者ご自身の中で、着実に実行できている実感が湧いているようです。「新しいメディアとしてのカレー」という価値が、よりよい実りを結びますよう、東商として引き続き支援をしていきたいと考えております。
(東京商工会議所:宇山伸之氏)

企業情報

企業名 コクテイル書房
代表者 代表:狩野俊氏
創業年 1997年
業種 小売業(古書販売)、飲食業、食料品製造業
所在地 東京都杉並区高円寺北3丁目8-13
事業PR
URL https://www.koenji-cocktail.info/


中小企業診断士 吉田 潤

一覧ページに戻る

< 経営診断・分析事例TOP

pagetop