助成金・補助金等、経営力UPの経営情報が満載!

専門家コラム

専門家コラム
会員登録すると、
新規会員登録はこちら
お気に入りに追加 シェアツイートLINEはてぶ

高齢化社会を追い風にする中小企業の進み方

高齢化社会が進む我が国において、高年齢者の働く機会の創出は大きなテーマです。それは中小企業もしかり。経験豊富な人材を迎えることは、新たなスキルやノウハウの獲得につながり、経営課題を達成する後押しにもつながります。高齢化の現状と課題、および対応策を紹介します。

(掲載日 2022/12/15)

高齢化の現状と課題、及び対応策

1.高齢化の現状と課題


(1)総人口の減少と生産年齢人口の減少


総務省統計局が2022年10月20日に公表した、2022年5月1日現在の人口推計確定値によると、総人口は1億2507.2万人で、2010年の1億2805.7万人から毎年減り続ける一方*1、65歳以上の人口は3624.9万人(全体の29.0%)と過去最高になり、また、75歳以上の人口も1905.8万人(全体の15.2%)と過去最高となっています*2

出典 *1 日本の統計2022、総務省統計局、*2 「人口統計2022年10月報」(総務省統計局)


国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(平成 29 年推計)」によると、2065年には総人口は8808万人になり、総人口に占める65歳以上の人口比率は38.4%になると推計されます(2020年国勢調査に基づく次期「日本の将来推計人口」は、2023年前半に公表予定)。

一方、生産年齢人口(15歳~64歳)は1995年の8726万人から減少に転じ、2015年には7728万人となり、2065年には4529万人になると推計されます。

図表1 老年・年少人口と生産年齢人口の推移(単位:千人)

出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成 29 年推計)」


(2)高年齢者の雇用対応


2021年4月1日に施行された「改正高年齢者雇用安定法」では、65歳から70歳までの就業機会を確保する為、以下の何れかの措置を講じる事が努力義務とされました。

・70歳までの定年引上げ
・定年制廃止
・70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)導入
・高年齢者が希望するときは70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度導入
・高年齢者が希望するときは70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度導入
 a. 事業主自ら実施する社会貢献事業
 b. 事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

一方、総務省統計局が2022年9月18日にまとめた資料によると、2021年の高齢就業者数は18年連続で増加、909万人と過去最多となり、就業率は約25.1%で前年同率、65~69歳は10年連続で上昇し50.3%となりました*3

出典 *3 統計トピックス(No.132 統計からみた我が国の高齢者‐「敬老の日」にちなんで‐)


また、厚生労働省の「高年齢者雇用状況等報告」(2022年6月24日)によると、高年齢者の就業確保対応状況は図表2に示した通りです(従業員21人以上の企業232,059社からの報告に基づく2021年6月1日時点の状況。中小企業:21人~300人。大企業:301人以上)。

66歳/70歳以上迄働ける制度のある企業は、それぞれ38.3%及び36.6%となり、2019年のデータ*4と比較し、それぞれ7.5%増及び7.7%増となっています。

出典 *4 令和元年「高年齢者の雇用状況」集計結果、厚生労働省


図表2 高年齢者の就業確保対応をしている企業の割合

出典:厚生労働省、令和3年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果(2022年6月24日)を基に筆者作成



(3)高年齢者の就労に関する課題


①高齢社員の考えている事と実体
定年・管理職定年を迎えて退社、転籍、配置転換等をされ、経験・技術が活かせなかったり、給与の大幅低下や権限縮小となったりする方が多くいるのが現状で、モチベーションの低下をいかに防ぐかが課題の一つとなります。

一方、「働ける内はいつまでも働きたい」と考える、現在収入のある仕事をしている60歳以上の方は約40%おり、75歳位・80歳位まで働きたいという方も含めると、収入のある仕事をしている方では約90%もの方が、就業意欲を持っています*5

しかしながら、労働力率(15歳以上の人口に占める労働力人口の割合)は、男性は25~59歳の5歳区切りの各層において95%前後(ここ数年、変わらず)、60~64歳において約86%(同、微増)、女性はそれぞれ約75%~87%(同、25~39歳で増加)、及び約62%(同、微増)であるのに対して、65歳以上になると男性は約35%、女性は約18%に激減します(男女とも、ここ数年微増)*6

出典 *5 2022年版高齢社会白書 第1章第2節 高齢期の暮らしの動向、内閣府、*6 年齢階級別労働力率の推移1968~2021年、総務省統計局


②若年層社員の考えている事
65歳以上の方と一緒に働きたいと回答した20~30代の社員は32%に止まり、約20%が一緒に働くことに否定的でした*7。年齢が両親以上の開きがある為、意識が合わないと決め込んだり、何を考えているのか分からないという思いがある事が原因と思われます。

出典 *7 「定年延長」に関するアンケート調査 旅行サイト「エアトリ」調べ


③企業の考えている事
高年齢者に対する企業の感覚は、一般的には以下が考えられます。

・新たな業務の習得に時間を要する
・体力的に無理が利かない
・技能・経験を教えることが不得意
・過去のやり方に拘っている

そのため企業の状況は、仕事の割振りが不十分、若年層社員との協業は困難と思い込んでいる、体力面の補完をする物理的・精神的対応が不足、若年層雇用がより重要と考えている、といった事が挙げられます。


2.課題に対する対応策


①高齢社員の対応策


高年齢者に期待される事は、幾多の困難を克服してきた多種多様な経験と能力です。従い、それらを十分に継承できる教える能力を身に付けることに加え、継承を現在の状況に適合させスムーズに行うと共に、今ある能力をさらに向上させる為に、新しい専門知識・技術を積極的に身に付けたりする事が必要になります。

また、新しい業務遂行の技術も取り入れながら、一緒に解決しようという姿勢を持ち、謙虚に学び働きかけるという積極性も必要と思われます。

②若年層社員の対応策


お互いに尊敬し合い補完関係にあると認識する事が重要です。そして、経験・知識・ノウハウが豊富な高年齢者からそれらを吸収し、短期で自分の力に出来るという積極的な心構えや、逆に高年齢者が分からない技術や業務対応方法を教えてあげたりすることも必要であると思われます。

③企業の対応策


厚生労働省では、「高年齢労働者に配慮した職場改善マニュアル~チェックリストと職場改善事項~」を作成しています。以下に示すチェックリスト(抜粋)の、8つの配慮カテゴリにおける各項目(5項目前後)について1(できていない)~5(ほぼできている)の点数付けを行い、点数が1~3の場合はこのチェックリストに書かれている「高年齢労働者に配慮した職場環境改善事項」を参考にし、職場の改善対策に取り組む事も一つの方法です。

図表3 高年齢労働者に配慮した作業負担管理状況チェックリスト

出典:厚生労働省 高年齢労働者に配慮した職場改善マニュアル~チェックリストと職場改善事項~を基に筆者作成



3.高年齢者活躍事例


経済産業省の2019年度「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選定された、(株)アクアテックの事例について、ポイントを紹介します。

当企業は、働く社員を一律に扱うのではなく、個々の状況に合わせた就業を可能とし、それにより社員の様々な能力を最大限に引き出すことで、会社を発展させた良い事例であると思います。就業者の高齢化が進み、就業者が徐々に少なくなっている中小企業において、大いに参考になる事例であると思います。


本社は大阪府大東市、1997年創業、資本金1千万円、従業員40名(内、高齢者30名)で、2020年2月時点の平均年齢は68歳の、小型チューブポンプ(液体を連続送液する機器)の開発、製造、販売を行っている会社です。

(1)ダイバーシティ経営の背景とねらい
小型チューブポンプの事業化の為、元大手電機メーカー技術者の現社長が起業しました。その後、製品領域拡大には既存人材だけでは専門性が不足し、組織や諸制度を整えていく必要に迫られてきました。

また、かつての優秀な部下の多くが、定年退職後は年金生活やアルバイトをしている状況を見て、かつての職場を中心とした機械系の専門知識や技術力を有するシニア人材の採用を続け、技術開発に重点を置いた経営を続けてきました。

(2)主な具体的取組み
①必要な専門性を見極め合致する人材を社長自ら声を掛け獲得

②年齢によらず、能力を最大限に発揮できる無理のない働き方を追求
・基本、週3~4日の雇用契約
・72歳定年、希望すれば75歳まで嘱託契約。その後も、勤務日数を減らし継続して働ける
・怪我や病気等で出勤不可時はPCを支給して在宅勤務

③社員が自律的に能力を発揮できる適材適所の配置と日常的なコミュニケーション
・数値目標等は設定せず、社員の自主性に基づき自由で発想力豊かな仕事をするよう促している
・毎日午後3時の「コーヒータイム」、定期的な社長との少人数での食事会等を開催

(3)成果
創業10年で売上1.6億円、社員数16名に拡大、2019年には売上5.1億円、社員数40名に成長しました。多くの国内外の著名な大学や民間研究機関からの小型ポンプの受注を伸ばすとともに、超小型燃料電池開発を始め、再生医療に関する細胞培養研究や、NASAの宇宙実験用の世界最小レベルのマイクロポンプの開発にも注力しています。

経済産業省 新・ダイバーシティ経営企業100選ホームページ(https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/kigyo100sen/practice/index.html#page01)に掲載された文書を加工して作成


まとめ


アメリカと違い移民政策をとらない日本は、高齢化が今後も着実に進んで行くでしょう。これに対処するには、高年齢者と若年層のお互いの尊敬と補完の精神が必要になります。また、高年齢者に対する物理的、精神的支援を行う事で、その優秀な知識と技能を、企業の発展に役立たせることができるとともに、次世代への継承もスムーズにできることと思います。

著者プロフィール

米倉早織(よねくら ときお)(米倉経営研究所 代表)

業務改善・経営革新(約5年間で部門売上3倍)、AI/RPA適用分野検討・導入支援、事業方針/計画策定と実行管理(誤差1%の項目)、部門評価(KPI)設計、データの正しい解釈方法、「武経七書」を活かした経営戦略立案、高齢者・外国人・障がい者・LGBTQの課題対応、セキュリティ(守る資産と守り方を明確にした施策策定・実施)

< 専門家コラムTOP

pagetop