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中小企業・小規模事業者の「はじめての輸出」支援策とポイント

中小企業にとってハードルが高めと思われがちな輸出。語学や文化、法律などの違いもあるので、すべてを自社だけで実施しようとすると確かに簡単ではありません。ところが、支援機関のサポートを活用すればハードルは下がります。"世界で稼ぐ"ための施策とポイントを紹介します。

(掲載日 2023/03/24)

世界で稼いでみませんか? <輸出のススメ>

今年に入ってはや三か月が過ぎようとしています。世界情勢は絶え間なく変化を続け、世界各地で日々起こる政治や経済の動き、紛争や天災が我々の生活に色濃く影響し、グローバルな結びつきを強く意識する今日この頃です。

既に始まっている少子高齢化に伴い、今後日本国内の市場は縮小し、事業環境が厳しくなる一方、新興国を中心に海外市場は、人口・所得が共に増加し、活況を呈していきます。

そのような環境下で海外への販路を持ち、“世界で稼ぐ“事は、今後、御社が将来に亘り存続・発展していくための有力な手段の一つになりえます。

とはいえ、海外ビジネスは、ハードルが高そうですし、言葉や文化習慣の異なる国との商売に、不安を持たれるのは自然な事です。

そこで今回は皆様のご心配、ご懸念を少しでも和らげ、海外ビジネスの最初の一歩である“輸出”をストレスなく行う方法をご案内したいと思います。


貴社を取り巻く環境


1.国内市場の縮小と海外市場の拡大

以下の図は、一国の経済力を示す指標の一つであるGDPの世界におけるシェアを表しています。アジアを中心とする新興市場の成長が著しい一方で、日本を含む先進国は世界における占有率を徐々に落としていく事が予測されています。

主要な新興国及び先進国のGDPシェア

出典:国土交通白書 2020 P157 図表I-3-4-1 主要な新興国及び先進国のGDPシェア


2.急速に伸長するEC市場

コロナ禍の影響で、全世界的に人々の購買行動が変容しています。その中で急成長しているのがインターネットを介したeコマース(電子商取引:以下EC)です。市場規模は以下の通り急拡大しており、特に消費財にとって有力なBtoC販路になりつつあります。

世界のBtoC-EC市場規模(推計)

出典:2022年版中小企業白書 PⅡ-220 第2-2-133図「世界のBtoC-EC市場規模(推計)」


海外ビジネス実務面の3大障壁

実務面で、海外との取引の敷居が高く感じる理由は、大別して3つあると思います。

一つ目は言語です。海外取引では貿易書類の読み書き、現地販売パートナーとのコミュニケーションが生じるため、語学力は必要です。

二つ目は貿易決済です。国をまたいだ決済の仕組みは簡単ではなく、相手国通貨建で決済すると為替差損を被る事もありますし、代金回収リスクもあります。

三つ目は貿易業務関連です。輸出手続きやルール、輸出国の法律や規制は複雑で、理解・習得に時間がかかります。

今回、初めて輸出を検討される皆様が、上記3つの障壁を回避・軽減でき、かつ経費を最小にできる方法を検討した結果、経済産業省所管の独立行政法人である日本貿易振興機構(ジェトロ)の運営する”JAPAN MALL”事業が最適でした。以下、ご紹介します。


JAPAN MALL(ジャパンモール)の概要

JAPAN MALLはジェトロが海外の主要ECサイトと連携し、日本の商品の販売を支援する仕組みです。対象商品は、食品・飲料、化粧品、日用品、生活雑貨等が中心となります。

事業及び取引の流れは以下の通りとなります。

出典:ジェトロ「海外におけるEC販売プロジェクト(JAPAN MALL事業)」
https://www.jetro.go.jp/services/japan_mall/

上図に示されている通り、三大障壁が回避・軽減されています。ジェトロのサポート内容を含め、改めて特徴を整理してみます。

①国内の指定商社やバイヤーとの取引となり、原則日本国内取引・納品で完了します。
②バイヤーの買い取り方式のために返品のリスクがありません
③ジェトロがECサイトと共同で販促を実施し、結果を貴社に報告*します。
サービスの利用料が無料です(サンプル代及び送料が発生する場合有り)。
➄商談にはジェトロ職員が参加し、必要に応じて逐次通訳者も同席します。

*ECサイトによっては情報提供が無い場合や、提供情報の粒度に差があります。


商談時のポイント

商談前準備
  1. 商談日時の決定後、相手のECサイトを閲覧し、競合商品情報を収集します。
    •  ・販売ランキング上位商品及び日本製品の仕様・価格・打ち出し方を比較します。
    •  ・レビューの数・評価・内容から、購買層や商品に対するニーズを探ります。
  2. 視覚に訴える商品説明資料を用意します。1-2分の動画も有効です。


商談時のやり取り
  1. 会社の紹介は短く、商品の説明に時間を割きます。
  2. 自社製品の特徴、国内の顧客層、実販価格や実績等を共有します。
  3. 売上増のため、どのようなサポートを求めるか、能動的に聞きます。
  4. 市場情報や顧客ニーズに関する質問をします。
  5. 次のアクション(見積・サンプル送付・次回会議日時等)につながるまとめをします。
商談後
バイヤーは多くの商談をこなすので、忘れ去られないように迅速にフォローアップします。

バイヤーは中国系が多いです。彼らの金銭感覚は鋭くスピード重視です。短期間での決断を求める傾向にあります。

JAPAN MALLの本年度分の募集は2月15日に締め切りましたが、4月中旬から下旬に2023年度の募集が開始されると想定されます。

参考:ジェトロ JAPAN MALLの紹介ページです。
https://www.jetro.go.jp/services/japan_mall/



Japan Street(ジャパンストリート)のご紹介

ジェトロは、よりBtoBに特化したJapan Streetというサービスも行っています。

このサービスは、企業・商品情報と商品画像等を提出するだけで、ジェトロの基準を満たす海外の有力バイヤーのみが閲覧可能な招待制オンラインカタログサイトに掲載され、常時紹介されます。参加料・商品登録料は無料です。登録できる商品は、無制限で、食品・飲料、日用品を始め、大型機械、原材料、コンテンツ(映像・音楽等)なども可能です。

以下は商品掲載から引き合いまでの流れです。

出典:Japan Street 募集要項 P5「商品掲載から引き合いまでの流れ」


注意点

①全バイヤーへ一斉公開されるため、国や地域を限定しての商品紹介はできません。
②見積・商談依頼がジェトロの支援範囲で、商談~成約の手続きは貴社が行います。
③バイヤーによっては国内取引にならない場合があります。

使用言語は原則英語ですが、日本語可能なバイヤーも登録しております。商談時はジェトロ職員が同席しますが、英語の場合は、希望により通訳者が参加します。Japan Streetは随時登録が可能です。

参考:Japan Streetの紹介ページです。
https://www.jetro.go.jp/services/japan_street.html



現地販売パートナー選びは海外取引の生命線です

海外取引で最重要かつ難易度が高いのは、信頼できる現地パートナーの確保です。日本人同士とは異なり、文化や宗教が異なる国の経営者と信頼関係を構築するのは時間を要します。しかも市場は日本から遠いので、パートナーへの依存度は高くなります。

私も海外駐在中に新規取引を始める際は、候補の会社に赴き、経営者と直接何度も面会し、経営姿勢を確かめ、基礎データ(販売力、資金力、実績等)を収集し、関係者に会社の評判を聞いた上で慎重に決定していました。複数の候補から絞り込むには相当の時間と、出張や調査に多大な経費がかかります。

Japan Streetは、各国のジェトロ事務所によって、実際に商流を持っている(卸業なら取引先に二次卸や小売店が一定数いる)信頼できるパートナーが選定されている、優れたプログラムです。

取引継続中に急に連絡が取れなくなった等のトラブル発生時は、ジェトロ海外事務所から支援が可能なようです。


海外展開に向けて必要な準備

海外展開は“新規事業”でもありますので、必要な準備を社内で行う必要があります。


海外取引を開始する上での社内準備

  1. 自社の海外事業の方針、目標、事業計画を明確にし、社内で説明して合意を形成します。
  2. 全社員に会議やメール等で、定期的に海外事業の進捗を伝え、協力と参画を求めます。
  3. 担当者(またはプロジェクトメンバー)を決めます。社内の分担や責任も明確化します。
  4. 注文数量増に備え、自社生産・調達力と原材料供給元の在庫や調達手番*1を確認します。
  5. 資金需要の増加に備え、金融機関に海外取引の開始を知らせ、良好な関係を保ちます。
  6. 社名・部署名の英語名称や英語版名刺・社用便箋の作成等、最低限の英語化を行います。
*1 調達手番:調達に必要な日数。リードタイム。


海外事業担当者の人選ポイント

語学が堪能で海外取引経験のある中堅の人材は少ないので、採用までに時間を要します。入社後に業務を覚える時間を考慮すると、むしろ商品企画・商品化計画・価格設定・販売等の事業系業務の知識、経験、実績のある既存社員を育成する方が確実です。その中でコミュニケーション能力が高く、当事者意識の強い人がいれば一層適しています。このような実績や能力は、新規事業開拓に必要な社内の協力を得るためにも必要になります。
外国語は最低限の読み書きができれば後は”慣れ”が重要で、必要に迫られれば身に付きますし、学校もあります。

先ずは取り組みやすい国内取引に近い海外ビジネスを始め、並行して担当者に語学や貿易実務を学んでもらい、次のステップに備えてはいかがでしょうか?


まとめ

今回は、国内取引感覚で貴社の商品を海外市場で“ストレスなく、安心・安全で経費をかけず”に販売する方法をご紹介しました。

これから海外ビジネスを始める方にとって重要なのは、先ずは取り組みやすい方法で、とにかく始めてみる事です。そして事業規模の拡大に伴い、貴社が経営資源を徐々に蓄え、直接関与する業務を、段階を踏んで拡大されてはいかがでしょうか?

もう春ですね。何か新しい事を始めるにはいい季節です。新しい一歩が将来の大きな事業の柱に成長する事も十分に考えられます。

皆様、世界で稼いでみませんか?

著者プロフィール

永田 俊博(中小企業診断士)

大手メーカーの事務機事業部門で、36年間海外事業に携わる。14年に及ぶ海外駐在時には、東南・南アジア、中国を中心とした地域の事務機販売部門を統括した経験を有する。地域販売戦略の構築、販売・マーケティング計画の策定・実行管理、新規販路開拓、販売組織の構築などを得意とする。

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