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中小企業が人事評価制度を整備するときのポイントとは?

人事評価制度を整備している中小企業はさほど多くないかもしれません。しかし、人事評価制度は中小企業の経営を後押しする機能が満載です。社員の成長、達成感の醸成、モチベ―ジョンの向上といった期待効果もあります。中小企業における人事評価制度のポイントを紹介します。

(掲載日 2022/12/23)

中小企業におけるこれからの人事評価制度

1 中小企業における経営課題


(1)課題は「人材」


企業活動において、経営資源は「ヒト」、「モノ」、「カネ」、「情報」などによって区分されます。2022年の中小企業白書によると、中小企業において直面する経営課題のうち「人材」を重要な経営課題と認識している割合が8割超と最も高く、経営資源のなかでも「ヒト」に対する関心が特に高いことがわかります。

重視する経営課題

出典:2022年版中小企業白書 第2章 企業の成長を促す経営力と組織 図2-2-16「重視する経営課題」


「ヒト」は、経験を重ねることや学習することによって成長します。また、個性や感情があるため多様性があり、画一的な機械にはない創造性や芸術性を発揮することがあります。特に経営資源が限られる中小企業では、従業員一人ひとりの能力開発を行うことや各種人事施策により従業員のモチベーションを高め、成長を促すことが重要です。


(2)厳しい採用環境


昨今は採用環境は厳しいため、正社員・パートタイムそれぞれ不足と感じている企業が多く、特に正社員では「建設業」、「運輸業,郵便業」、「医療,福祉」などでその影響が高くなっています*1。人手不足を感じる企業は、「新規の人材獲得が困難になっている」ことや「従業員の自発的な離職の増加」を挙げる企業が多くなっています*2。また、若年層の離職率は他の世代よりも高く、若い人材を採用しても長く続かず離職してしまうリスクも高くなっており、人材が定着する職場環境の整備も必要になっています。

*1 出典:労働経済動向調査(令和4年8月)の概況
*2 出典:「令和元年版 労働経済の分析 第Ⅱ部第1章 我が国を取り巻く人手不足等の現状」(厚生労働省)


労働者過不足判断D.I.の推移(調査産業計)

出典:「労働経済動向調査(令和4年8月)の概況」(厚生労働省)
第5図 「雇用形態別労働者過不足判断 D.I.の推移(調査産業計)」



(3)企業の対応


人手不足に対しては、求人募集時の賃金を引上げる、中途採用を強化するといった外部調達、定年延長や有期雇用の正社員化といった内部調達に加え、業務プロセスの見直し、従業員への働きがいの付与(フィードバックの実施等)といった業務の見直しによる対応を行っています。特に、業務の見直しや働きがいの付与は、労働時間の削減や既存従業員のモチベーションを高めるなど、生産性の向上も期待できます。既存従業員への働き掛けは、モチベーション向上のみならず従業員の定着やコミュニケーション活性化といった企業の活力に好影響を及ぼすことも期待できます。


2 人事評価制度の活用


(1)人事評価による働き掛け


既存従業員への働き掛けの一つとして、人事評価制度の活用が有効です。賃金の引上げや福利厚生の充実は一時的には有効であっても、長期にその効果を求めることは難しいとされています。しかし、仕事の達成感や上司やお客様からの承認等は従業員の仕事への満足度を継続的に高めるとされます。達成感や承認等は人事評価制度を活用することで実現が可能となるのです。

人事評価制度の活用により、従業員の達成感や満足度の向上が期待できます



(2)Z世代を理解


Z世代*3と言われる若者が数年後には会社の中核を担う世代になります。Z世代はSNS等で直接様々な情報を得たり気軽に相談できたりと、会社以外の情報などにも簡単にアクセスできます。さらに、デジタルネイティブで効率性を求めるため、タイムパフォーマンスを意識する傾向があるとされています。そのため、情報の公開によって会社の透明性を高めることや、目的を明確化した業務指示などが必要となってきます。また、成長意欲も高く、適切な動機付けで期待以上の成果も期待できます。これらはまさに人事評価制度に直結する内容です。

*3 Z世代とは、一般的に1990年半ばから2010年代生まれの世代をいう


(3)人事評価の機能


人事評価と聞くと多くの方は、賃金を決めるために使うものだと考えているのではないでしょうか。それも間違いではありませんが、それは人事評価制度の一側面しかとらえていないことになります。

人事評価制度は等級制度や賃金制度、適正な配置、教育・研修と連動するとともに、「上司や部下とのコミュニケーションを促す」「会社の目指すべき方向性を理解させる」「会社の価値観を浸透させる」といった日頃の人事マネジメントに関するものまで幅広い機能を持っています。

人事評価制度の機能と内容
機能
内容
社員への意識づけ会社の目指すべき方向性の理解や価値観を浸透させる
社員の育成社員に必要な能力を意識させ能力向上を促す
適正な配置評価結果に基づいて向き不向きを把握して適正な配置を行う
昇進・昇格優秀な社員に対して適切な役割を付与する
賃金の決定評価結果に基づいてメリハリのある昇給や賞与の支給を行う


(4)人事評価を活かす


中小企業において、人事評価制度をしっかり整備できている企業はそう多くないと思います。今までは賃金や賞与の決定のために、仕方なく行っていた面もあるかもしれませんが、人事評価制度の機能を改めて考えたときに、整備しない手はないと思います。では、どのように整備すればよいか以下でポイントをご紹介します。

人事制度の関係性

筆者作成


①経営理念や行動指針と連動した評価基準

人事評価制度は自社において期待する能力や行動そして成果が基準になります。そのため、本来なら人事評価制度は各社各様になるはずです。しかし、実際は他社でうまくいった事例や流行の制度を取入れて整備する会社も多いのが実態です。会社の規模・業種、歴史、働く人材そして組織文化などが異なれば評価すべき視点も異なります。

自社で大切にしているものや価値観は当然、経営理念が出発点になっていると思います。人事評価制度もその経営理念や行動指針とリンクしていることが大切です。そうすれば自社で大切にしているものや価値観に沿った人事評価制度になるはずです。

②コミュニケーションやフィードバックの仕組みを入れる

人事評価は単に評価して終わりではありません。これは賃金や賞与を決めるだけの目的であればそれで終わりとしてもよいかもしれません。しかし、会社としては従業員にモチベーション高く活躍してもらう必要があります。評価におけるコミュニケーションやフィードバックを適切に行う仕組みを入れることで、従業員の強みや弱みを明確化し、強みを伸ばす、弱みを改善する、といったアプローチが可能になります。そのことによって従業員の更なる成長が期待できます。

③挑戦や能力向上を促す

これからの時代は先が読めない時代であり、中小企業においてもイノベーションが必要だと言われ、実際イノベーションに取組む中小企業も多くなってきています。イノベーションの源泉は何と言っても「ヒト」です。そのため、従業員が失敗を恐れずチャレンジすることが必要になります。しかし、人事評価制度でその失敗を単にマイナスでしか評価しないと誰もチャレンジしなくなるでしょう。

これからの人事評価制度では、チャレンジ目標など高い目標を設定し、例え上手くいかなかったとしてもチャレンジしたことやプロセスを評価するなど、挑戦を促す人事評価制度である必要があります。そうすることによって、従業員が安心してチャレンジでき、失敗も許容していくことでさらに挑戦する組織風土が醸成されていくでしょう。

評価するだけでなく、コミュニケーションやフィードバックの機会を設けることも必要です



3 人事評価制度に絶対はない


人事評価制度は法律上整備しなければならないこともなく、また必ず入れなければならない評価基準や評価項目もありません。そのため、どのような人事評価制度であっても従業員と経営者が納得している制度であれば、それがその会社にとって最適な人事評価制度です。

企業規模が小さければ経営者の目が行き届きます。しかし、企業規模の拡大や多様な働き方の従業員が増加した場合等はそれまでの人事評価制度では十分機能しなくなる懸念があります。このように人事評価制度は一度整備して未来永劫使えるものではありません。企業を取巻く環境が変化した場合は当然見直していく必要があるのです。


4 一歩踏み出そう


今まで見てきたように、人事評価制度は様々な機能を持っています。いきなり全てを整備することは大変な労力と時間を要します。だからといって何もしなければ人事評価制度の機能を活かすことはできません。まずは自社でできるところから始めてみてはいかがでしょうか。例えば評価のフィードバックを行う、従業員に自己評価を行ってもらうなどできるところから始めてみませんか。その一歩が未来を変えるスタートです。

著者プロフィール

吉田 秀貴(中小企業診断士、特定社会保険労務士)

中小企業を中心に幅広い業種・業態の人事評価制度・賃金制度整備等の人事制度構築支援や人事労務コンプライアンス支援のコンサルティングに15年従事。コンサルティング実績は100社を超える。人事評価制度、労務コンプライアンス、ライフプラン、プレゼンテーション等の各種セミナー講師も行う。

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