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大事なのは「純利益」だけじゃない。その他の「3つの利益」も理解しよう。

利益とは売上から費用を引いたもの。簡単ですね。しかし、損益計算書は分かりにくい。なぜでしょう? 利益の種類が複数あるからです。そこで、それぞれの利益が「売上からどんな費用を引いているのか」に着目してみましょう。驚くほど分かりやすくなるはずです。

(掲載日 2021/11/05)

数字の苦手な社長さんのための損益計算書「超」入門

利益は気になるけど、数字を見るのは苦手。損益計算書は一番下の「純利益」しか見ない。そんな社長さんも多いのではないでしょうか。

「利益とは売上から費用を引いたもの」です。

最も単純なカタチは

売上-費用=利益

となります。簡単です。

しかし、実際の損益計算書は、もう少し複雑です。


・売上総利益

・営業利益

・経常利益

・純利益


など、いくつかの利益に分けられているのです。

「利益とは売上から費用を引いたもの」と述べました。

つまり、これら利益の違いは、引いた「費用」の違いです。

どんな費用が引かれているのでしょうか。家電量販店ヨドガワカメラの社長「ノジマ氏」と一緒に考えて行きたいと思います。


目標「純利益」30万円


ノジマ氏は、今月からヨドガワカメラの社長として就任しました。ヨドガワカメラ「会長」の遠縁にあたる青年です。経営経験は全くありません。

就任にあたり、会長から以下の指示がありました。

1.今月の決算で、純利益(最終利益)30万円を達成すること
2.純利益を社長自身が計算すること

ノジマ社長、試練の始まりです。

売上総利益は何を引いているか


月末になり、ノジマ社長は考えました。

(純利益ってなんだろう?売上から仕入を引けばいいのかな…)

仕入。すなわち売上原価は「商品を買うための費用」です。

ヨドガワカメラの今月の売上は、高級テレビ10台。売価は1台20万円。仕入れ値は10万円です。

200万円(売上:20万円×10台)-100万円(売上原価:10万円×10台)=100万円

ノジマ社長は安心します。

(利益100万円!よかった。目標達成だ)

いえいえ。これは純利益ではありません。「売上総利益」です。

売上総利益は、売上から売上原価(仕入)を引いたものです。


売上総利益=売上-売上原価


売上総利益が表すのは「商品力による儲け」です。最終的な利益ではありません。純利益の算出には、他の費用も差し引く必要があります。


営業利益は何を引いているか


「社長。求められているのは純利益でしょう?私たちの給料も忘れないでくださいね」

居合わせた従業員のカマタさんに指摘されました。

(そうか。費用は売上原価だけじゃない。給料や家賃、電気代もある…)

その通りです。

「商品を売るための費用」が発生しているのです。

具体的には、人件費や家賃、光熱費、広告宣伝費、旅費交通費など。これらを「販売費及び一般管理費(以下 販管費)」と言います。

ヨドガワカメラの、販管費は50万円でした。

100万円(売上総利益)-50万円(販管費)=50万円

(利益50万円。よかった。これで目標達成かな?)

いえいえ。これは純利益ではありません。「営業利益」です。

営業利益は、売上総利益から「販管費」を引いたものです。


営業利益=売上総利益-販管費

言い換えると、売上から、「商品を買うための費用」(売上原価)と「商品を売るための費用」(販管費)を引いたものが、営業利益です。営業サイクルで発生する全ての費用が引かれています。そのため、営業利益は「本業の儲け」を表します。

では、なぜ「本業の儲け」たる営業利益が、最終的な「純利益」ではないのか。

本業以外の費用があるからです。


経常利益は何を引いているか


「社長。求められているのは純利益でしょう?ウチの利息も忘れないでくださいね」

ちょうど店にやってきた銀行員のヨコハマさんに指摘されました。

(そうか。売上原価や販管費だけじゃない。借りたお金の利息もあるんだ…)

売上の入金より、従業員の給料や家賃の支払が先になることはよくあることです。手元に十分なお金が無い場合、借入しなければなりません。

「借金の利息」が発生するのです。利息は「営業外費用」のひとつです。

上述の販管費は、「商品を売るための費用」でした。

一方、営業外費用は(その名の通り)「商品を売る」以外、つまり本業以外で発生した費用です。主に財務活動から発生した費用を指します。

ヨドガワカメラの、営業外費用は10万円でした。

50万円(営業利益)-10万円(営業外費用)=40万円

(利益40万円。目標達成だ)

いえいえ。これは純利益ではありません。「経常利益」です。

経常利益は、営業利益から営業外費用を引いたものです。


経常利益=営業利益-営業外費用(※1)

売上原価や販管費、営業外費用は、「毎期」発生する費用です。それらを差し引いた経常利益は、企業が「通常」状態のときの儲けを表します。

では、なぜこの「通常」の利益が純利益ではないのか。「通常」では無い費用。「毎期」発生しない費用があるからです。


純利益は何を引いているか


「社長。先日の廃棄費用がまだ振り込まれてないんですが」

リサイクル業者のツルミさんが声をかけてきました。売れ残っていた古い商品類を廃棄してもらったのです。

(しまった。廃棄費用もかかっていた…)

廃棄費用など、その期に特有の要因で発生した費用(損失)は「特別損失」と言います。

販管費や営業外費用は、「毎期」発生する費用でした。特別損失は毎期発生しない、「臨時」の費用(損失)です。商品廃棄費用や店舗移転費。コロナなど災害により発生した費用も、特別損失に含まれます。

ヨドガワカメラの特別損失は20万円でした。

40万円(経常利益)-20万円(特別損失)=20万円

(利益20万円…。予算は30万円だった。まずい。未達成だ)

この20万円が「純利益」です。

純利益は、経常利益から特別損失を引いたものです。


純利益=経常利益-特別損失(※1)

純利益は、当期の儲けを表します。

ようやく純利益まで計算できました。残念ながら、目標達成とはならなかったようです。


各利益のまとめ


各利益についてまとめます。


売上総利益:商品力を表す

営業利益:本業の儲けを表す

経常利益:通常時の儲けを表す

純利益:当期の最終的な儲けを表す



ノジマ社長は、今月の目標純利益を達成できませんでした。

なぜでしょうか。

原因を調べるには、比較・分析が有効です。先月と今月あるいは前年と今年の利益値を比較し、変化点を見つける。変化した内容を、分析する。そういった比較・分析が、問題解決の出発点となります。


比較・分析の事例


そこで、実在の企業で比較・分析してみたいと思います。

今回は、株式会社パソナグループ(以下 パソナ)を例にとります。パソナは、純利益が「前期の11.4倍(2021年5月期)」と大幅に増加し、報道などで大きな話題となりました(※2)。

好調さは、第3四半期(3Q)の営業利益増に顕著に表れています。そこで、3Qの決算値を、前年同時期と比較・分析します。

まず全体を見てみましょう。

【パソナ第3四半期決算値の損益計算書(2020年→2021年比較)】

売上高:  2393億円→2447億円⇒54億円増加

売上原価: 1837億円→1836億円⇒ほぼ変わらず

_________________________________________________________

売上総利益:556億円→610億円⇒54億円増加

販管費:  498億円→465億円⇒33億円減少

_________________________________________________________

営業利益:  58億円→145億円⇒87億円増


増加したのは、売上と売上総利益、営業利益。減少したのは、販管費。変わらないのが、売上原価です。

最も最終利益に近い、営業利益(本業の儲けでしたね)から見ていきます。

営業利益:58億円→145億円⇒87億円増

「87億円」も増えています。なぜでしょうか?

その上の売上総利益も見てみましょう(商品力を表す利益でしたね)。

売上総利益:556億円→610億円⇒54億円増加

売上総利益は「54億円」増えました。しかし、87億円には「33億円」足りません。どうやら、増加要因は「商品力」だけではないようです。

売上総利益と営業利益の間には、何があるのでしょうか。

「販管費」です。

販管費:498億円→465億円⇒33億円減少

「33億円」減っていますね。パソナは、売上総利益を54億円増やし、販管費を33億円減らした。結果、営業利益が87億円増加した、ということになります。営業利益増の要因の大枠はわかりました。では、販管費はどうやって減らしたのでしょうか?

販管費は、人件費など「商品を売るための費用」でした。リストラして人件費を減らしたのでしょうか?

パソナは、“2021年5月期 第3四半期 業績概況”(※2 以下:業績概況)にて、以下のような分析結果を報告しています。


・人員の最適配置により人件費で12億円減少

・広告宣伝費で6億円減少

・その他経費で15億円減少



効率化を進め、残業代などを減らしたのかもしれませんね。

自社の分析を行うときも、このように、費用毎に細かく比較・分析する必要があります。


分析のまとめ


分析をまとめます。

パソナの営業利益87億円増加の要因は、売上総利益の「増加」54億円と、販管費の「削減」33億円。販管費削減は「人員の最適配置など」で実現。

パソナは今期、売上増加と費用削減を同時にやってのけた、と言えます。


簿記の基礎知識の習得を


損益計算書の各利益を比較する。費用を分析する。そうすることによって、より正しく現状を把握できます。是非、自社の損益計算書でも行ってみてください。

本稿は、損益計算「超」入門であるため、「厳密な正確性」を度外視して解説しました。

詳しく理解するには、簿記(特に「仕訳」)の知識が必要になります。お時間のあるときに、入門書を手に取ってみてください。より損益計算書の理解が深まり、経営の安定につながるはずです。

※1
本稿では、理解促進のため「営業外収益」「特別利益」などを割愛しています

※2
日本経済新聞 2021年7月15日
「パソナグループが15日発表した2021年5月期の連結決算で、純利益は前期比11.4倍の67億8400万円となった」
https://www.nikkei.com/article/DGXLRST0466373U1A710C2000000/

※3
パソナ 2021年5月期 第3四半期業績概況
https://www.pasonagroup.co.jp/LinkClick.aspx?fileticket=mjj1MCWBzos%3d&tabid=100&mid=460


著者プロフィール

関谷 信之(経営管理研究所(関谷中小企業診断士事務所)代表)

ソフトウェア会社にて、プログラマー・生産管理・原価計算を担当 (仕訳からセグメント別損益計算書作成まで一貫業務担当及び指導)。 2003年、ウェブデザイナーとして独立(コンサル及びサイト構築)。2020年 中小企業診断士登録。専門分野は管理会計及び原価計算。詳しくは http://kakanri.com/ (外部のウェブサイトに移動します。)

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