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1 戦略・経営者(自律的経営と外部資源マネジメント)

特定の販売先や仕入先に依存しないよう、取引先の分散を図っている

取引先を集中させるメリット、デメリット

 取引先を集中させることは、企業にとって一定のメリットがあります。ロットの大きい取引をすることで、生産や流通の段階でのコストダウンを図ることができるからです。密接な取引関係のもとでは、商品開発や情報のやり取りなどの面での連携も、より容易になります。下請分業体制や特約店制度は、取引先集中のメリットを生かしたものといえます。

 一方、取引先の集中にはデメリットもあります。まず第1に、取引先を失った際のダメージが大きくなることです。販売先が海外や地方に移転したり、仕入方針を転換したりといった理由で、大口の売上が急減したり、ゼロになったりするかもしれません。廃業や倒産だけではなく、自然災害や事故による影響もあり得ます。最悪の場合、連鎖倒産にもつながりかねません。仕入先も同様です。下図のケース1は1社に依存する極端なケースですが、この場合、仕入先が倒産して原材料がストップすれば、しばらく操業停止に見舞われる可能性が高くなります。一方、ケース2のように仕入先が分散していれば、他の仕入先からの支援で、ある程度ダメージを軽減できるでしょう。

 第2には、価格競争力の問題です。取引先に対する依存度が高いということは相手にもわかっていますから、価格交渉の場ではおのずと強気に出てきます。売上高の割には利益にならない場合も出てきます。下請企業が単価を定期的に下げられるというのはよくいわれることですが、中小企業庁の調査でも、企業間取引においては取引先が多いほうが価格決定力は高まるという結果が出ています。

 第3に、新しい取引先を確保するインセンティブの低下です。取引先が存続している限り、特に担当者レベルでは、大口取引先に集中するほうが楽に仕事ができます。品質や価格面でより条件のよい取引先候補があっても、既存の取引先を優先してしまい、新たな取引の可能性を失ってしまう懸念があります。

過度の集中を避け、意図的に分散を

 このように、取引先の集中を考える際には、メリットとデメリットのバランスを常に考慮する必要があります。特に、ごく少数の取引先への過度の集中は、企業にとって大きなリスクとなりますから、ある程度意図的に分散を図っていくことも、経営の選択肢のひとつとして重要でしょう。

Case Study

リスクを分散させるあの手この手

 MM 社では、顧客の中で売上構成比が10%を超える先はなく、取引先は分散化させている。このため主要取引先の影響を受けにくい体質となっている。売上がトップクラスの顧客でも総売上の7%にすぎない。
(機械用カーボン等製造・175人)

 顧客側のリスクを軽減させるのがNN社のビジネスモデルだ。同社は大手メーカーから技術開発や試作を受託し、協力企業群をコーディネートして「ものづくり」を行う。一般に試作の段階では不確実な要素が多いため、高額な最先端設備の導入をためらう企業が多い。こうした大手メーカーにかわって同社が最新鋭設備の1号機を導入。そして試作が完了し、量産に入っても問題のない段階になって大手メーカーに設備が導入される。つまり、このビジネスモデルは、大手メーカーが少ないリスクで試作・開発ができ、機械メーカーは販売促進につながり、同社は加工収入を得られるという皆が得する仕組みになっている。
(電子ビーム加工・90人)

Step Up

(1)販売先ごとに売上構成比の目安を決めて管理している

 経営者が販売先を分散しようと考えていても、担当者レベルでは、どうしても大口取引先に力をいれる傾向にあります。ロットの大きい取引を行ったほうが、売上目標を達成しやすいからです。このような場合、全体目標に加えて、販売先ごとに売上目標を決め、定期的にバランスをチェックしていくことが有効な手段です。その際、なぜそのような目標設定をするのかを、担当者に十分に理解させることが、成功の鍵となるでしょう。

(2)取引先の信用情報が経営陣にすぐに伝わる体制をとっている

 取引先が倒産すれば、影響は計り知れません。取引先の経営状況を常に把握し、もし悪化が懸念される場合には、すぐに対応しなければなりません。自社の資産と従業員を守るためには、場合によっては取引中止の決断も必要になってきます。情報は勝手に集まってくるわけではありません。民間の信用調査会社のデータを活用するのもひとつの方法です。また、根拠のない噂も含め、担当者レベルでつかんだ情報がトップまで伝わるよう、日頃からコミュニケーションに努めるだけではなく、大口取引先に関する定期報告などのルールづくりも求められます。

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