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中小企業経営を後押しする「障がい者雇用」のかたち

障がい者を雇用する企業が年々増えています。雇用にあたっては課題も生じますが、一方で人材不足解決や職場環境改善の一助にもなり得ます。実際にwin-winの関係性を築いている中小企業も少なくありません。中小企業が障がい者雇用を進める際のポイントや成功事例を紹介します。

(掲載日 2022/08/02)

中小企業の障がい者雇用の意義

ある中小企業の風景


「データ入力終わりました」山田さんは上司の鈴木課長に報告した。

「お疲れ様です。いつも仕事が早いね、それに正確だし。本当に助かるよ」と上司の鈴木課長は返す。

「そんなことはないです。私はこの業務が好きなので」と少し恥ずかしそうな山田さん。

そんな山田さんを見ながら鈴木課長は「障がい者雇用で初めて山田さんを採用したときは正直心配だったが、今は来てくれて本当に助かっている。仕事は正確だし、何よりも彼女が誰に対しても明るく接してくれているおかげで、以前よりコミュニケーションが活発になり課内の雰囲気も良くなってきた」と考えていた。

障がい者雇用の概要


我が国の障がい者雇用の概要を見る上で欠かせないルールとして「障害者雇用促進法」という法律があります。同法は高度経済成長真っ只中の1960年に前身となる「身体障害者雇用促進法」の制定に始まり、1987年には現在の障害者雇用促進法となったことで、適用対象となる障がい者の範囲が知的障がい者、2018年には精神障がい者に広がりました。

法の目的は、障がいのある人が障がいのない人と同様に、その能力と適性に基づいて職業に就き、自立した生活を送れるようにするという「共生社会の実現」を大きな理念として掲げています。理念実現のため、同法は従業員を43.5人以上雇用する事業主に対し、障がい者を1人以上雇用することを義務付けています。この法定雇用率を満たさない事業主のうち常時雇用する労働者が100人を超える場合には1人当たり月額5万円の「障害者雇用納付金」が徴収され、あまりにも雇用率が改善されないと判断された場合には「企業名公表」というペナルティがあります。

次に、障がい者雇用の現況ですが、厚生労働省発表の「障害者雇用状況の集計結果(令和3年)」によると法定雇用義務のある民間企業に雇用されている障がい者の数は597,786人で、前年より19,494人増加し、20年連続で過去最高となっています。

また、注目すべき点として雇用者のうち、精神障がい者は前年比11.4%増と、特に伸び率が大きかったとあります。

出典:厚生労働省 令和3年障害者雇用状況の集計結果「民間企業における障がい者の雇用状況(1)実雇用率と雇用されている障害者の数の推移」


また、同省発表の「平成30年度障害者雇用実態調査」によると、企業が感じる障がい者を雇用する際の課題として「会社内に適当な仕事があるか」が最も多く、次いで「障害者を雇用するイメージやノウハウがない」という声が多くなっています。また、雇用伸び率の高い精神障がい者については「従業員が障害特性について理解することができるか」「採用時に適性、能力を十分把握できるか」といった職場内コミュニケーションや採用時の不安の声が多くなっています。

出典:厚生労働省 平成30年度障害者雇用実態調査「障害者雇用上の課題及び配慮について」


中小企業の障がい者雇用の現況


中小企業においても障がい者雇用は進んでいるものの、実雇用率については従業員数43.5~45.5人未満で1.77%と法定雇用率を下回っています*1。法定雇用率を満たさない事業主には、前述のとおりペナルティが課されますので、本来はこれを回避したいのですが、それでも雇用が進まない理由があります。

その一つとして「業務切り出しの難しさ」が挙げられています。多くの中小企業では従業員1人が複数業務を兼務していたり、専門性の高い業務も多く、障がい者が取り組みやすい業務切り出しが難しいと考えているというものです。

次に「費用の問題」があります。採用時の職場環境の整備や支援者*2の配置、雇用管理拡充等の負担がこれにあたります。その他、せっかく雇用しても長続きしない「定着面」にも課題を感じる中小企業は多いようです。

中小企業の障がい者雇用の課題解決


このような課題がある中、中小企業はどのように障がい者雇用を成功させていけばよいでしょうか。大手企業に比べてリソースの限られた中小企業で障がい者雇用を成功させるために以下の4点がポイントになると考えます。

①障がい者の強みにフォーカスする
②職場のリテラシー向上に努める
③就労支援機関と連携する
④助成制度を活用する


①障がい者の強みにフォーカスする

障がい者雇用では「できないこと」に何かと目が行きがちです。しかし、障がい者雇用を成功させるには「強み」にこそ解決のヒントがあると考えています。

例えば、冒頭の事例ですが、彼女はうつとADHD(注意欠如・多動症)で精神障害者保健福祉手帳を取得し、同社で初めて障がいをオープンにして就業を開始しました。同社では事前に配慮事項を確認の上「できること」について本人と話し合いを重ね、一つのタスクを集中して行うことが得意という強みを相互確認し、これまで誰がやってもミスの多かったやや複雑なデータ入力作業を依頼しました。その結果、彼女は他の誰よりも正確かつ迅速にその業務をやり遂げました。

かつて、同社ではできないことばかりにフォーカスして失敗した苦い過去があり、その教訓を活かし、彼女の障がい特性の一つであるADHDを「注意欠如だとデータ入力は無理」という先入観にとらわれることなく、正しく相互確認したことで、双方にとって好ましい結果になったと考えられます。


②職場のリテラシーの向上に努める

障がいに関する情報リテラシーの低さは配慮の欠如に繋がるばかりでなく、過剰な配慮にも繋がり、その結果障がい者の存在が職場の負担になってしまうことがあります。配慮は重要ですが、一方で業務をきちんと実施してもらうことも重要です。

そのためには時として毅然とした指導も必要でしょう。「配慮すべきはするが、指導すべきはする」指導の前提として正しい障がい理解が重要です。そのための取り組みとしては、障がい者の受け入れ時や定期的な研修の実施、個別マニュアル配布等が考えられます。


③支援機関と連携する

障がい者雇用においては、会社と障がい者の二者間だけでは問題解決が難しいことがあります。特に障がい者側は職制上の悩みがあっても、会社に相談することが自身の不利益にならないか心配し、相談できずに自分を追い込んでいく、というケースがあります。

ある職場では、障がいのある社員の業務負担軽減のため増員を進めていたところ、その社員の残業が極端に増え、体調を崩してしまったことがありました。本人に事情を聞いたところ「自分の働きが悪いので増員するのだと思い、不安になり無理をしてしまった」とその理由を語り、二者間のみのコミュニケーションの難しさを痛感したそうです。

これを回避する方法の一つとして、第三者たる支援機関と連携することが望ましいと考えます。これは、障がい者が相談できるチャネルを増やす目的だけでなく、企業側からの相談、専門家としての職場課題解決支援や研修実施等が期待できます。なお、下図は支援機関の一つ「障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)*3」の概要です。

出典:厚生労働省 障害者就業・生活支援センターの概要「雇用と福祉のネットワーク」


④助成制度を活用する

障がい者雇用にあたっては様々な助成制度があります。厚生労働省では、障がい者雇用時だけでなく、「施設等の整備や適切な雇用管理の措置」「職業能力開発」「職場定着措置」等に対し、各種助成金制度を設けています。詳しくは独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構または専門家等にご相談ください。

中小企業の障がい者雇用の意義


ここまで障がい者雇用についていろいろ見てきましたが、中小企業における意義はどこにあるでしょうか。法定雇用率の達成でしょうか、助成金等の経済的便益でしょうか。

もちろんそれらも意義の一つだとは思いますが、何よりも重要なことは法の理念にあるような「共生社会」を社内で実現することにあると思っています。中小企業の強みの一つは、社員間や経営者との距離の近さだと思っています。シームレスなコミュニケーションがとりやすい中小企業の環境は、障がい者の共生実現の一助となるだけでなく、中小企業側にとっても障がい者雇用が多くの企業が直面している人材不足解決や職場環境改善の一助ともなり得る「win-win」の関係が期待できると思います。

最後に、ある中小企業の障がい者社員が職場の雰囲気を変えた、という事例をご紹介します。

彼は誰に対しても丁寧で明るい挨拶を欠かさず、依頼される庶務業務を心から楽しんで取り組んでいました。その姿勢は、徐々に社内に浸透し、これまで挨拶をあまりしない社員の多かった職場内は挨拶が習慣化され、さらに社員間コミュニケーション機会が増え、最終的には社内で最も離職率の低い職場になったそうです。彼はこれについてこんなコメントをしています。

「僕は仕事も職場の皆さんも大好きです。そして、家に帰って職場であったできごとを家族に話すのが一番の楽しみなんです」

これらが少しでも皆様の障がい者雇用成功のヒントになれば幸いです。

*1 引用 令和3年 障害者雇用状況の集計結果
*2 支援者とは、障がい者の職場適応に課題がある場合に職場に出向いたり、職場に在籍する等して障害特性を踏まえた専門的な支援を行う等の障害者の職場適応に取り組む職場適応援助者(ジョブコーチ)等を指す。
*3 障害者就業・生活支援センター(なかぽつ):障がい者の身近な地域において、就業面と生活面の一体的な相談・支援を行う支援機関で、国と都道府県から事業を委託された法人が運営。一般企業で働きたい障がい者、障がい者の雇用に取り組んでいる若しくはこれから取り組みたい企業への相談・支援を行う。なお、略称「なかぽつ」は「就業」と「生活」の中にある「・」を、ぽつ」と読んでいることに由来。

著者プロフィール

中島 慎也(中小企業診断士)

大学卒業後、流通業、人材派遣企業を経て、外資系総合人材サービス企業にて勤務。専門は主に人事組織、労務管理、オペレーション構築等。人事評価制度や賃金制度構築・見直し、労務関連問題対応、ミドルオフィスのオペレーション改善等に関する経験・知見あり。中小企業診断士、社会保険労務士(有資格者)

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